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会話術:エピソードトーク編 プロの話を解剖してみた

さて、今回は実際のサンプルを見て考察をしていきたいと思います。

まずはこちらをご覧ください。

これはよしもとミュージック公式チャンネル上の「人志松本のすべらない話」のDVDの告知ですが、ここではアントニーさんのエピソードトークが公開されています。

エピソードトークといえば「人志松本のすべらない話」とすぐに思い浮かぶほど、タレントさんや芸人さん達のトークのスキルがキラリと輝く番組です。

アントニーさんもプロの芸人さんなので、やはり話の運び方、聞かせ方がうまい。今回はアントニーさんの話から、エピソードトークのコツを一緒に体感できればいいなと願います。

では、早速、Let's KAIBO!(注:ここからネタバレが含まれます)



ポイント1:検証済みのエピソード

アントニーさんは、何度かこのエピソードを誰かに話しているのでしょう。どこでうけるのか、なにがうけるのか、どうすれば伝わるのか、わかった上で自信を持って喋っている様子が、話の間(ま)からも見受けられます。

ポイント2:パッケージ化された話 

今回、アントニーさんが用意した話は一言でいえば「寿司」です。もちろん番組のために、話の運び方が整理されていて、一つの作品として仕上がっています。しっかりと整えられた話なので、スムーズに話し始めることができています。

ポイント3: ストラクチャーがある

音楽にイントロや一番盛り上がるパートがあるようにアントニーさんの話にも一定の構造が見られます。具体的に言えば、導入部分があり、ライズ(徐々にもりあがる部分)があり、そしてクライマックス、最後に私が「リリース」と呼ぶ、話の後日談や補足内容で話が完結しています。

ポイント4:コンテキスト(背景)を話す

「え~僕、まぁ、もともと父親がアメリカ人で母親が日本人。・・」

話したいことは「寿司」の話ですが、導入部分において、まず聞き手に自分についての説明をします。自分と聞き手の情報のギャップ(空白)を埋めることによって、これから話す内容の下地を整えます。この情報が後の話の理解度と感情の共有度につながります。

ポイント5:鍵となるコンポネント(要素)をおさえる

さらにアントニーさんはどの情報が自分のメインエピソードを理解してもらう上で重要な要素なのかを把握していて、しっかりとそれらをおさえています。今回のエピソードの鍵となる要素だけを簡潔なアウトラインにまとめてみます。

I 自分の家族構成(親が両方日本人の理由)

II 父親の職業(寿司職人)

III 好きな女の子とのデート(メインエピソード)

ポイント6:ショートエピソードを含める(上級技)

このトークの中でアントニーさんは鍵の要素の一つである自分の家族構成について少し時間を取って説明しています。その家族構成によって自分がどんな困った体験をしてきたのかを「外食の話」や「授業参観の話」などのショートエピソードを交えておもしろおかしく話しています。

ここで家族構成による体験談を詳細に語ることによって、のちのメインエピソードへの良い助走(勢い)となっています。構造上ではライズの部分にあたります。

ここで注目したいのは、これらのショートエピソードとメインエピソードが並行になっていること。ショートエピソードはメインエピソードとまったく関係のない話ではなく、それぞれのオチも並行であるといえます。要となるのはアントニーさんの家族構成によって引き起こされた困った体験談だということです。小さな並行したエピソードを連発することにより、最後のメインエピソードがすっと頭に入ってきます。だからこそ最後のオチがより輝いているのです。

ポイント7:ディテール(詳細)が話を鮮やかにしている

「・・・で母親が僕が五歳の時に・・・」「で、二つ下に弟がいるんですけど・・・」「ある時、まぁ三年前ぐらいなんですけど」「築地にお寿司デート行こうよ」

これらのフレーズには、数字や場所などの具体的な情報が含まれています。これらの情報がなかったとしても、話は成り立ちます。でもこの具体的な、細かい情報を含めることにより、聞き手に私が「イメージフック」と呼ぶものを与えています。簡単に言えば、話を頭のなかに映像として構築するための取っ掛かりです。イメージフックが適切な量あると、イメージがしやすくなりますし、伝えたいことがより正確に伝わりやすくなります。

