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非公表裁決/特定外国子会社等が事業年度終了間際に優先出資証券を償還した場合の普通株主の課税対象金額は?

優先出資証券と普通株式を発行していたケイマン諸島のSPCが、その事業年度の終了間際に優先出資証券の全てを償還した場合に、そのSPCの普通株主の課税対象金額を算定するにあたって、適用対象金額に乗ずべき請求権勘案保有株式等割合(発行済株式に占める請求権勘案保有株式等の割合)が何%になるかが争われた事案の裁決です。

昨年の11月に日経新聞で報道されていたみずほ銀行に対する課税処分の事件ですね。

まず、問題となった条文(平成29年改正前のもの)を見ておきましょう。

措置法66条の6第1項が、課税対象金額について、「適用対象金額のうちその内国法人の有する当該特定外国子会社等の直接及び間接保有の株式等の数に対応するものとしてその株式等の請求権・・・の内容を勘案して政令で定めるところにより計算」すると規定しているのを受けて、措置法施行令39条の16は、以下のように規定しています。

(内国法人に係る特定外国子会社等の課税対象金額の計算等)
第39条の16 法第66条の6第1項に規定する政令で定めるところにより計算した金額は、同項各号に掲げる内国法人に係る特定外国子会社等の各事業年度の同項に規定する適用対象金額に、当該特定外国子会社等の当該各事業年度終了の時における発行済株式等のうちに当該各事業年度終了の時における当該内国法人の有する当該特定外国子会社等の請求権勘案保有株式等の占める割合を乗じて計算した金額とする。
2 前項及びこの項において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 請求権勘案保有株式等 内国法人が直接に有する外国法人の株式等の数又は金額(当該外国法人が請求権の内容が異なる株式等を発行している場合には、当該外国法人の発行済株式等に、当該内国法人が当該請求権に基づき受けることができる法人税法第23条第1項第1号に規定する剰余金の配当、利益の配当又は剰余金の分配(以下この条において「剰余金の配当等」という。)の額がその総額のうちに占める割合を乗じて計算した数又は金額)及び請求権勘案間接保有株式等を合計した数又は金額をいう。

つまり、課税対象金額は、適用対象金額に特定外国子会社等の事業年度終了時点における請求権勘案保有株式等割合(発行済株式に占める請求権勘案保有株式等の割合)を乗じて計算することとされているということです。

そうすると、この裁決の事案のように、SPCが事業年度の終了間際に優先出資証券の全てを償還してしまっていた場合、SPCの事業年度終了の時点では普通株主である請求人しか株主が存在しない訳ですから、請求人の請求権勘案保有株式等割合は100%ということになってしまいそうです。

原処分庁も、請求人の請求権勘案保有株式等割合は100%であるとして課税処分を行いました。

しかし、これは請求人としては堪ったものではありません。実際には、SPCの利益は優先出資証券の償還によって吐き出されていて、請求人が剰余金の配当等によって回収することができるものではないからです。

スキーム設計のミスと言ってしまえばそれまでですが、外国子会社合算税制の趣旨からすると、かなり違和感のある課税ではないかと思います。手続要件の問題であれば兎も角として、実体要件の問題でそのような課税がなされることについて、請求人が納得し難いというのは良くわかります。

とはいえ、条文には「事業年度終了の時」と明確に記載されてしまっているのに、何をどのように争ったのか?ということになるのですが、請求人は、以下のように、措置法施行令39条2項1号の「当該外国法人が請求権の内容が異なる株式等を発行している場合」というのは、事業年度終了の時に発行している場合だけでなく、事業年度中に発行していた場合も含むという主張をしたようです。

 「請求権の内容が異なる株式等を発行している」基準時点を如何に解すべきかについて措置法施行令第39条の16第2項第1号は時点を明示しておらず、そのあり得べき解釈が複数ある以上、厳密な文理解釈としては、字義どおりに、基準時点を特定していないと考えることを基本とすべきであり、その場合、「発行している」は、算定時点で償還済の状態も含むことになる。
 また、仮に、時点を特定すべきであるとしても、措置法施行令第39条の16第2項第1号の規定は、請求権勘案保有株式等について、保有株式の数そのものと、当該保有株式に適用対象金額に対応する剰余金の配当等に係る請求権の割合を乗じる旨を規定し、両者が異なり得る場合を想定しつつ、そのような場合を「請求権の内容が異なる株式等を発行している場合」と特定することで、請求権を勘案することとしていることからすれば、「発行している」の時点としては、「事業年度中」と解するのが、文脈上、妥当である。

