君主は歴史を知り、勝利を模倣せよ(『君主論』第14章)
※この記事は2022年1月21日にstand.fmで放送した内容を文字に起こしたものだ。
皆さんはこれまで、いろんな競争をしてきたと思う。
それはテストなのか、部活や習い事の試合なのか、コンクールなのか、会社での活動実績なのか分からないが、とにかく何かしらの競争をしてきたはずだ。
競争をしていると、当然勝ち負けがつく。実力に優劣をつけることで、その人の能力を判断できるからだ。
そして皆さんは、その競争を経験してきた中で、勝負に強い人、あるいはそういう集団を何度か見てきたと思う。それは例えば、遊び半分で始めたテストの点数勝負とかでもいい。そんな勝負にさえうまく勝ち続ける人を必ず一度は見てきたはずだ。
彼らが勝負に強い理由はきっといろいろあると思う。例えば、緊張感に包まれると実力を発揮しやすい性格だったとか、もしくはそういうメンタルを自然に作れる人だとか、自分が勝てそうな試合だけを意図的に選べる目利きの良さがあるとか。他にもきっとあるだろう。
そしてその中には、自分のメンタル云々に依らず、戦略を立てて勝ち抜いている人も存在する。戦略と一口に言っても、分野や環境によって違いはあるだろうが、およそ戦略で勝つ人間が何を考えているのかを教養として知りたい人はきっと多いはずだ。
そこで今回紹介したいのが、タイトルにもある通り、「君主は歴史を知り、勝利を模倣せよ」というもの。これは15世紀から16世紀にかけて活躍したイタリアの政治家ニッコロ・マキャヴェッリの著作『君主論』第14章に記されている言葉である。
彼の生きた時代はちょうどルネサンスの時期で、それまで神が中心だったヨーロッパ文化が、次第に、人中心の文化に変化して、古代ギリシアやローマの文化が復興していった時代だ。イタリアでは、豪族であったメディチ家が支配していたが、情勢の変化が激しくて、メディチ家のトップが次々と入れ替わっていた。そんな中、時の僭主だったロレンツォ・デ・メディチという人物に向けて献上されたのが、この『君主論』だ。
この本には、君主たるものがいかにして権力を維持して政治を安定させるかという手法が全26章にわたって綴られている。
今回紹介したいのは、そのうちの第14章の一部だ。
ところで、精神の訓練に関しては、君主は歴史書を読まなねばならない。そしてそのうちに卓越した人物たちの行動を熟慮し、戦争の中でどのような方策をとったかを見抜き、彼らの勝因と敗因とを精査して、後者を回避し前者を模倣できるように努めねばならない。そしてとりわけ、卓越した人物たちといえども、自分より以前に、賞賛され栄光を勝ち得た者がいれば、その人物の武勲や偉業をつねに座右の銘として模倣に努めたのであるから、それと同じようにしなければならない。
難しい言い回しもあるので簡単にまとめると、「君主たる者は、歴史の中で活躍した人物の業績を学んで、戦争に勝利した方法をパクれ」と言っている。
戦略で勝ち続ける人間がどうやって勝っているかという答えの一つはまさにこれだ。つまり、彼らは勝負をするに当たって、過去に戦争で勝利してきた偉人たちの勝ち方を徹底してパクっているということだ。一見拍子抜けするかもしれないが、実はこれば一番堅実な方法である。
ほとんどの人間は歴史を知ろうとしない。だから、過去の人たちと同じような考え方で勝負に挑もうとする。だとしたら勝つための一番手っ取り早い方法は、過去に勝負に勝った人と同じやり方をただなぞればいい。それだけで勝負は面白いほど有利に進められる。マキャヴェッリはそう言ってるわけだ。
なるほど確かに、テストでも試合でもプレゼンでも、勝負に勝つ人の行動は一貫している傾向がある。
例えばテストだったら、出題範囲を言われた後に、過去に出された同じ範囲のテストを入手して対策すれば、高得点が出せる可能性は高い。試合でも、対戦相手がどんな人物でどんな癖があってどんなことが得意なのかを事前に把握すれば、戦局を有利に進められる。
勝つ人がいつも一貫した行動をとっているのは、それをするだけで、大抵の相手を倒せることを知っているからだ。それは自信もあるのかもしれないが、それ以上に「勝ち方を知っている人の方が勝てる」という単純な原則を心得ているというのもあるのだろう。
僕はどちらかと言うと勝負にはいつも負けてばかりの人間だったから、この原則を学べて得した。資本主義社会で生きてる以上競争は避けて通れないので、「自分の足元を固めつつ、勝てる土俵を選んで、勝ち方を徹底してパクる」ことを教訓にしたいと思う。
参考文献:君主論 (岩波文庫)
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