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非公表裁決/負担付贈与による取得は住宅ローン控除の適用対象から除外される贈与による取得に該当するか?

土地及び建物の贈与を受ける代わりに、当該土地及び建物に設定されていた抵当権の被担保債務を引き受けるという「負担付贈与」による土地及び建物の取得について、住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)を受けることができるかが争われた事案の裁決です。

措置法41条1項は、既存住宅の「取得(贈与によるものを除く。)」をしたことを住宅ローン控除の適用要件としているところ、「負担付贈与」が「取得」から除かれる「贈与」に該当するのかが問題となったということです。

この点について、審判所は、以下のように、措置法41条1項の「贈与」というのは民法上の「贈与」を意味し、民法上の「贈与」には「負担付贈与」も含まれるので、「負担付贈与」も住宅ローン控除の適用対象から除外される「贈与」に該当すると判断しました。

そこで、措置法第41条第1項に現定する「贈与」に負担付贈与が含まれるか否かについて検討すると、贈与については、民法第3編(債権)第2章(契約)第2節(贈与)において成立要件等が規定されている一方で、住宅借入金等特別控除に関する措置法の規定においてその定義がされていない。このように、住宅借入金等特別控除に関する措置法の規定は、贈与について、その意味内容を規定せず、民法の概念を借用しているところ、租税法規については、法的安定性を確保する必要性(すなわち、課税の要件や内容について、納税者の予測可能性を確保する必要性)があるから、措置法第41条第1項に規定する「贈与」は、原則として、民法上の贈与を意味すると解される。
そして、負担付贈与を規定する民法第553条は、贈与の成立要件等が規定されている同法第3編第2章第2節の中に位置しているから、負担付贈与は、民法上、贈与の一種とされている。また、措置法第41条第1項は、その文言上、単に「贈与」としか規定しておらず、同項その他住宅借入金等特別控除に関する措置法の規定中には、同項に規定する「贈与」から負担付贈与を除外する旨の明文の規定はなく、民法上、贈与の一種である負担付贈与について、措置法第41条第1項に規定する「贈与」から除くべき理由は見当たらない。以上によれば、措置法第41条第1項に規定する「贈与」には;負担付贈与も含まれると解するのが相当である。
そうすると、負担付贈与による取得である本件取得は、措置法第41条第1項に規定する既存住宅の取得に該当しないこととなる。

上記の判断だけをみると、尤もな判断をしたように思えるかもしれませんが、個人的には少し疑問を感じています。

というのも、措置法41条1項は所得税法の特例であるところ、所得税法上は「負担付贈与」が当然に「贈与」に含まれるとは理解されていないからです。

例えば、最高裁昭和63年7月19日判決は、所得税法60条1項1号の「贈与」には贈与者に経済的な利益を生じさせる「負担付贈与」を含まないという判断をしています。

この最高裁判決の事案では、納税者側が「負担付贈与」も民法上の「贈与」に該当するという主張をしていたのですが、原審判決(東京高裁昭和昭和62年9月9日判決)は、以下のように、「当該法条の実質的意義を考察し、その意義に照らして合理的な解釈をすべき」であるとして、その主張を排斥しています。

負担付贈与が私法上贈与の一種であり、所得税法60条1項1号の贈与について法文上負担付贈与を除外する旨の規定のないことは、控訴人ら主張のとおりであるが、租税法の解釈であっても、必ずしも法文上の文言のみにとらわれるべきものではなく、当該法条の実質的意義を考察し、その意義に照らして合理的な解釈をすべきものであるから、同条1項1号にいう贈与について、贈与者に経済的利益を生ずる負担付贈与を含まないと解することをもつて租税法律主義に反するとすることはできない。

また、所基通59-2は、「贈与名義による法人に対する資産の移転であっても、当該移転に伴い債務を引き受けさせるなどによる経済的な利益による収入がある場合」は、所得税法59条1項1号の適用はないと定めていますので、所得税法59条1項1号の「贈与」にも「負担付贈与」は含まれないと理解されていることになりますし、おそらく、所得税法40条や60条の3の「贈与」にも「負担付贈与」は含まれないという理解になるはずです。

もちろん、所得税法上の「贈与」に「負担付贈与」が含まれないからといって、当然に、措置法41条1項の「贈与」に「負担付贈与」が含まれないということにはならないのでしょうが、「法的安定性を確保する必要性(すなわち、課税の要件や内容について、納税者の予測可能性を確保する必要性)がある」という観点からすれば、所得税法の特例である措置法41条の「贈与」については、所得税法上の「贈与」と同じように理解すべきということになるのではないかと思えますし、少なくとも、「措置法第41条第1項は、その文言上、単に『贈与』としか規定しておらず、同項その他住宅借入金等特別控除に関する措置法の規定中には、同項に規定する『贈与』から負担付贈与を除外する旨の明文の規定はな(い)」という形式的な理由だけで、「負担付贈与」が住宅ローン控除の適用対象から除外される「贈与」に該当するという判断をすることはできないように思えます。

措置法41条1項の「贈与」の実質的意義に照らして、「負担付贈与」が含まれないと解すべきであるかどうかという点については、正直なところ、よく分からないのですが、贈与の対象となる土地及び建物に設定された抵当権の被保全債務を引き受けることを条件とした「負担付贈与」は、その被担保債務相当額での売買と殆ど変わりがありません(この裁決の事案の「負担付贈与」についていえば、贈与の直後に、請求人が金融機関から新たに借り入れをして、抵当権の被担保債務を弁済していますので、売買代金を売主に支払う代わりに、売主の債権者に支払った売買契約と全く変わりがありません。)ので、そのような「負担付贈与」を住宅ローン控除の適用対象から除外すべき積極的な理由はなさそうな気がします。

という訳で、個人的には裁決の判断に疑問を感じているところもあるのですが、実務的には、住宅ローン控除の適用を受けるためには、「負担付贈与」ではなく、借入金相当額で売買するという旨の「売買」にすべきということになるのだと思います。

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