黙祷


どぼんと、水に潜るのは、あまりに苦しいことなので、覚悟の決まらないわたくしは、ここまで、筆を取らずにきてしまった。なんとなく。逃げるが勝ちの世の中ですから、そういう事があってもいいと思う。のどかな光の中、煙る空気は、ゆるんだ春の池の底のようで。柔らかな土の中で丸々としたヤゴが蠢いている。生き物の吐息でやわら濁る水を、がばがばのむだけのんで、呑みこまれ、そのまんま、呆けていたい。午後の2時46分

わたしは、目を伏せ沈黙する。かつてあの時に思いをはせつつ、まざまざと蘇るのは、ヒリヒリとした触感だけ。無力さよ。暁方ミセイさんの花巻の詩を読んだ。あの詩が一番しっくりとくる。当事者にも傍観者にもなれなかった私は、今もそのどちらにもなれず、ただ、遠く聞こえる波音に、かつてと、あの日と、今を重ね、まだ歩いたこともない海辺を想う。

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