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数字はウソをつかないが、人間は数字を使ってウソをつく

※この記事は2023年9月に執筆した記事の再加筆記事となります。


Sucuri(ウェブセキュリティに特化した米国のIT企業)が「なぜWordPressはハッキングされるのか」という記事を公開しました。

その中で「Wordpressだから攻撃をされる訳ではなく、Webサイトの43%以上がWordpressで制作されていることが相対的にWordpressが積極的に攻撃されているように見えている」と述べられています。

現在は定かではありませんが、以前は”Wordpressはハッキングされやすい”や”Wordpressはセキュリティ上の問題がある”と言われることがありました。
実際にはWordpressが特段にセキュリティの問題を抱えている訳ではなく、普及率の問題からターゲットになるケースが増える・被害件数が多く報告されるというのが、先の言葉の真意となってきます。


普及している ≠ 被害に遭いやすい

同様の事例として「ホンダのDio(スクーター)は盗まれやすい」という俗説があります。
これはDioの普及率が高く、全国での盗難件数がNo1となった時期に言われる様になったようですが、実際には盗難台数と盗みやすさ(セキュリティの甘さや欠陥)が直接比例しているわけではありません。

普及率が高い場合、盗難のテクニックが広まると盗難台数増加に反映されやすい面はあるようです

これらはタイトルに書かれている「ウソ」というほど悪意のあるものではありませんが、実際の数字や相関関係に対して人間が誤解をしている一例といえます。

「数字はウソをつかない」とよく言われます。
正しい相関関係を以って得られた数的推測や、計算から編み出された数字には突飛な理論は存在せず整然としている、ということを端的に表した言葉です。

しかし、誤った計算・誤った相関関係を用いて導き出した数的な推測は、本来得られるべきだった結果とは異なったものとなります。
故意かどうかは別として、この結果は誤った計算を行った「人間によるウソ」となります。

悪党たちは数字で嘘をつく方法を既に知っている。
だから善良で正直な人々も、自衛のためにそれを学ばなければならない。

ダレル・ハフ - 1968

アイスが売れると人が溺れる?

この手の話題に上がりやすい例として、「海難事故件数とアイスの売上は比例している」というグラフがあります。
これは疑似相関(相関関係がありそうに見えるが実際には関係性が誤っている)という誤った統計の代表とされています。

アイスクリームがたくさん売れると、海や川で溺れる人が増えている、というデータがあります

実際には”暑くてアイスが売れる”という事実と”暑くて海水浴客が増え海難事故件数が増える”という事実がグラフで並んでいるだけなのですが、あたかも関係性があるように勘違いしてしまう、というものです。
数的な根拠を元にしていますが、それぞれは本来関係を持たず(もしくは隠れた相関を見落としており)、これを根拠にアイスの販売を規制しようとした場合は根も葉もない風評被害となります。

上記の様な疑似相関や都合のいい箇所を抜き出したグラフでの論理構築は、時にデマや陰謀論の根拠として使われることがあります。
ついつい「数字はウソをつかない」という言葉を盲信しがちですが、数的根拠が伴っている場合でも内容を精査しないと騙されてしまう危険性が潜んでいます

占いも”統計に基づいて”と言われることがありますが、統計手法が言及されたことはありませんね

ポジティブな数字の使い方

一方、ウソや騙しといった悪意的な数字の使い方とは異なり、相手にわかりやすく内容を伝えたりポジティブな印象で物事を伝えるといったこともできます。
おそらく最も有名な例はスティーブ・ジョブズのiPodにおける表現です。

彼がプレゼン中に発信したキャッチコピーは、数を用いたキャッチコピーのお手本となっています

iPodを世に出す時、スティーブ・ジョブズは「ポケットに1,000曲を」というコピーを発信しました。
実際には1,000曲入れようと思うと、当時普及していたMDよりも音質が悪くなりますし、普及率の高かったwindowsで使えない(後のシリーズは対応)という部分もネックでしたが、キャッチーで数的な説得力もあるこのコピーは伝説的な扱いを受けています。

また、とある航空会社のキャンペーンで”チケットの料金、全員10%OFF!!”というものがありました。
これを受けライバル社は”10人に1人、チケットがタダに!!”というキャンペーンを打ち出しました。

会社名は失念してしましたが、同じ費用負担の率でありながらセンスの光る取り組みだと思います

計算上どちらの会社も売上の10%をキャンペーン費用としてかけるものとなりますが、結果はライバル社の方が売上を伸ばすこととなりました
かける費用や全体で見た還元率が似通っていても、伝え方や数的な扱いを変えるだけで印象が全く違うものとなる一例です。

キャッチコピーの紹介の様になってしまいましたが、人を騙す・人に騙されるといったネガティブな形ではなく、ポジティブな形で数字を扱うためにも、数的センスを磨いておくことにはメリットがあると言えます。
基本的にどこまで計算や統計を行うかの差はあるにしても、数字と全く関わらない仕事は非常に稀なものだと思いますので、日常から意識していきたいですね。

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