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非公表裁決/ケイマンLPSに対する役務提供は「居住者」に対する役務提供に該当するか?

英国ケイマン諸島(ケイマン)の特例有限責任パートナーシップ(本件LPS)の無限責任パートナーであった請求人による本件LPSの資産の管理業務の提供(本件役務提供)が、「居住者」(消費税法施行令1条2項1号)に対する役務提供に該当するかが争われた事案の裁決です。

本件役務提供が国内で行われていたことに争いはありませんので、それが「居住者」に対するものであるとすると課税取引として消費税が課税されることになるのに対して、「非居住者」に対するものであるとすると免税取引として消費税が課されないことになるということです。

なお、消費税法施行令上の「居住者」が、外国為替及び外国貿易法(外為法)上の「居住者」をいうとされている点は留意が必要です。

この裁決については、昨年11月の森・浜田松本法律事務所の「TAX LAW NEWSLETTER」でも紹介されていましたので、ご存じの方も多いかもしれませんね。事案の概要もそちらに分かりやすく記載されていますのでここでは省略させて頂きます。

請求人は、本件役務提供は法律上の権利と権限を有する本件LPSに対して提供されたものであるから「非居住者」に対する役務提供に該当するなどと主張したのですが、審判所は、以下のように、本件役務提供は「居住者」に対する役務提供であると判断しました。

(イ) はじめに
消費税は消費に対して負担を求める税であり、国内で消費されないものには我が国の消費税等が免除される。そして、役務提供を受ける者が非居住者である場合には、原則国内で消挫されないものとされ、役務提供の対価が免税売上げになることから、まずは、役務提供の相手方が誰であるかが問題となる。したがって、本件においては、消費税法上、本件役務提供の相手方は本件LPSと本件有限責任パートナーのいずれかをまず検討することとし、その上で、当該相手方が消費税法施行令第1条第2項第2号に規定する非居住者に該当するかによって、本件役務提供が同令第17条第2項第7号に規定する非居住者に対して行われる役務の提供に該当するか否かを判断することとする。
(ロ) 本件役務提供の相手方について
A 消費税法上の本件役務提供の相手方を検討するに当たっては、本件LPSの我が国の法令上の性質を検討する必要があることから、まずは、この点について検討する。
本件LPSは、上記1の(3)のハの(ロ)のとおり、本件契約により、ケイマン特例法の諸規定に従い、特例有限責任パートナーシップとして、同(イ)の各パートナーの合意により創設され、その目的は、同(ハ)のとおり、請求人が随時決定する投資先に本件LPSの資産を投資することとされている。また、本件LPSは、上記1の(3)のニのとおり、ケイマン法及びケイマン特例法によって規律されるところ、ケイマン法では、①パートナーシップとは収益を目的として共同で事業を営む人の間に存在する関係である旨(第3条第1項)、②会社又は団体が、改正会社法若しくはその他現行の会社の登録に関する法律に基づき会社として登録されているとき、又は他の法律、特許状若しくは英国特許状に基づき又はこれらに従って形成又は設立されているときは、その会社又は団体における構成員の関係は、ケイマン法におけるパートナーシップには該当しない旨(第3条第2項)及び③有限責任パートナーシップは、当該組織の負債、義務の全てについて責任を負う1人以上のゼネラル・パートナー及び当該パートナーシップに参加する時に資本として特定額の資本を出資し、出資額を超えて当該組織の負債、義務について責任を負わない1人以上のリミテッド・パートナーを含む限り、何人でも構成し得る旨(第46条第2項)がそれぞれ定められているとともに、特例有限責任パートナーシップに法人格が付与される旨の定めもない。
これらのことを踏まえると、我が国の法令上、本件LPSは、法人格を有せず、収益を目的として共同で事業を営むための構成員間の契約関係という性質を有するものであると認められる。
B ところで、上記1の(2)のへのとおり、消既税法基本通違1-3-1は、共同事業に属する資産の譲渡等又は課税仕入れ等については、当該共同事業の構成員が、当該共同事業の持分の割合又は利益の分配割合に対応する部分につき、それぞれ資産の譲渡等又は課税仕入れ等を行ったことになる旨定めているところ、当該取扱いは、共同事業の性質を踏まえれば当審判所においても相当と認められる。
そうすると、上記Aのとおり、本件LPSは法人格を有さず、本件LPSの構成員が共同事業を行っているものと認められるところ、上記1の(3)のホのとおりの本件LPSの構成員の資本拠出及び利益の分配の状況を踏まえれば、本件有限責任パートナーが本件役務提供に係る課税仕入れを行ったことになるのであるから、消費税法上、本件役務提供の相手方は本件有限責任パートナーであると認められる。
(ハ) 結論
上記(ロ)のとおり、本件役務提供の相手方は本件有限責任パートナーであると認められるところ、上記1の(3)のへのとおり、本件有限責任パートナーは、いずれも、本件各課税期間において日本国内に住所を有しており、外為法第6条第1項第5号に規定する「本邦内に住所又は居所を有する自然人」であるから、同号及び消費税法施行令第1条第2項第1号の「居住者」に該当し、外為法第6条第1項第6号及び消費税法施行令第1条第2項第2号の「非居住者」には該当しない。したがって、本件役務提供は、消費税法施行令第17条第2項第7号に規定する非居住者に対して行われる役務の提供には該当しないことから、本件役務提供に、消費税法第7条第1項の規定は適用されない。

