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ヒント

・・・

・・・ん・・・ん゛ん・・・

・・・ぐ・・・はぁっ・・・はっ・・・・は・・・

ふぅ・・・


まだ外は、薄暗い昨日を抱えたまま今日になりきれていない。こんな時間に目が覚めるのは久しぶりのことだった。真夏でもないのに体中がぐしょぐしょになっていた。

最後の試合は自分のエラーで終わった。同じシーンを何度も夢で見た。両手じゃ足りなくなるほど回数を重ねるころには、夢だってことも分かるようになっていた。ピッチャーが2-2に追い込んだ7球目。左足をマウントから上げるモーションシーンから始まる。

キンッ!

甲高い音と打球が自分に飛んでくる。

「今度こそ、とれるっ!」

次の瞬間、グローブをかすめたボールは無常にも自分の眼下を抜け遥か後ろに転がっていく。

相手チームの歓声がひときわ大きくなり絶望感だけがリアルな感触を伴い全身に纏わりついていく。この感触で夢だということを忘れ、鈍い感情が心を締め付ける。世界から徐々に色がなくなっていくのを感じながらその場に立ち尽くすことだけに精一杯だった。

ご丁寧にいつも夢はそこまで上演してから、現実世界に戻ることを許可してくれるのだった。しかし今日の上映作品は以前のそれではなかった。こんなことははじめてだった。

カーテンの隙間から外灯が差し込む薄明りの中、体中の水分を吸って重みの増した服を脱ぎ、丁寧に汗をぬぐって新しい服に着替える。ベットに腰をゆっくりと下ろし近くに置いていたミネラルウォーター飲み、ようやく気持ちがすこし落ち着いてきた気がした。

夢の内容はほとんど覚えていなくて、それでも体中に残る鈍いものが鮮明な感触として記憶されていて、覚えていないのではなくて、まるで思い出すことを本能が拒んでいるのではないか、そんな風にさえ思えた。

目をつむり、ゆっくりと呼吸をしながら自分の記憶の中に潜っていく。なぜか目を逸らしてはダメな気がして、恐るおそる、丁寧に、自分になにが起こっているのかを確かめたくて、自分自身に慎重に問いかけていく。

その時、急に左手が熱くなり血液の激しい流れをはっきりと感じ取れるような疼きだした。

「グゥ・・・ぬ・・・ッ!!!」

声にならない声を絞り出し、左手に鬼でも憑依したかのごとく右手で左手を押さえ必死に痛みが引くのをまつ。

・・・ズクッ・・ズクッ・・・ズク・・・ズク・・・

「・・・ハァァ・・・」

深い息を吐きだしまた汗だくになりながら、耳に残った不思議な音階だけが自分の身に起こったことを説明しようとしている気がしたのだった。

❝ デシッ ❞

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