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非公表裁決/台湾の土地増値税は外国税額控除の対象となる外国所得税に該当するか?

請求人が台湾の土地の譲渡により台湾で納付した土地増値税が外国税額控除の対象となる外国所得税に該当するかが争われた事案の裁決です。

実は、平成14年に全く同じ論点について判断した公表裁決がありますので、非公表裁決としてご紹介する意味はあまりないのですが、論点としては面白そうでしたので、この機会に取り上げさせて頂きました。

外国税額控除の対象となる外国所得税の範囲については、所得税法施行令221条で以下のように定められています。

1 法第95条第1項(外国税額控除)に規定する外国の法令により課される所得税に相当する税で政令で定めるものは、外国の法令に基づき外国又はその地方公共団体により個人の所得を課税標準として課される税(以下この章において「外国所得税」という。)とする。
2 外国又はその地方公共団体により課される次に掲げる税は、外国所得税に含まれるものとする。
一 超過所得税その他個人の所得の特定の部分を課税標準として課される税
二 個人の所得又はその特定の部分を課税標準として課される税の附加税
三 個人の所得を課税標準として課される税と同一の税目に属する税で、個人の特定の所得につき、徴税上の便宜のため、所得に代えて収入金額その他これに準ずるものを課税標準として課されるもの
四 個人の特定の所得につき、所得を課税標準とする税に代え、個人の収入金額その他これに準ずるものを課税標準として課される税

他方で、台湾の土地増値税の課税標準は、実際の譲渡所得又は収入金額ではなく、以下のような算定式によって算定されることとされているようです。

そのため、原処分庁は、台湾の土地増値税は、上記の所得税法施行令221条1項及び2項各号のいずれにも該当しないとして、所得税等の更正処分をしました。

これに対して、請求人は、台湾の土地増値税の課税標準は土地の値上がり益(いわゆるキャピタルゲイン)に対する課税であって、我が国の譲渡所得に対する課税と基本的に変わらないから、所得税法施行令221条1項又は2項4号に該当すると主張したのですが、審判所は、以下のように、外国所得税には該当しない旨の判断をしました。

(イ) 我が国の所得税法における譲渡所得に係る所得税の課税標準は、譲渡所得に係る総収入金額からその資産の取得費及び譲渡に要した費用を控除し、その残額の合計額から特別控除額を控除した金額、すなわち個人が譲渡により実際に獲得した利得から算出した金額を課税標準とするものであるのに対し、本件土地増値税の課税標準は、上記1の(3)のニのとおり、①土地移転現値総額から、②物価指数調整後原地価総額及び③改良土地費用を控除した額であり、個人が実際に獲得した利得に関わりなく、台湾当局が評定した譲渡時の本件土地の地価(評価額)から台湾当局が前回(1964年)評定した本件土地の地価(評価額)に物価指数により調整を加えたものを控除し、更に支出した改良土地費用を控除した金額を課税標準とするものと認められることから、本件土地増値税は、我が国の譲渡所得に係る所得税と本質的に同一の税とは認められない。
つまり、本件土地増値税の課税標準は、本件譲渡に係る実際の譲渡収入金額を課税標準の基礎にしていないこと、譲渡人が当該譲渡をした際に支出した仲介料等の諸経費を控除しないことからも、その課税標準は我が国の所得税法における譲渡所得に係る所得税の課税標準とは異なるものであることが明らかである。
そうすると、本件土地増値税は、台湾当局により課された税ではあるが、およそ個人の所得を課税標準としていない税であり、所得税法施行令第221条第1項に規定する外国所得税には当たらないものと認められる。
(ロ) なお、所得税法施行令第221条第2項第4号は、上記1の(2)のホの(ニ)のとおり、個人の特定の所得につき、所得を課税標準とする税に代え、個人の収入金額その他これに準ずるものを課税標準として課される税も外国所得税に含まれると規定しているが、本件土地増値税の課税標準は、上記(イ)のとおり、個人の収入金額その他これに準ずるものを課税標準としているものとは認められないことから、本件土地増値税は、同号に規定する外国所得税には該当しない。

平成14年の裁決がある訳ですから、審判所としては、当然にそれと同じ判断をすることになりますよね。

なので、請求人が本気で争いたかったのであれば、裁決を待たずに取消訴訟を提起すればよかったのではないかという気はします。

因みに、平成14年の裁決の事案も取消訴訟が提起されているのですが、当初申告要件を充たしていなかったことを理由に請求が棄却されていて、台湾の土地増値税が外国所得税に該当するかどうかについては判断されていません(福岡地裁平成16年3月30日判決)。

では、取消訴訟において外国所得税に該当すると認められる可能性があるかというと、なかなか難しそうではあるのですが、少なくとも、箸にも棒にもかからないという訳ではないような気はします。

というのも、「台湾の税制改革による不動産市場の影響」という論文によると、台湾では、不動産を譲渡した場合、土地増値税とは別に不動産譲渡所得税も課されるようなのですが、不動産譲渡所得税の課税標準を算定する際には土地増値税の課税標準が控除されることとされているようですので、土地増値税の課税標準が不動産の譲渡所得の一部を構成するものと理解されているように思えますし、ニッセイ基礎研究所の調査月報の「開発利益の還元(台湾の土地制度を中心に)」というレポート日本不動産学会誌の「中華民国(台湾)における土地税制‐土地保有税を中心に‐」という論稿によると、少なくとも1990年頃までは土地増値税の課税標準は実際の譲渡価格(収入金額)を基礎としていたようですので、その後の改正があったとしても、課税標準は譲渡価格(収入金額)に準ずるものであると言える可能性もあるように思えるからです。

いずれもGoogleで検索して引っ掛かった情報に基づく推測に過ぎませんので、実際に取消訴訟で争うとすれば、台湾の税制についてかなり突っ込んだ検討をする必要はありそうですが、その結果によっては、それなりに説得的な主張を展開できる可能性はありそうな気はしました。

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