Damien Hirst《Idolatry》[2011]

Seditionはオーソライズされたデジタルアートを取扱うプラットフォームで、(現在は名前はないが)Damien HirstやTracy EminといったYBA(Young British Artists)などの著名なアーティストが作品を提供している。エディションを設定しての販売、サブスクリプションモデル、セカンダリーマーケットなどを備え、最も進んだデジタルアートのプラットフォームの一つだと言えるだろう。

《Idolatry》はDamien HirstのHD Imageで、色とりどりの蝶が美しい万華鏡のように並べられている。彼の作品で多くモチーフとなっている蝶ではあるが、残念ながら本作品には《Samsara》[2008]で感じたようなアートの強度は感じられない。《Samsara》では遠目で美しさに惹かれ、近づくとそれが夥しい数の蝶の死骸で構成されていることに気づく、その美しさと気味悪さが自分の中でせめぎあうのが強烈なアート体験であった。一方でこの《Idolatry》では物質である死骸がないため、もっとも感情を揺り動かす気味悪さは感じられない。それどころかコピーペーストで作成した平坦さがあるのみである。単純にアートをデジタル化することによってその魅力が失われる好例だろう。

もっとも、ギャラリーを経由せずにオークションで大きな収益を上げたことで有名なように、Damien Hirstは非常に戦略に富んだアーティストである。よって、この平坦さ、つまらなさも彼の戦略の一部の可能性もある。ただし、本作品のエディション数が10,000と設定されたうち、販売されているのは500以下で、セカンダリーの価格がプライマリーのそれを下回っている現状では、商業的には決して成功しているとは言えないのではないだろうか。

---メタノート---
Seditionで自分が所有している作品の一つです。投資的価値を求めているわけではないのですが、$50で購入して現在価格が$13なので、やはりそれほど人気はないのでしょう。このプラットフォームには著名なアーティストが多く参加しており、それは批評的価値が確立しているという点で長所ですが、個人的には彼ら/彼女らの作品をただデジタル化しただけというものが多い印象なので、今後、デジタルの世界から著名になるアーティストの登場を期待しています。

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