見出し画像

さあ、俺たちだけのロケットを作るぞ。(ニュースの解説も少し)

 前回は、世界最大の固体燃料ロケット「M-V」の開発と、日本の宇宙開発機構「JAXA」発足までの歴史について簡単に解説した。

 M-Vロケットの開発に成功した日本が次に目指したのは「液体燃料ロケットの開発」と「ロケットの国産化」。
結論からもう先に言うと、日本はその後開発される「H-Ⅱ」ロケットによってその両方を達成するが、今回はそれがどう実現されていったのかをざっくり解説してこう。

 Nロケットの打ち上げを通じてアメリカからさまざまな技術を習得した日本が次に目指したのは、ロケットの大型化と国産化率の向上だった。そこで新たに開発されたのが「H-Ⅰ」だ。このロケットは1986年に最初の試作機打ち上げに成功して以降、1992年の9号機まですべての打ち上げに成功する。

 H-Ⅰの重要な点は、2段目エンジンの自主開発に成功したこと。「LE-5」と名のついたそれは、液体酸素と液体水素を推進剤とする液体燃料で、軌道上でエンジンを停止したのち、再点火ができるという優れた性能を持つエンジンだった。
液体燃料は保存や扱いが大変な燃料ではあるが、固体燃料と比べて打ち上げ時の制御がしやすいという大きなメリットがある。将来的にロケットの大型化を目指していた日本にとって、液体燃料の開発は何より重要だったことを考えば、LE-5の開発は大きな成果だ。

 ただ、課題もしっかり残っていた。ロケットの国産化率に関してである。

 H-Ⅰロケットは、以前のN-Ⅱロケットより国産化率が8割にまで上がってはいたが、肝心の1段目エンジンがアメリカ産になっていた。

 1段目のロケットにはN-Ⅱと同じアメリカのデルタロケットを使用していたので、これでは完全な国産化とは言えない。エンジンの一部が他国のものであるということは、有事の際や経済的なショックが起きた場合、H-Ⅰロケットはもう作れないということになる。他国の事情に左右されてロケットが作れない状況になるのはどうしても避けるたかったので、日本は次の課題として1段目エンジンの独自開発を掲げた。

 エンジンの開発を担っていた宇宙開発事業団は、LE-5を大型化した新たなエンジンを作ろうという目標のもと、開発を進めていった。
爆発や火災事故などさまざまな困難に見舞われていたが、1994年、ついに「LE-7」という名のエンジンが無事完成する。1段目に外装される固体燃料補助ロケットエンジンも国産化されたため、H-Ⅰの後継機である「H-Ⅱロケット」は、日本の念願だった純国産ロケットの目標をついに達成したのだ。

 ロケットの国産化が重要だというのは、実は最近のニュースにも現れてる。

 ロシアによるウクライナ侵攻が始まってから、ロシアは他国の作った人工衛星の打ち上げを全面的に中止する動きを見せた。英国政府が出資している衛生通信会社OneWebは、今年のはじめに通信衛星を打ち上げる予定だったが、ブリトゥンがウクライナ侵攻による経済制裁に加担したことでロシアは打ち上げを即刻中止。再開の目処が立たくなったOneWebは、やむを得ずライバルであるSpaceX社のロケットを使う契約をせざるを得なくなった。

 このニュースの何が重要かというと、人工衛星の打ち上げに他国のロケットを使っているという現状があること。
OneWebとSpaceXはともに衛星コンステレーションの構築を目指している企業だが、両者には衛星を打ち上げるにあたって決定的な違いがある。

 それは「ロケットを持っているか否か」。

 OneWebはあくまで人工衛星しか作ってないので、打ち上げの際はどうしても外部のロケットを使わざるを得ない。そうなったとき、今回のウクライナ侵攻のようにロケットの打ち上げをいきなり中止にされたら、OneWebのビジネスは立ち行かなくなる。ロケットがないと何も始まらないからだ。
 
 一方のSpaceXは、衛星だけでなくそれを打ち上げるためのロケットを自社で開発している。そして、そのロケットは純国産品だ。つまり、仮にウクライナ侵攻のような有事が起こっても、人工衛星の打ち上げを中止にされるような事態は起きることがない。

 ロケットエンジンの一部がロシア製であったら打ち上げが滞ることはあったかもしれないが、CEOのイーロン・マスク氏は、「ロケットエンジンの一部がロシア製のままでは有事の際に打ち上げができない」と再三危惧していた。その危機感の甲斐あってSpaceXはロケットの純国産化を達成し、今は有事の際でも問題なく打ち上げを進めることができている。
このようにロケットを国産化することはビジネスの面でも安全保障の面でも非常に重要なのだ。

 ロケット開発で国産化にこだわる国が多いのはなぜなのか?ということも、ロケット開発の歴史を紐解くとよく分かってくるので、今後のニュースもその視点で見ると面白いと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?