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非公表裁決/ドバイ法人である請求人が日唖租税条約の「一方の締結国の居住者」に該当するか?

UAE(アラブ首長国連邦)のドバイ首長国内を本店所在地とする請求人が、日唖租税条約4条1項に規定する「一方の締結国の居住者」に該当するかが争われた事案の裁決です。

日唖租税条約が適用される「一方の締結国の居住者」とは、「一方の締結国の法令の下において、住所、居所、事業の管理その他これらに類する基準により当該一方の締結国において租税を課されるべきものとされる者」をいうと定義されているのですが、ドバイ首長国では、法人に対して課税をする旨の法令(ドバイ所得税命令及びドバイ所得税勅令)は存在するものの、その法令は、石油・ガス会社等の特定の機関以外の者に対しては、現実に執行されていないため、請求人は、ドバイ法人であったとしても、「租税を課されるべきものとされる者」には該当しないことになるのではないかが問題となったということです。

請求人は、法令上は課税の対象となる法人であるから「租税をかされるべきものとされる者」に該当し、したがって「一方の締結国の居住者」に該当すると主張したのですが、審判所は、以下のように、請求人は「一方の締結国の居住者」には該当しないと判断しました。

(イ) 本件租税条約は、一方又は双方の締約国の居住者である者に適用するとされており(第1条)、同条約第4条1における「一方の締約国の居住者」とは、別紙1の6の(3)のとおり、一方の締約国の法令の下において、住所、居所、本店又は主たる事務所の所在地、事業の管理の場所その他これらに類する基準により当該一方の締約国において課税を受けるべきものとされる者をいう旨規定されている。そして、本件租税条約の名称が「所褥に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国とアラブ首長国連邦との間の条約」であるように、本件租税条約を締結した目的の一つは、所得に対する租税に関する二重課税の回避であるという観点からすれば、一方の締約国の執行された法令の下において、課税を受けるべき者が「一方の締約国の居住者」に該当する。
(ロ) 請求人は、上記1の(3)のイの(イ)のAのとおり、UAEの法令により設立された法人であるので、本件租税条約第4条1に規定する「一方の締約国」はUAEであるところ、同Bのとおり、UAEでは、本件各事業年度において、同条約第2条1(b)に規定する法人税を課する旨規定した連邦法としての法令は存在しない。
また、上記1の(3)のイの(イ)のBのとおり、UAE本店が所在するドバイ首長国におけるドバイ所得税命令及びドバイ所得税勅令は、石油・ガス会社等の特定の機関等以外の者に対しては、平成29年12月末時点で現実に執行されておらず、それ以前についてもこれらの命令等が上記の特定の機関等以外の者に対し執行されていた事実を示すものはないこと及び請求人が上記の特定の機関等に該当すると認めるに足る証拠はないことからすれば、これらの命令等は本件各事業年度において請求人に対し現実に執行されていないと認められる。
(ハ)そうすると、請求人は、本件各事業年度を通じて、居住地国であるUAEにおいて本件租税条約第4条1に規定する「課税を受けるべきものとされる者」には該当しないから、同条1における「一方の締約国(UAE) の居住者」とならない。また、請求人は、日本において本店又は主たる事務所を有しない法人であるので日本の居住者ではないことから、請求人は、本件租税条約上、UAE及び日本のいずれの居住者でもないこととなる。
以上のとおり、請求人は本件租税条約第1条にいう「一方又は双方の締約国の居住者」に該当しないから、他の要件を検討するまでもなく、請求人に同条約は適用されないというべきである。

法令は存在するのに「現実に執行されていない」という状況がイマイチよく分からないのですが、裁決でも指摘されているとおり、二重課税の回避というのが租税条約の1つの大きな目的であることからすると、法令が存在しないのと同じように一般的に課税されない状況にあるのであれば、「租税を課されるべきものとされる者」ではないという判断は、やむを得ないのかなと思います。

因みに、日本貿易振興機構(ジェトロ)の「UAE税務ガイド」によると、UAEでも、2023年6月1日から、法人税が課税されることになるようですので、法人に関していえば、「課税を受けるべきものとされる者」として日唖租税条約が適用されることになるのだと思いますが、個人に対して課税される所得税はないようですので、UAEに居住する個人に関しては、引き続き日唖租税条約の適用はないということになりそうです。

あまり汎用性のある事案ではないかもしれませんが、ドバイに進出する法人や移住する個人というのはそれなりにいるはずですので、こういう問題があるということくらいは知っておいてよいのかと思います。

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