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自分は不安定じゃないと思い込みたい(一貫性バイアス)

※この記事は2022年3月6日にstand.fmで放送した内容を文字に起こしたものだ。


アガサ・クリスティという人物をご存知だろうか?
19〜20世紀のブリトゥンで活躍した推理小説作家だ。「アクロイド殺し」や「そして誰もいなくなった」などの作品で日本でも有名である。

そんな彼女が生涯で発表した長編小説の冊数はどのくらいか予想がつくだろうか?

一冊の長編小説を完成させるのに平均で2年ほどかかるとすると、調べるとアガサは85歳で亡くなっているので、およそ42冊ほどではないか?と思った人もいるかもしれない。実は、彼女の長編小説の冊数は66冊だ。意外と多い。

これについてとある研究チームが、同じ質問を抜き打ちテストで行った。多くの人は正解を知らなかったので、みんな推測で答える。
すると、解答の平均は51冊にだった。正解の66冊より若干少ない。

大事なのはここからだ。
この抜き打ちテストを行ったグループに、しばらく経ってから、正解の66冊を伝えたうえで、「あのとき、あなたは何冊だと予想していましたか?」と訊いた。
さて、この時の回答の平均は何冊になっただろうか?

理屈で考えれば、抜き打ちテストの時と同じ解答をするだろうから、この時の回答の平均も51冊で変わらないと思うのが自然だろう。
ところが実際に集計してみると、回答の平均はなんと51冊より多くなっていたのだ。
これはどういうことかというと、正解をあらかじめ伝えられたことで、「自分はテストの時も正解に近い予想をしていた」と思い込む人が多かったということだ。

人の脳というは自己を理想化することが大好きなので、一般に「昔から自分はそうだった」と思い込む傾向がある。これを「一貫性バイアス」と呼ぶ。人は、過去を歪めてまで性格や主義の一貫性を貫こうとする傾向があるのだ。

例えばジョギングが習慣になれば、昔からジョギングは好きだったと記憶を歪めようとするし、パスタを食べるようになると、昔からパスタは好きだったと思い込む。言い換えれば、脳は不定常や不安定である自分を嫌っているのだ。だから自分は常に定常で安定していると思い込む。これは趣味や習慣だけに限らず、贔屓のチームや歌手、技能や思考パターン、政治や宗教の信条などでも起こり得る。

「私が昔から言っているように、、、」とか、「ほら、だから言ったじゃない」とか、
「私は長年やってきたから、経験者の言うことはよく聞いて、、、」とか。こういう発言の裏には、往々にしてバイアスが潜んでいる。
もちろん、あくまでそういう傾向があるというだけに過ぎないので、すべての人に当てはまるわけではない。人によっては、本当に長年好きだったとか、長年経験してきた人もいるだろう。

ただ、せいぜい半年ほどしか続けていないのに、「私は経験者」とか「長年やってきた」と言い出す人が多いのも事実だ。そういう人の発言を鵜呑みにすると面倒なことにも巻き込まれかねないので、この人の発言は信用できるか?自分の過去を歪めて話していないか?その目利きを持つことは案外大事だ。

僕も知らず知らずのうちに過去を歪めて発言していることがあるかもしれない。バイアスの厄介なところは「自分で認識しづらい」ことだ。なのでこうして毎日喋って、自分の考えを常に発信すれば、いくらかマシになるとも思っている。
どこかで考えが変わることがあったとしても、こうして履歴を残しておけば、いつどうやって変わっていったのかが分かるし、記憶を歪めようとしてもすぐにバレるので、そういう行為を未然に防ぐこともできる。

時と場合によっては、歪めた方が賢い選択となることもあるかも知れないが、おそらくそんな機会は滅多にないだろうし、自分に嘘をつく行為は自分のためにもなるべく避けたいので、基本的には素直でいつつ、臨機応変に対応して行くことを目指すつもりだ。

参考文献:自分では気づかない、ココロの盲点 完全版 本当の自分を知る練習問題80 (ブルーバックス)

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