榊原澄人 《É in motion No.2》[2013]

榊原澄人 の《É in motion No.2》は惑星の運行に似ている。

榊原澄人は北海道生まれ、長野在住の映像作家である。この《É in motion No.2》は2013年制作の11分59秒の映像インスタレーションで、最も榊原の意図に沿った形式としては円形のスクリーンに内側から投影される形式となるが、2013年から2014年に六本木の国立新美術館で開催されたDOMANI明日展では展示室の壁面を大きく使って投影されており、また、モニターで体験する場合は場面がゆっくりと右に進んでいくことになる。榊原によるとこの形式は日本古来の絵巻物を意識したものだと言う。
ここで語られる物語に始まりがあるとすれば、原初の混沌に稲妻が落ちて生命が発生し、生命の源とも言える海を経由して、榊原の生まれ育った北海道の静謐な景色に進む。Vimeoで体験できる一部抜粋はこの続きあたりから始まるが、世界には不穏な雰囲気が立ち込めはじめ、やがて次第に混沌へと飲み込まれていき、それが原初の混沌に立ち返る。この一連の大きな循環の中に、前転をする3人の子供のような小さな循環が組み込まれている。この子供達も注視するとズボンの色が変わっていることがわかるが、この先の場面で噴水を回りながら羽飾りをつけた姿から衛兵、ダンスをする人々、ハサミ…と姿を変えていく一団でより顕著なように、循環と変容は榊原の重要なテーマである。

この小さな循環が自転、大きな循環が公転ととらえると《É in motion No.2》での時間の経過は惑星の運動と共通するものがある。自分が初めてこの作品を体験した際は、時間を忘れてギャラリーの閉廊時間まで見入ってしまった。実は惑星にはもう一つ、忘れがちな運動があり、太陽系自体が秒速600kmの速さで宇宙空間を進んでいる。《É in motion No.2》の自転と公転に見入っていていたために忘れていた現実の時間の経過、それがこの太陽系自体の動きに対応するのではないだろうか。

--メタノート--
[2021/6/25初稿]ギルダ・ウィリアムズ「コンテンポラリーアートライティングの技術」を読み、アートライティングの実践として、インターネット経由で体験できるデジタルアートについて紹介する文章を書いてみる事にしました。もちろん、自分のような素人が文章によって批評的な価値を形成するというのは無理ですが、自分がアートと向き合う方法の一つとして、また、文章を読んで作品に興味を持っていただける方がいらしたら十分な意義があると考えていています。これから定期的に作品を紹介する文章を上げていきたいと考えていますが、実践のため、何度も手を入れるリビングドキュメントになるであろうことはご容赦ください。
最初に取り上げるのは榊原澄人の《É in motion No.2》ですが、いきなりギルダ・ウィリアムズのガイドに反して知己かつ作品をいくつか保持している作家の方です。それでも是非、多くの方に体験してもらいたいということで題材としています。

榊原さんの詳細については以下をご参照ください。
http://sumitosakakibara.com/

また、《É in motion No.2》はVimeoでは抜粋しか体験できませんが、全編にご興味があればDVDで販売しているかをギャラリーに問い合わせますのでお知らせください。


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