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非公表裁決/特許を受ける権利の譲渡に関連して受領する金員が「事業として」行われた取引の対価に該当するか?

大学教授が新薬の特許を受ける権利の譲渡に関連して製薬会社から継続的に受領した金員が、課税資産の譲渡等の対価に該当するかが争われた事案の裁決です。

事案を簡略化すると以下のとおりです。

①大学教授であった請求人の夫(A)が、製薬会社(B社)との間で、B社との共同研究により得られた発明に係る特許を受ける権利の持分を製薬会社に譲渡する旨の覚書を締結する。
②Aは、平成5年に、B社との共同研究の成果である免疫抑制物質(本件物質)の発明に係る特許を受ける権利(本件特許を受ける権利)の持分を製薬会社に譲渡する。
③本件物質の発明に係る特許が登録される。
④B社がC社との間で、上記③において登録された特許(本件a特許)の実施許諾契約(本件実施許諾契約)を締結する。
⑤AがB社との間で、B社がAに対して、「本件特許を受ける権利の譲渡並びに本件物質及びそれに関連する研究に対する一切の貢献の対価として」、本件実施許諾契約に係る契約金及び特許実施料の一定割合と本件物質に係る製剤の正味販売高の一定割合を支払う旨の契約(本件対価支払契約)を締結する。
⑥本件対価支払契約に基づきB社からAに金員が支払われる。

そして、問題となったのは、本件対価支払契約に基づいてB社からAに支払われた金員が「事業者」が「事業として」行った取引の対価といえるかということです。

ご存じのとおり、消費税法上の「事業」というのは、所得税法上の「事業」よりも広く解釈されていて、同種の行為を反復、継続、独立して行うものであれば、その規模の大小を問わないものと解されている(名古屋高裁金沢支部平成15年11月26日判決等)訳ですが、本件対価支払契約は単発的な契約であったことから、本件対価支払契約に基づいてB社からAに支払われる金員は、同種の行為を反復、継続、独立して行った取引の対価にも該当しないのではないかということです。

この点について、審判所は、以下のように、本件対価支払契約に基づいてAに支払われた金員は「事業者」が「事業として」行った取引の対価であると判断しました。

(イ) 本件対価支払契約の趣旨について
A 上記1の(3)のへのとおり、本件対価支払契約に基づいて本件共同研究企業から被相続人に支払われる金員は、被相続人が本件特許を受ける権利を譲渡したこと並びに本件物質及びこれに関連する研究に貢献したことの対価とされており、このことからすると、その支払は、被相続人による資産の譲渡及び役務提供に対する給付として、有償性、対価性を有するというべきである。
もっとも、被相続人(A)が本件特許を受ける権利を本件共同研究企業に譲渡した各時点において、その対価が被相続人に現実に金銭として支払われた事実はなく(上記イの(n))、また、本件共同研究企業は、被相続人が行う本件物質及びその関連研究に対し、奨学寄附金制度を利用しての支援を行っていたことからすると(同(イ))、本件対価支払契約に基づいて被相続人に支払われる金員は、被相続人が本件特許を受ける権利を譲渡したこと及び本件共同研究に役務を提供したことの直接的な対価そのものというよりも、当該各行為に基因し、これと密接に関連してされた給付とみるのが相当である。
他方、本件対価支払契約に基づいて被相続人に支払われる金員の額は、本件対価支払契約の締結時点では確定しておらず、以後、■■■■(B社)が■■■■■■(C社)から受領する契約金及び特許実施料並びに■■■■(B社)が日本国内市場で販売した本件物質に係る製剤の正味販売高に応じて算定することとされ(上記1の(3)のへの(D)) 、しかも、当該金員は、本件a特許が消滅するまでの間、将来にわたって継続的に被相続人に支払うこととされるなど(同(ハ)及び(ニ))、あたかも特許権の実施料の対価であるかのような金額の算定ないしは支払の形態がとられており、現に、被相続人は、本件対価支払契約の締結時から10年以上を経た平成23年ないし平成25年において、本件各金員をそれぞれ特許料の名目で■■■■(B社)から受領している。
B 以上によれば、本件対価支払契約は、■■■■(B社)と■■■■■■(C社)との間の本件実施許諾契約の締結等を経て、本件物質の発明に関する特許権が実施されることとなったことを機に、本件共同研究企業が被相続人に上記の特許権に準ずる権利を事後的に付与することとし、あるいは、当該特許権に準ずる権利を既に被相続人が有していたことを前提として、以後、■■■■(B社)が■■■■■■■(C社)から受領する特許実施料等の実績に応じて算定される金員を、本件a特許が消滅するまでの間、被相続人に継続して支払うとの趣旨で合意したものとみるのが合理的である。
(ロ) 被相続人の消費税法上の個人事業者該当性について
上記(イ)の本件対価支払契約の趣旨、対価として支払われる金員の性質及び取引の実態に照らせば、本件対価支払契約に基づいて対価の支払を受ける被相続人の権利は、特許を実施させる権利の対価のように、■■■■が受領する特許実施料等の実績に応じ、反復、継続して確定するものであるから、被相統人は、対価を得て行われる資産の譲渡等を反復、継続、独立して行っていたと認めるのが相当である。
したがつて、被相続人は、消費税法第2条第1項第3号に規定する個人事業者に該当するというべきである。

結論にはあまり違和感はないのですが、結論に至る論理構成にはしっくりとこないところがあります。

というのも、この裁決は、「本件対価支払契約に基づいて対価の支払を受ける被相続人の権利は、特許を実施させる権利の対価のように、■■■■が受領する特許実施料等の実績に応じ、反復、継続して確定するものである」ことを理由として、「被相統人は、対価を得て行われる資産の譲渡等を反復、継続、独立して行っていたと認めるのが相当である。」という結論を導いている訳ですが、対価の支払いを受ける権利が「反復、継続して確定する」としても、そのことから、当然に、資産の譲渡等を「反復、継続、独立して行っていた」という結論を導くことができるようには思えないからです。

Aが支払いを受ける金員と「特許を実施させる権利の対価」に類似性があるというのはよくわかるのですが、類似性があるというだけで、消費税法上の取扱いが同じになるという訳ではないですよね。

問題となるのは、Aに支払われた金員を対価とする「資産の譲渡及び貸付並びに役務の提供」が「事業として」行われたかどうかであることからすれば、Aに支払われた金員がどのような「資産の譲渡及び貸付並びに役務の提供」の対価であったのかを特定することが必要になるはずなのですが、この裁決は、その点を曖昧にしたまま、何となくそれっぽいことを書いて押し切ってる感じです。

もっとも、この裁決の事案についていえば、原処分庁が主張していたように、AがB社と共同研究を行い、その成果である発明に係る特許を受ける権利の譲渡をしたという行為が、反復、継続、独立して行ったものであったと認めることができそうですので、いずれにせよ、本件対価支払契約に基づいて支払いを受けた金員は、「事業者」が「事業として」行った取引の対価であるという結論にはなるのかなと思います。

なお、この裁決の事案に限らず、「事業者」が「事業として」行った取引の対価に該当するか否かというのは、その文言から一般的に想定されるよりも広く解釈される傾向がありますので、特に個人の方については注意が必要ではないかと思います。

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