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風の声

老人ホームでの楽しい出来事を綴っています。

困ったもんです。
サッシを開けてベランダへ出ちゃうんですよ。
「それなら鍵を付けましょうか。100円で売ってるやつ」
買って来ました。
「20cmくらい開けれれば換気もできるし、いいんじゃない?」
「どの居室に入るか分からないから、とりあえずユニットの部屋には全部付けましょう」
これならベランダには出られないでしょう。
今日もなんか窓の外を眺めながらカーテンいじったり、鍵を開けようとゴソゴソしてるな〜
でも、ストッパー付けたから大丈夫。

あれ、フクコさん部屋に居ないよ?
窓が開いてるわ。
まさか、ベランダへ出た?
うそ、うそ、此処行った。
この幅フクコさん通れるはずないでしょ?
でも、此処からかフクコさんは外へ出ていた。
焦っていたので私も何とか20cmから外へ出た。
フクコさんより少しスリムな私もようやく通れる幅だった。

施設のベランダを半周回ってた。
私を見るなりフクコさんが言った
「お〜い。何してる?」
そりゃこっちの台詞ですわ。

ベランダの手すりにつかまり、ニコニコとこっちを見てるフクコさんはまるで天国で久しぶりに会ったお母さんみたいな感じで何故か懐かしかった。

連れ戻して部屋に入ろうとしたら、20cm幅はやっぱり狭かった。
胸とお尻がつっかえて入らないじゃない。
なんで??
〜行きはよいよい、帰りは怖い〜♫
フクコさん、あなたの胸は特にふくよかなのよね〜
「もうっ! 出た時みたいに早く入って見せてよ」
と、胸とお尻を押し込んだ。

窓が開く幅は益々狭くなり15cm程になった。
これなら大丈夫か?
外から風が吹いて来て、ヒューヒューと歌っている。

天国のお母さん、私は元気にやっています。



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