トスを上げるときは「ボールの下に入って、上げる方向に正対する」べきなのか??

今回も質問箱にいただいたものです。
「今年度から本格的にセッターを始めた小6男子」の保護者の方から、でしょうか。
・トスが割れるので「ボールの下に入る、体を上げる方向に向ける」練習をしたいのだが、家でできる練習は?
・「ボールの下に入る、体を上げる方向に向ける」練習は分けてやった方がいいのか?
・本人は「頭では分かっているができないのがもどかしい」様子
とのことです。

まず、 目的は「方向を正確にコントロールできるようになる」ことと解釈し、その前提で話を進めました。
なぜなら、「ボールの下に入る、体を上げる方向に向ける」練習をするということ自体に疑問があるからです。

「方向のコントロール」に必要なことは
①適切な位置でとらえる
②しっかり目標にボールを飛ばせる体勢を取る

と考えていますが、この2つは「ボールの下に入る」、「体を上げる方向に向ける」に似ているようでちょっと違います。

「ボールの下」とはどこ?

①適切な位置でとらえる=「ボールの下に入る」
と考えるのが普通だと思いますが、「ボールの下」とはどこでしょうか?
「ボールの中心の真下に体の重心がある」ようにすればいいのでしょうか?
その状態にあるということがやっている本人に分かるのでしょうか?
それが分からない人に「ボールの下に入れ」と言うことは有効なのでしょうか?
また、普通のオーバーパスは「体をやや前傾させて、ボールをオデコの前でとらえる」ものだと思いますが、この状態は「ボールの中心の真下に体の重心がある」とはかなり違います。
それでも「ボールの下に入る」ということをプレイヤーに求めるべきなのでしょうか?

「適切な位置でとらえられるように、しっかり移動しろ」という意味で「ボールの下に入れ」と言うのであれば、それを聞いた方がそういう意味で理解するのであれば、上手くいくかもしれませんが、いろいろ問題のある練習風景を目にしています。それは、

・「適切な位置」がどこなのか分かっていない
・「適切な位置」は状況次第で変わることを知らない
・「適切な位置」で捉えられたかどうかをやっている本人が感じられない
・「適切な位置」で捉えることよりも、そこへの移動のステップや体の向きなどを優先させるために無理が生じていて間に合わない
・「間に合わない」という判断を許さない

などですが、そのまま繰り返していても「ボールの下(適切な位置)とはどこか」は永遠に分からないかもしれませんね。

「体を上げる方向に向け」ればボールは正確に目標に向かって飛ぶのか?

例えば、セッターの右手をねらってパスをコントロールしたり、レフトのトスをネットから50㎝離れたところに上げたりすることをイメージしてください。ブレが10㎝以内になるように、体の向きを調節することができそうでしょうか?目標を10㎝ずらすために体の向きをどのくらい変えればいいのか想像できるでしょうか?「体の向きで方向がコントロールできる」というのはそういうことです。

つまり、ボールが飛ぶ方向は体の向きだけで正確にコントロールできるものではなく、腕の使い方によって決まるということです。 ボールが飛ぶ方向は、動画【フォーラム】セットのバイオメカニクス(後編)で説明されているように、「体の中心→ボール」を結ぶ線の方向になり、「ボールをとらえる位置」によって正確なコントロールができるということになります。

つまり、体の向きよりも「体の中心と目標を結んだ線上でボールをとらえる」ことが重要で、後はボールに向かって真っ直ぐ腕を伸ばして力を伝えれば、ボールは目標に向かって飛ぶことになります。 「体を上げる方向に向ける」のは、その方が「体の中心と目標を結んだ線上でボールをとらえる」ことがやりやすいかもしれないので、余裕があればそうしてもいいのですが、重要ではありません。 むしろ、目標とボールを結んだ線の後ろに回り込まなければならないために時間がかかり、また、体の向きを変えながらボールをとらえるためにとらえる位置が曖昧になるという大きなデメリットがあります。

そもそもセッターは、レフト方向を向いてクイックにもライトにもバックアタックにも上げられるようになる必要があり、「上げる方向に体の正面(または背中)を向ける」のは不可能になります。そのための基本となる感覚「体の中心と目標を結んだ線上でボールをとらえる」を最初から身につけるべきではないでしょうか?

練習としては、「どこでボールをとらえればどの方向に飛ぶか」をつかむために、徹底的に試行錯誤を繰り返すことですね。動画の「天使の輪」を体で理解するということですが、これは家でも4畳半くらいのスペースがあればできるかもしれませんね。

次にシンプルな練習としては、ネットから離れた位置から「レフトに正対してレフトに上げる・レフトに正対したままライトに上げる・ライトに背を正対させてライトに上げる・ライトに背を正対させたままレフトに上げる」というのをやります。原則として「遠い方に正対して、近い方へサイドセット」で行います。

重要なのは、「ボールの落下点に移動していくときに、『上げたいところにボールを飛ばすにはどこでとらえるべきか』を見切って、その位置に体を止める」ということです。どこに上げたいか、そのためには体をどこに持って行けばいいかをイメージしながら移動するわけです。その「イメージ」には「②しっかり目標にボールを飛ばせる体勢」つまり、「しっかり足場を安定させて体を止める」ということも含まれます。なので、①と②は分けることができないのです。

「間に合わない(自分がとらえたい位置まで体を持って行けない)」と判断したときは、アンダーやワンハンドに切り替えることも重要です。 「間に合う」というイメージができてくると、自分の限界のスピードで動こうとするようになるし、よりロスの少ない止まり方を探せるようになります。「機敏でない」と言われる選手は「自分が間に合っている状態」を知らないことが多く、それを知ってもらう練習をすると、限界のスピードで動いてくれるようになることがほとんどです。

ここまで、実は「サイドセット」を前提に書いてきましたが、指導者がそれを許さず「体を上げる方向に向けろ」と言われるかもしれませんね。その場合も「ボールに対してどんな位置で、どんな体勢を取れば、上げたいところに上げれそうか」をイメージして、その体勢になれるように体を止めることはできると思います。 やってはいけないことは 「ボールの下に入る」→「目標に向けて体勢を整える」→「目標をしっかり見る」→「トス」 というふうに何ステップも掛けてしまうことです。いくら時間があっても足りませんね。 しっかりイメージを作って、ワンモーションでその体勢へいけるようにしてください。

こちらも参考にしてください。 note「セッターのバックセットが割れます」 

なお、「サイドセット」については日本バレーボール協会から出ている「コーチングバレーボール」のp143「セットの動作原理」とp150「セッティングの練習方法」に基本として書かれています。


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