見出し画像

非公表裁決/積荷の保証期間中に船舶の使用が終了したことに伴って取引先から受領した金員が「資産の譲渡等の対価」に該当するか?

船舶の建造時の契約で定められた積荷の保証期間中に取引先(A社)が船舶の使用を終了したことに伴い当該取引先(A社)から受領した金員(本件金員)が、「課税資産の譲渡等の対価」(消費税法28条1項)に該当するかが争われた事案の裁決です。

役務の提供の対価であるとすれば、当然に「課税資産の譲渡の対価」に該当することになりますが、逸失利益の補填であるとすれば、「課税資産の譲渡等の対価」には該当しないことになりますので、本件金員が、役務の提供の対価であるのか、逸失利益の補填であるのかが問題となったということです。

なお、取引先(A社)との契約(基本協定)は、以下のような内容であり、本件金員というのは、(ニ)の定めに基づき支払われたものでした。

(イ) ■■(A社)と請求人は、■■(A社)の輸送貨物を運搬するため、■■(A社)による積荷の保証により、請求人か■■■■■■■■■■■■(船舶名)を建造し、運航することを確認する。
(ロ) 下記の用語は、それぞれ次の意味を持つ(第1条《定義》)(下記で定義した用語については、以下、本文及び別表においても使用する。)。
 A 「本船」とは、■■(A社)の輸送貨物を輸送するため、■■(A社)の依頼に基づき請求人が建造し、運航する■■■■■■■■■■■■(船舶名)をいう。
 B 「船舶建造費」とは、本船の設計、建造及び建造監理に係る費用並びに建設中利子をいう。
 C 「船舶資本費」とは、本船の船舶建造費を竣工後15年間で90%、残りの10年間で10%を定額償却することとした場合の各年度毎の減価償却費、支払利息及び固定資産税をいう。
 D 「船舶維持費」とは、本船の維持及び輸送管理等に必要な各年度毎に発生する費用をいう。
 E 「年度」とは、毎年4月1日に始まり翌年3月31日に終わる1年をいう。
(ハ) ■■(A社)は、請求人に対して、本船の竣工後25年間を経過したとき、若しくは本船の堪航性がなくなったときまでのいずれかの短い期間にわたり積荷を保証し、船舶資本費及び船舶維持費を支払う。なお、輸送が行われない年度においても、■■(A社)は、当該年度分に相当する船舶資本費及ぴ船舶維持費を請求人に対して負担する(第3条《積荷の保証》第1項)。
(ニ) 上記(ハ)の規定にかかわらず、■■(A社)は、■■(A社)による積荷を保証した期間が終了する前に本船の使用を終了する場合には、積荷を保証した期間の残期間に相当する船舶資本費(支払利息及び固定資産税を除く。)については請求人に支払うが、本船の使用を終了した年度の翌年度以降の船舶維持費については負担しない(第3条第2項)。

まぁ、普通に考えれば、上記のような契約に基づき積荷の保証期間中に船舶の使用が終了したことに伴って取引先(A社)から受領した本件金員は、請求人の逸失利益を補填するものですよね。

審判所も、以下のように、あっさりと「逸失利益の補填をしたものと認められる」という判断をしています。

請求人は、上記(1)のハの(ホ)のとおり、平成28年度以降、本件基本協定に基づく役務の提供を行っていないところ、■■(A社)は、請求人に対して平成28年度以降の逸失利益の補填をしたものと認められる。そうすると、本件は、当該個別具体的な資産の麒渡等があることを条件として、当該経済的利益が収受されたといい得る対応関係にはないことから、資産の譲渡等には該当せず、■■■■■■■は、本件課税期間の課税資産の該渡等の対価の額には含まれないこととなる。

因みに、原処分庁は、取引先(A社)から請求人に対する金員の支払いは、「■■(A社)の本件船舶の使用を前提とした請求人の本件船舶の建造、維持及び運航に対する対価である」と主張していたようですが、本件船舶は請求人が所有している訳ですから、その建造や維持が取引先(A社)に対する役務の提供になることはないはずですし、本件船舶の運航は行われなくなった訳ですから、本件金員が「本件船舶の建造、維持及び運航に対する対価」ということはないですよね。

という訳で、本件金員が「課税資産の譲渡等の対価」に該当しないという審判所の判断は当然なのかなと思いますが、逆に言えば、こういう処分がされることもあるということですから、課税庁からの修正申告の慫慂をされた場合でも、安易に修正申告をすることなく慎重な判断をする必要があるということではないかと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?