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非公表裁決/港湾改修工事の施工業者から漁業協同組合に対する金員の支払いが「交際費等」に該当するか?

公共工事である港湾改修工事を受注した施工業者から漁業協同組合に対する金員の支出(本件各支出)が「交際費等」(措置法61の4①)に該当するかが争われた事案の裁決です。

漁業権内及びその付近における工事など、民事上の問題がある場合には、港則法に基づく工事許可申請を行うにあたって、事前に利害関係者等と調整しておく必要があり、港湾改修工事を受注した請求人は、その利害関係者等との調整として、漁業協同組合と交渉を行い、一定の基準により請求人が施行する各工事が海洋に与える影響の推定される程度に応じて算出した金員を漁業協同組合に支払っていたのですが、その金員の支出(本件各支出)が「交際費等」に該当するかが問題となったということです。

請求人は、本件各支出は漁業補償として行ったものであり「交際費等」には該当しないと主張したのですが、審判所は、以下のように、本件各支出は「交際費等」に該当すると判断しました。

(3) 当てはめ
イ 支出の相手方について
本件における支出の相手方は、上記1の(3)のロのとおり、本件組合等である。本件組合等は、上記(2)のチのとおり、■■■■から本件各工事の施工区域に係る共同漁業権を付与されていた。
そして、請求人は、上記(2)のハ及びニのとおり、工事許可申請をする際には事前に利害関係者等との調整が必要であることから、上記(2)のホのとおり事前に本件組合等と調整を行った上で本件同意書の提出を受け、本件各工事を施工していた。
したがって、本件組合等は、本件各工事の施工区域に係る共同漁業権を有しており、本件各工事の施工に係る同意をする立場の者であるから、請求人の事業に関係ある者等に該当する。
ロ 支出の目的について
(イ) まず、本件各支出が、請求人が主張する漁業補償に当たるか否かについて、以下検討する。
A 上記(2)のイ及びロのとおり、本件各工事に係る工事請負契約書には、①工事の施工について第三者に損害を及ぼした場合において、発注者の責めに帰すべきときは、受注者ではなく発注者が損害額を負担する旨及び②工事の施工に伴い通常避けることができない理由により第三者に損害を及ぼした場合において、受注者が善良な管理者の注意義務を怠ったとき以外は、受注者ではなく発注者が損害額を負担する旨定められていることからすれば、受注者に過失がない限り受注者が損害額を負担することはないと解するのが相当であり、請求人は、本件各工事に係る契約上、本件組合等に対して事前に損害額を負担する立場にあるとは認められない。
また、本件各工事の発注者である国及び■■■は、上記(2)のリのとおり、漁業協同組合の要望に基づく工事以外の工事について、工事請負契約を締結する前に必要な範囲で漁業補償を行っていることからすれば、請求人が本件組合等に対して事前に漁業補償として本件各支出を行うべき立場にあるとも認められない。
B 請求人は、上記1の(3)のロのとおり、本件組合等からの請求に基づき本件各支出を行っているが、上記(2)のホのとおり、本件各支出の額は損害見込額を具体的に積算することなく一定の基準を目安として本件組合等との交渉により決定されたもので、上記(2)のトのとおり、請求人は、本件各工事の施工後において、本件組合等を構成する漁業者に生じた損害額の測定などを行っておらず、また、本件各支出の額の過不足の検討や精算も行っていなかった。
C 以上のことからすると、本件各支出は漁業補償に該当する支出であるとは認められない。
(ロ) 次に、上記(イ)の検討結果を踏まえ、本件各支出の目的について、以下検討する。
A 上記(イ)のとおり、本件各支出は漁業補償に該当する支出であるとは認められず、請求人が本件各工事を施工するためには、上記(2)のホのとおり、工事許可申請の手続として事前に本件組合等と調整を行い、本件組合等から同意を得る必要があったことを併せ考えると、本件各支出は、請求人が本件組合等との調整を円滑に行い、本件組合等から本件各工事の施工に係る同意を得ることを目的として支出したものであると認めるのが相当である。
B さらに、上記(2)のへのとおり、請求人は本件組合等との間において、本件組合等が魚網やブイ(浮標)など、本件各工事の施工において障害となるものの移動を行うことや漁船を工事範囲内に立ち入らせないようにすることなどの確認を行ったことからすると、本件各支出は、本件各工事の円滑な遂行を図ることを目的として支出されたものであると認められる。
(ハ) 以上のことからすると、本件各支出は、上記(イ)のとおり、漁業補償に該当する支出であるとは認められず、上記(ロ)のとおり、請求人の事業に関係ある者等に該当する本件組合等との間の親睦の度を密にして事業の円滑な遂行を図る目的で支出されたものであると認めるのが相当である。
ハ 行為の形態について
交際費等に当たると判断するためには、上記(1)のとおり、行為の形態として「接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為」であることが必要であるとされているところ、本件各支出が上記ロの(ハ)のとおり支出されたものであることからすれば、本件各支出は、請求人が本件組合等に対して金員の提供をしたものであると認めるのが相当であり、当該金員の提供が贈答に当たることは明らかである。
したがって、本件各支出の行為の形態は、本件組合等に対する贈答に該当する。
ニ 小括
以上のとおり、本件各支出は、いずれも、上記(1)に記載の「支出の相手方」、「支出の目的」及び「行為の形態」の三要件を満たすことから、措置法第61条の4第4項に規定する交際費等に該当する。

まず、漁業補償をすべきであるとすれば工事の発注者である国又は地方公共団体であって、施工業者である請求人でないことから、本件各支出は、漁業補償のためではなく、漁業協同組合から港湾工事の同意を得るためのものであった、という判断については、まあそうなのかなという気はします。

そして、措置法通達61の4(1)-15は、「建設業者等が高層ビル、マンション等の建設に当たり、周辺の住民の同意を得るために、当該住民又はその関係者を旅行、観劇等に招待し、又はこれらの者に酒食を提供した場合におけるこれらの行為のために要した費用」や「スーパーマーケット業、百貨店業等を営む法人が既存の商店街等に進出するに当たり、周辺の商店等の同意を得るために支出する運動費等(営業補償等の名目で支出するものを含む。)の費用」が、原則として「交際費等」に該当するものとしているのですが、本件各支出は、それらの費用と同種のものであるようにも思えます。

ただ、この裁決からはよく分からないのですが、漁業協同組合から同意を得ることが港湾改修工事を施工するために必要なことであったとすれば、そのような同意を得るための金員の支出が「親睦の度を密にして事業の円滑な遂行を図る目的」の「贈答」であるという認定には違和感を覚えます。

「交際費等」を原則として損金不算入としている理由が、「法人の支出する交際費等の中には事業との関連性が少ないものもあり、また交際費等の損金算入を無制限に認めると、いたずらに法人の冗費・濫費を増大させるおそれがある」(金子宏「租税法(第23版)」423頁)からと理解されていることとの関係でも、港湾改修工事を行うために必要な同意を得るための金員の支出を「交際費等」として損金不算入とすることには疑問も残ります。

したがって、裁決の結論が直ちにおかしいとも言えないのですが、本件各支出が漁業協同組合から同意を得るために行われたものであるという認定をしたのであれば、そのような同意を得ることが、請求人が港湾改修工事を施工する上でどのような意味をもっていたのか?ということまで検討をすべきであったのではないかという気がします。

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