うーん、本件役務提供が本件有限責任パートナーに対するものであるという判断はその通りだと思うのですが、本件有限責任パートナーが「本邦内に住所又は居所を有する自然人」であることから、当然に本件役務提供が「居住者」に対するものであるという判断は、外為法上の「居住者」「非居住者」の特殊性を十分に考慮できていない気はしますね。

というのも、大阪高裁昭和37年3月20日判決では、以下のように、居住者である自然人の外国にある支店、出張所その他の事業所も、外為法上は「非居住者」とみなされると判断がされていて、その判断は、最高裁昭和37年11月1日決定でも正当であると是認されていますので、「本邦内に住所又は居所を有する自然人」に対する役務提供であったとしても、当然に「居住者」に対する役務提供になる訳ではなく、それが外国にある事業所に対する役務提供である場合には「非居住者」に対する役務提供になるはずだからです。

そもそも外為法の居住者、非居住者の概念はその特有の技術者的性格を考慮して合理的に解釈しなければならないのであつて、原判決の如く外為法第6条第5号後段に非居住者(法人であると自然人であるとを問わない)の本邦内の支店、出張所その他の事務所は、法律上代理権があると否とにかかわらずその主たる事務所が外国にある場合においても居住者とみなすと規定しているのは、その裏面に居住者(法人たると自然人たるとを問わず)の海外支店、出張所の営業所を非居住者とみなす趣旨を含んでいるものと解し、外国商社の経営者が来日して前記通牒により居住者扱となった後においても、従前通り営業を継続している海外営業所は経営者本人の居住性と別個に取扱い、外為法上は非居住者とみなされるものと解するのが相当であるといわなければならない。前記通牒が所論の如く、事務取扱上の一応の基準を示したものに止まらず同法第6条第2項に基いた法的拘束力を持つものであるとしても、右通牒の内容は前記の解釈と何等矛盾するものではない。右通牒が居住者が法人である場合その海外支店、出張所等の居住性についてこれを非居住者とみなしていることは前記の外為法第6条第5号の解釈の正当であることを裏づけるものであるということができる。居住者が自然人である場合ことに本件の如く海外貿易商社の経営者が自ら来日して外為法上居住者扱となりながら、海外営業所で従前通り営業を継続している場合にあっては、法人の場合と取扱を異にすべき実質的理由を発見することができないのであるから、法人の場合と同様にその海外営業所を非居住者とみなすべきであり、同通牒に居住者が自然人である場合の海外出張所等の居住性について規定がないからといつて所論のようにその出張所等を居住者と解しなければならないものではない。

まぁ、実際には、ケイマンに本件LPSの事業所があるという訳ではないのでしょうが、そうであるとしても、その点の判断はすべきであったのではないかと思います。

また、審判所は「本件LPSは外為法上は法人等として非居住者に該当し、実際に外為法上の実務では、ケイマンで設立されたLPSが非居住者に該当することを前提とした法定の報告が行われている」という請求人の主張に対して、「本件LPSが外為法上の法人に含まれるか否かについて判断をするまでもなく、この点についての請求人の主張には理由がない」とあっさりと排斥しているのですが、これも少し乱暴な気がします。

なぜなら、ここでの請求人の主張の主眼は、本件LPSが外為法上の法人に含まれるかどうかではなく、本件LPSが外為法上の「非居住者」として取り扱われているということであって、それは海外で組成されたLPSが海外にある事業所と同じように外為法上の「非居住者」として取り扱われているという意味であるようにも思われるからです。

私自身は外為法に関する知見がないので何とも言えないのですが、もし、本当にそのような取扱いがなされているとすれば、結論が変わってもおかしくないのではないですかね。

という訳で、この裁決の判断には少し疑問をもっているのですが、それは兎も角として、消費税法上、同一人に対する役務提供が「居住者」に対する役務提供になることも「非居住者」に対する役務提供になることもあるということは覚えておいてよいのではないかと思います。

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