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人工衛星からはじまる「宇宙インターネット」

※この記事は2022年3月31日にstand.fmで放送した内容を文字に起こしたものだ。


「人工衛星」という名前はおそらく皆さんも聞いたことがあるだろう。地球の周りを常に回っていて、両端に太陽光パネルのついたあの小さい宇宙機のことだ。
地球の軌道上には現在、通信、軍事、天気予報などの目的で稼働中の人工衛星が実に5000機以上存在している。僕らが普段GPSを使って位置情報を調べることができたり、天気予報を見ることができるのは、すべて人工衛星から送られるデータがあるからだ。

人工衛星は、地球からどれくらい離れて回っているかによっていくつか区分がある。高度2000km以下の軌道で回っているものを低軌道、次に高い高度で回っているのが中軌道、それより大きく回っているのが高軌道だ。
これらの区分を見てピンときた方もいるかもしれないが、人工衛星を軌道に乗せるのに必要な速度は、地球の重力を振り切るほど高速である必要がない。前回解説したロケットでは、宇宙空間に出るために「脱出速度」という速度で地上から飛ばさないといけないと話したが、人工衛星の場合は地球の周りを回るだけでいいので、速度はそれほど必要ないのだ。

高度の違いで衛星がどういう目的で使われているのかざっと説明すると、高軌道の衛星は地球の自転の動きと同期しているので、地上から見ると常に静止しているように見える。そのため、特定の地域に向けての通信や天気、偵察などを目的として利用されている。中軌道の場合は、主にGPSのような地球の位置情報を届けるタイプの衛星が飛んでいる。低軌道の場合は、国際宇宙ステーション(ISS)のような人間が宇宙空間で活動できるような衛星が飛んでいたりする。このように高度の違いによって目的は違うのだ。

さて、人工衛星というと、よくニュースでSpaceXのスターリンクミッションやonewebのブロードバンド通信について見ることがある。日本ではなかなか大きく取り上げられないが、これはすごいことなのだ。

さっきも言ったように、人工衛星は打ち上げる高度によって目的が違う。その一つが通信衛星だ。通信衛星は、地上で電波の届きづらい地域に向けて宇宙から電波を送ることで、ブロードバンド通信を可能にすることを主な目的としている。これまで、その通信衛星は高軌道に打ち上げられることがほとんどだった。ところが、高軌道に衛星を走らせると地球の自転と同期するため、特定の地域に向けてしか通信ができない。加えて、高度の高さから、通信には一定の遅延が生じてしまう。そうなると、日本やアメリカ、南アフリカといった高緯度地域からの通信には不向きなのだ。

そこで、ここ数年注目されているのが「宇宙インターネット」というアイデアである。これは、通信衛星を高軌道ではなく低軌道に配置して、遅延の問題を解決しながら、衛星をとにかくたくさん打ち上げて地球全土を覆うことで、どの地域にもインターネットを提供しようというものだ。

低軌道の衛星は、地球の自転と同期せず静止ができないので、1機だけでは通信可能な地域が頻繁に変わってしまい満足な通信は望めない。しかし、1機だけじゃなく何百機、何千機と宇宙空間に打ち上げて地球全体を衛星で覆ってしまえば、どの地域に向けてもインターネットを提供することができる。これが「宇宙インターネット」であり、その実現に向けて、今、着々と実績を上げているのがSpaceXやonewebという企業なのだ。

「宇宙インターネット」の構想は1990年代からすでに検討されていたのだが、当時は先進国でも十分なネット環境がなかったこと、衛星やロケットの開発にコストがかかりすぎるなどの理由で、ビジネスとして成立させることが難しかった。
ところが、ここ数年の間に電子部品の小型化と高性能化、さらに低コストが進んだことで、ロケットや衛星を開発するコストが格段に低くなったり、さらに再使用型ロケットの実用化も達成されたことで打ち上げコストも大幅に安くなった。結果、衛星を大量に作り、ロケットで何度も打ち上げることが可能になったのだ。

ところで、「宇宙インターネット」の実現によって全世界にインターネット通信ができるようになったら何がいいと思うだろう?

例えば、災害の激しい地域のデータを宇宙インターネットを介して自国で入手することができたら、災害対策のためのサービスを簡単に提供することができる。日本は地震や大雨などに常にさらされている災害大国なので、災害対策のノウハウは世界随一だ。そのノウハウを、例えばアフリカや北欧の地域などに向けて提供できれば、それだけで外貨を稼げる可能性がある。

災害だけではない。例えばエンタメでも、宇宙インターネットを介して特定の地域の文化や人口動態、経済状況などのデータを入手できれば、それらの地域に適したエンタメの提供も可能になる。若者の比率が多くて、東洋の文化に興味があるような地域があったとしたら、そこに向けて神社や歌舞伎、お茶などを題材したエンタメを配信したりすることもできる。今まではそうしたグローバルな展開は情報収集が大変だったが、宇宙インターネットで全世界にインターネットが提供されれば、それが簡単になる。つまり、今まで以上に全ての人がグローバルな活動をしやすくなるということだ。

特に日本は、人口が減って平均年齢が上がっている国なので、海外に向けてサービスや商品を届ける活動はますます重要になってくる。日本の文化をまだよく知らない地域も山ほどあるので、そこに向けて、食や工業、伝統工芸などを広めることができたら、日本の産業は大規模に発展する可能性が十分にある。だからこそ、通信衛星で地球全土を覆い、あらゆる地域にインターネットを提供する「宇宙インターネット」の動向は注目なのだ。

今後10年はあらゆる技術が融合して技術革新がより加速していく。そしてそれらの技術を世界中に向けて届けるための環境がすでに構築されてきている。今までは国内だけで活動してきた組織や個人も、「宇宙インターネット」による技術革新が起きたら、否応なしに世界に向けた活動に動き出すだろう。そういうことを想像しながら、これからの自分の活動を考えてみるのも面白いはずだ。

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