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二回戦

今日の勇次郎のスライダーは走っていた。

あきらかにいつもの勇次郎とは別人だ。ネクストバッターズサークルから見てもその球威はプロのそれと遜色なかった。

「今日のあいつは、一味ちがう(ゴクリ)」

次のバッターである選手がバットを杖がわりにして膝をついて楽な姿勢をとりながら鋭い顔つきでシャッターチャンスをカメラマンに提供する白い線で丸と囲まれた場所、そう、ネクストバッターズサークル、そこにいる俺は思わずそう口ずさんだ。

ピッチャーがこちらにむかって投げたボールに手でもったバットを少しだけ当ててグラウンドに引かれた線の外側にボールをうまいこと飛ばし守ってる選手には直接お届けせずに地球とボールを最初に触れさせることで審判にファール!!と叫ばせる技、そう、チップ、それを駆使することでなんとかアウトを免れながらカウント2-3に追い込まれてからすでに7球を勇次郎に投げさせていた。

「今日のあいつも、凄い気迫だ(ゴクゴクリ)」

季節は6月。日本の季節によくある植物たちの性行為のために人間が顔を思い思いの布で覆いその性行為の欠片を体内に取り込むことをかたくなに拒む時期、そう、花粉症の人がツライ時期、そのあとにくるなんだか最近雨がよく降るね、そうだね桜も見納めやなぁ、はやく明けないかな、でも稲作のためにはこの時期がすごく大切なんだよ各地のダムでもこの時期がなかったら夏の水需要を賄えなくてぼくらが子供の頃は水不足だといって水道を捻っても水が出ない時間をもうけて対策したことだってあるんだだからとても大切なんだよ、そう、梅雨、それもあけすでに暑くなりはじめた夏日の太陽光を一身にあびて膝をついて待ち続ける俺はもはや飲む唾をからしつくしベンチに戻って木陰の下でちいさな保冷バックからキンキンに冷えて汗だくになったゲータレードを飲んで、うっひょーなんだこれむちゃくちゃ冷えてて最高たくさん汗かいた甲斐があるってもんよとおもっていたところからの記憶がほとんどないのであった。

目を覚めしたときには空は夕焼け色に色づき、チームメイトたちは帰り支度を終えていた。

試合は9-1で勝利し、チームで肩をくみ記念写真をとったあと、拡大して確認した自分の左頬にくっきりと野球ボールの縫い目が赤く残っていた、そう、ファールボールを被弾し気を失った俺はその日の夜は勝利の祝杯が鉄の味がした、そう、レバー、血もしたたる新鮮さがウリの専門店の味に舌鼓をうつのであった。

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