伊勢のおかげ横丁にふたこと、みこと

伊勢のとあるホテルに、旅行に来ている。
同居人のご両親が誘ってくれたので、ご厚意に甘えて、一緒に連れてきてもらったのだ。

長らく私は「牛に引かれて」と「お伊勢参り」が混ざっていた。
牛に引かれて訪れたのは"善光寺"であり、お伊勢参りは犬に託したものである。
文学部を卒業した割には知識が中途半端なのは、学生時代にどれだけ惰性で通っていたかがうかがえる。

そんなわけで、初めての伊勢観光である。
とはいえ観光ツアーではないので、同居人のご両親が行くところに引っ付いて行くだけだが。
そうして来たのは"おかげ横丁"という名の、いかにも名物品や土産物屋が並んだ場所だった。
横丁とつくとなんだか活気が溢れているような気持ちになるが、実際になかなかの盛況っぷりだ。
"おかげ横丁"に入る前から、赤福本店の店先には赤福氷の行列。
"おかげ横丁"に入れば、伊勢うどんの店に行列、メンチカツの店に行列、海鮮系を食べさす店に行列。
こんなに人間が居るのだと、しみじみ感じるほどに、行列の本数と人の多さが凄かった。

大人しく行列に並びながら、ひと昔前に「日本人は行列が好き」といった話題が上がっていたことを思い出す。
「なにかにつけ、大人しく行列に並ぶのは日本人くらいのものだ」と言った論旨だったように記憶しているのだが、外国人だってちゃんと並ぶのだから、大仰しい言い方なだけだろうな。

並んで食べた伊勢うどんは、グルメ漫画などで仕入れた前知識「コシがなく柔らかい」という通り、しっかりと茹でられてふわふわした食感だった。
しかし店の個性なのだろうが、やや量が少ないような気もした。
しっかり茹でて麺が膨らんでいるから少なめなのだろうか?それとも他の店でも食べてほしいから?

てこね寿司は桶に入ったマグロの漬け丼で、てこね=手こねの由来が見当たらないと思ったが、もしかして自ら手でこねて食べるのが正当な食べ方だったのだろうか。

赤福氷は、抹茶味のかき氷の中に赤福が埋まっているというモノで、暑いなか並んで食べただけあって、めちゃくちゃ美味しかった。
やはり暑いなかで食べる冷たいモノは、付加価値がつく。
氷に埋もれた赤福も、調べてみたら、お餅が冷えて硬くならないように改良しているらしい。
そう言われて食べると、純粋なお餅よりも、あんみつ等に入っているギュウヒに近い食感かもしれない。隠れた企業努力というものか。

前述したとおり、お伊勢参りに犬が組み合わさるのが昔ながらだと思うが、今日行った"おかげ横丁"では「来る福招き猫まつり」というのが開催されていた。
最近の伊勢は、犬派にはもちろん、猫派のことも考えているようだ。
様々な大きさと表情と色の招き猫が並び、自分で色付けができる体験もあった。
そんな沢山の招き猫を売る出店のなかに、なぜかブタの貯金箱が売られていたのが印象的だった。
福を呼び込むものなら何でもいい、という大雑把というか大らかな雰囲気は嫌いじゃない。

由来は分からないが、横丁の中央に置かれた太鼓を、お兄さんが一生懸命打ち鳴らし始めた。
まあ太鼓の音色には魔を祓う意味もあるというから、そういう事なのかもしれない。

横丁の騒がしさは、人を大らかな気持ちにさせるのかもしれない。
そう思いながら、まだまだ残暑というには厳しい陽射しに灼かれつつ"おかげ横丁"から立ち去るのだった。

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