うーん、これだけだと少し分かりにくいですね。
要約の問題なのでしょうが、「『請求権の内容が異なる株式等を発行している』基準時点を如何に解すべきかについて措置法施行令第39条の16第2項第1号は時点を明示しておらず」という部分が言葉足らずな気がします。

措置法施行令39条1項の「事業年度終了の時における・・・請求権勘案保有株式等」の「議決権勘案保有株式等」を措置法39条2項1号の定義に置き換えると以下のようになる訳ですが、これを見ると、「事業年度終了の時における」という形容詞句は、文法的には太文字の部分にしか係らない(「当該外国法人が請求権の内容が異なる株式等を発行している場合」には係らない)ことから、「当該外国法人が請求権の内容が異なる株式等を発行している場合」に該当するかどうかを判断する時点については明示されていないということでしょうか。

事業年度終了の時における・・・「内国法人が直接に有する外国法人の株式等の数又は金額(当該外国法人が請求権の内容が異なる株式等を発行している場合には、当該外国法人の発行済株式等に、当該内国法人が当該請求権に基づき受けることができる法人税法第23条第1項第1号に規定する剰余金の配当、利益の配当又は剰余金の分配・・・の額がその総額のうちに占める割合を乗じて計算した数又は金額)及び請求権勘案間接保有株式等を合計した数又は金額

よく考えたなとは思いますが、全体を素直に読む限り、「当該外国法人の発行済株式等に、当該内国法人が当該請求権に基づき受けることができる法人税法第23条第1項第1号に規定する剰余金の配当、利益の配当又は剰余金の分配・・・の額がその総額のうちに占める割合を乗じて計算した数又は金額」を計算する時点と、「当該外国法人が請求権の内容が異なる株式等を発行している場合」に該当するかどうかを判断する時点というのは、同じ時点であると理解されますので、これだけではかなり苦しい主張であるようには思えます。

他方で、請求人は、以下のような主張もしているのですが、これは面白い主張ですね。

本件各更正処分におけるように、実質的に利益が配当として流出済であって、所得が存在しないにもかかわらず合算課税が生ずるような帰結を招く措置法施行令の解釈は、法律による委任の趣旨に反し、違法・無効とならざるを得ない。もっとも、法的安定性の観点からは、可能な限り、法律の趣旨に即して、無効とならないような合理的解釈を採るべきであり、そのような観点からは、措置法施行令第39条の16第1項及び第2項第1号は、請求人が主張するように解釈せざるを得ない。

租税法について文理解釈が原則とされるのは「租税法律主義」を根拠としたものですので、「政令」については、文理解釈をすることによって法の趣旨に反するような帰結となるよりも、法の趣旨に合致するように合理的な解釈をすべきという考え方は、一般論としては尤もな気がします。

少し前に、所得税法施行令183条2項2号の「保険料の総額」について、所得税法34条2項の趣旨と整合的に解釈されるべきであるから、「保険金の支払を受けた者が自ら負担して支出したものといえる金額を指すと解すべき」という判断をした判例(最高裁平成24年1月16日判決)がありましたが、この判例も、上記のような考え方に基づくものだと思われます。

あと、最近、資本剰余金と利益剰余金の双方を同時に減少して配当を行った場合に、いわゆるプロラタ計算をする旨を定めた法人税法施行令23条1項4号が法の委任の範囲を超える違法なものであると判断した裁判例(東京高裁令和元年5月29日判決)がありましたが、これも、政令というのは法の趣旨に反することができないからですね。

本件でそういう主張が認められるかどうかという点については、請求人に対する課税が措置法66条の6第1項の委任の趣旨に反する課税と言えるかどうかという問題に加えて、請求人が主張するような解釈が一般的に合理的な結論を導くことができるのかどうかという問題もクリアしなければならないでしょうから、相当にハードルが高いことは間違いないのでしょうが、金額が金額ですから、訴訟で争う価値はあるのではないかとは思います。

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