ポイント8: 登場人物に喋らせる

話のダイナミックさを調整するための有効的な方法は、演じることです。演じるといってもプロの俳優や女優のように役に取り組むことではありません。ただ役割を演じるということです。子供に関することなら、その子供を演じて、その子の言った台詞をその子のしゃべり方を真似して言ってみる。ただその子がなにを言ったのかを説明するよりも、話に躍動感が生まれます。鍵は、話の登場人物に喋らせるです。アントニーさんも、登場人物である同級生たちや当時の自分に喋らせています。

「周りが、『あれ、なんだ?』って感じなんですよ」

「『アントニーの親ってどんなんなんだ』って期待するんですけど」

「『えっ』て、あの小学校低学年とかだったらみんな騒ぐんすよ」

『いや、あれおかしいでしょ。アントニーの親なの』

「でも高学年になってくると
みんなちょっと、『なんかある』って気使うんすよ」

『うわ、これはきたっ』
「『板さんおまかせで』って言ったんですよ」

実際に聞いてみると『』かぎかっこの部分でアントニーさんが声色を調節して役割を演じて話しているのがわかりますね。

ポイント 9:フレーズ(上級技)

私がアントニーさんがやっぱりプロの芸人さんだなって思うポイントは、話の節々で安定した笑いを取っている点です。おもしろいエピソードトークは、オチだけがおもしろい話も多い中で、アントニーさんのトークは、オチにたどり着くまでもおもしろい。たくさんのおもしろくなる要素が含まれています。その一つとしては、キャッチコピーのような耳に心に残るフレーズの使用です。どんなフレーズが用いられているか、ぜひアントニーさんのエピソードトークをもう一度注意して聞いてみてください。絶妙なフレーズが話に良いリズムを与えています。

ポイント10: オチ(クライマックス)

ショートエピソードなどのライズ部分で良い助走をつけて、メインエピソードに入り、そして最後のオチのフレーズが飛び出します。このエピソードの中で最も大切な一文です。打ち上げ花火でいうところの一番最後の一番大きい一発です。

繰り返しになりますが、このオチのおもしろさは、ここにたどり着くまでの行程に左右されます。ここにたどり着くまでの話の流れを大きく変えるなら、このオチの受け止め方も随分と違ってくるでしょう。一般的にオチには様々な想いが込められています。この心境を知ってほしい。このおもしろさを理解してほしい。このやるせなさを、怒りを、学んだ教訓を伝えたい。その伝えたい想いにたどり着くために、様々な情報の伝達が必要になってくるのです。

そして当たり前ですが、このオチはこのエピソードトークの一つの終着点です。ここが、弱すぎたり、あやふやになってしまうと、結局、自分の伝えたかった気持ちやメッセージまでもが不明確なものになってしまう可能性があります。自分の予想と大きく違う反応が返ってくる確率も高くなります。だからこそオチって大切なのです。

ポイント11: まったりタイム(リリース)

最後、オチの後に、スタジオが笑いに包まれる中、アントニーさんの姿勢が少し変わります。まるでここから話のフェーズが変わっていることを示唆しているかのようです。そう、話のクライマックスであるオチが終わり、話が徐々に終息していきます。この時点から、聞き手の方もオチがついたことが分かっているので、より自由にアントニーさんに話しかけています。そしてアントニーさんはそれに応答をしながら話を補足的内容や後日談でまとめて終わらせます。これが私の「リリース」と呼ぶフェーズです。どんなにおもしろい話でも集中して話を聞く時には一種のテンション「緊張」があります。それはワクワク感や期待感であったり、次はどうなるんだろうというスリルやドキドキ感であったりします。でもオチがくると、話し手も聞き手からその「緊張」から解放されて、もう少し自由なトークが始まります。

ポイント12: アプリケーション

ここには話上手な人のエピソードトークの特徴がたくさん含まれています。もちろん、アントニーさんが意識して工夫している部分と、無意識に自然とこういう話の構造になっている部分の両方があると思います。これらのパターンが身に付くには、やはりアウトプットが大切になってきます。本当に大切にしたい、エピソード。持ちネタとして持っておきたい自分に起こったエピソード。自分だけにとっておくのが惜しいエピソードなどがきっとあるはず。たまには、そういうエピソードを整理する時間を設けるのもいいかもしれません。


引用・参考につきまして

この度、引用・参考させていただきましたのはYoutubeチャンネル「よしもとミュージック」様にて2013年12月2日に公開されました「祝番組10周年突破記念!! DVD『人志松本のすべらない話 第24回大会完全版!!』」の告知動画です。https://www.youtube.com/watch?v=_iUx9rSKEhA&t=130s



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