今夜はサタデー・ナイト・フィバー
老人ホームでの楽しいエピソードを綴っています。
『お姉~さん””』
突然甲高い声で呼ばれる。
ユキさんは百二歳。男でも女でもスタッフを呼ぶときは「お姉さん!」って呼ぶ。
「お姉~さん””」は誰もが高い声を出すと真似できる。
だからいつもスタッフは
「た子さん、またユキさんが『お姉~さん””』」って呼んでるよ」
と、『お姉~さん””』の真似をする。
ユキさんは夢と現実の狭間で生きている。
寝て夢を見て起きてそして夢の続きを現実に見てまた寝る。
『お姉~さん””』・・・の次の言葉は大体夢の続きかトイレである。
「『お姉~さん””』 マッチ頂戴、マッチ」
「私はマッチ売りの少女かい?」
と、ボケてみて・・一人で笑う。 ;(´艸`)
「マッチですか?何に使うんですか?」
「早く此処に火を付けてよ~・・・ 仏壇にお線香あげるんだから」
「ああ、仏壇ね。放火するためじゃなくて良かった」
と、突っ込みを入れてまた一人で笑う。 (≧▽≦)
夜中に居室からまた『お姉~さん””』、『お姉~さん””』
と、呼ぶ声が聞こえて来た。
一人のスタッフが対応して戻ってきた。
「今夜のユキさんは凄いよ。興奮しちゃって・・・
娘がどうとかこうとか、怒ってて・・
ありゃあ当分寝られないね」
案の定『お姉~さん””』、『お姉~さん””』の呼ぶ声は続く。
どれどれ、どんな夢を見て、どれだけ興奮してるのか。
確認すべく居室に向かう。
「ああ、お姉~さん””、娘のよ~子は何処へ行った?
今、此処にいたでしょ?全くあの子は困ったもんだ。直ぐいなくなる。
今度見かけたらひっぱたいてやる。
お姉~さん、娘は何処へ行ったか知ってる?」
鼻息荒く訴えてくる。
「娘さんが何をしたんですか?」
「私を此処へおいて、これと一緒に出て行ったでしょ?」
そう言って、ユキさんは親指を立てて見せた。
久々に見た。親指を立てて「これ」とか言うの。
娘さんの彼氏の事らしい。
娘さんには失礼だけど、ユキさんは娘さんの彼氏にはあまり良い印象を持ってなかったんだなあと思う。
そんなユキさんの様子を見ながらまたまた私の記憶の扉が開いた。
中学の時「サタデー・ナイト・フィバー」という映画が流行った。
ビー・ジーズのヴォーカルのあまりに高い声を最初ラジオで聞いたときは太ったおばさんを思い浮かべた。
あの頃はYouTubeもGoogleも無かったから、どんな人達が歌っているのか分からなくて暫くそう思い込んでいたため、未だにその時想像した太ったおばさんのイメージは消えてない。
ユキさんは痩せたおばあさんだけど、甲高い声や、親指立てて「これが」「これが」と言うところがぶっ飛んでいて百二歳の底力を感じる。
そんな訳で夜勤明けの今夜は「ステイン・アライヴ」を目を閉じて、太ったおばさん、または痩せたおばあさんをイメージして聞いている。
「ステイン・アライブ」の和訳では
[Ah,Ah,Ah,Ah, Stayin'Alive ]の所を
生きているんだ生き残るのさ~ 生きていくんだよ~
必死で生きてる 必死で生きてる
生き生きしてなきゃ 生き生きしてなきゃ
などと訳されている。
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