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非公表裁決/米国のLLPは日本の租税法上の法人に該当するか?

米国で組成されたLLP(本件LLP)の事業活動から生じた所得の帰属を判断する前提として、本件LLPが日本の租税法上の組合に該当するのか、法人に該当するのかが争われた事案の裁決です。

本件LLPが任意組合等に該当するとすれば、本件LLPの事業活動から生じた所得は本件LLPのパートナーである請求人に直接に帰属することになるのに対して、法人に該当するとすれば、本件LLPの事業活動から生じた所得は本件LLPに帰属することになることから、本件LLPが我が国の租税法上の組合に該当するのか、法人に該当するのかが問題となったということですね。

因みに、裁決では州の名前は黒塗りにされているのですが、州LP法の条文番号からバージニア州であることが分かります。

外国の法令に準拠して設立された事業体が日本の租税法上の法人に該当するかについては、デラウェア州のLPSが法人に該当すると判断した最高裁判決(最高裁第二小法廷平成27年7月17日判決)や、バミューダのLPSが法人に該当しないとした高裁判決(東京高裁平成26年2月5日判決)がありますが、LLPについて判断したものはなかったのではないかと思います。

正直なところLPSとLLPの違いもよく分かっていないのですが、日本の有限責任事業組合が「日本版LLP」などと言われていることもあって、何となくLLPというと組合に該当しそうな気がしてしまいますよね。

実際、原処分庁も、日本の有限責任事業組合との類似性を根拠に組合に該当するという主張をしていました。

しかし、審判所は、最高裁第二小法廷平成27年7月17日判決で示された規範に基づき、以下のように、本件LLPが権利義務の帰属主体であると認められるから日本の租税法上の法人に該当すると判断しました。

B 判断基準②に関する検討
次に、本件LLPが我が国の租税法上の法人該当性の実質的根拠となる権利義務の帰属主体であると認められるか否か(上記(イ)の②)について検討する。
(A) 州PS法は、利益を目的に2名以上の者が共同所有者として事業を行う団体をパートナーシップといい、この事業には、全ての取引、職業及び専門職を含み(同法50-73.79、上記(ロ)のAの(A)) 、また、パートナーシップは、米国の法律の全ての適用において、登録されたLLPを含むと規定している(同法50-73.79、上記(ロ)のAの(B)及び(D))。そして、州PS法は、パートナーシップが行うことができる事業について制限を設ける規定は特に置いていない。
 また、州PS法は、パートナーはパートナーシップとの間で貸付けその他の取引を行うことができ、この場合において、パートナーは、パートナーシップとの関係で、パートナーでない者(「a person」、すなわち個人(individual)、コーポレーション(corporation)等)が有するのと同様の権利及び義務を有する旨規定している(同法50-73.85、上記(a)のB) 。そして、州PS法は、パートナーシップにおけるパートナーは、その事業の目的においてパートナーシップを代理する旨規定しているので(同法50-73.91、上記(ロ)のE) 、パートナーシップのパートナーは、各パートナー(構成員個人)を代理するのではなく、パートナーシップそれ自体を代理することになる。このほか、州PS法においては、「パートナーシップの全ての義務(all obligations of the partnership)」(同法50-73.96A、上記(ロ)のGの(A)) 、「パートナーシップの権限(authority of the partnership)」(同法50-73.95、上記(a)のF) といったパートナーシップ自体が権限を有し又は義務を負うことを示す文言が用いられている一方で、パートナーシップ自体が権利を有さず又は義務を負わず、パートナーのみが権利を有し又は義務を負うことを示す規定や、法律行為の効果がパートナーシップ自体に帰属しないことを示す規定は、同法を通じて見当たらない。
 以上によれば、本件LLPの設立根拠法令である州PS法は、■■■■■■のLLPに自らの名義で法律行為をする権限を付与するとともに、当該LLPの名義でされた法律行為の効果が当該LLP自身に帰属することを前提としているものと解するのが相当である。
(B) 州PS法は、パートナーシップにより得られた財産は、パートナーシップの財産であり、個々のパートナーのものではないと規定している(同法50-73.89、上記(ロ)のD)。また、州PS法は、パートナーシップにおけるパートナーシップの利益及び損失に関するパートナーヘの割当て及びパートナーの分配を受ける権利である譲渡可能な持分は、それ自体が「人的財産権」(personal property)という財産権の一類型であり(同法50-73.106、上記(ロ)のJ)、パートナーは、パートナーシップの財産の共同所有者ではなく、任意であるか強制であるかを問わず、いかなる移転可能なパートナーシップの財産における持分も保有しないと規定する(同法50-73.105、上記(ロ)のI) とともに、パートナーシップの代理としてのみ、バートナーシップの財産を使用し、又は保有すると規定しでいる(同法50-73.99G、上記(ロ)のHの(C))。
 以上によれば、米国一のLLPのパートナーは、米国■■■■■■のLLPに属する個々の財産に対して割合的な権利を具体的に有していないものとみるのが相当であり、このことからも、州PS法は、上記(A)のとおり、米国のLLPに自らの名義で法律行為をする権限を付与するとともに、当該LLPの名義でされた法律行為の効果が当該LLP自身に帰属することを前提としているものと解される。
(C) 本件LLP契約においては、本件LLPは、法律サービスを提供し、かつ、これに関連し、又は派生した、時宜に全てのパートナーにより合意された、全ての活動に従事するために組成され(本件LLP契約第2条、上記イの(イ)のA)、パートナーによる本件LLPへの貸付けは、資本として認識されるものではなく、本件LLPの債務として返済されるものとされている(本件LLP契約第12条、上記イの(イ)のE) 。そして、バートナーは、本件LLPの事業運営上のいかなる行為、失敗に関しても、故意・重過失等の場合を除き、本件LLP又は他のパートナーに対して、損害その他の責任を負わないとされている(本件LLP契約第14条(a)、上記イの(イ)のG)。これらのことは、上記(A)においてみたパートナーシップの法律行為の権限及びその効果の帰属に関する州PS法の規定と整合するものということができる。
 また、本件LLP契約において、パートナーは、本件LLPの利益や分配の割当以外に、本件LLPに対する役務提供に係る報酬を受領してはならないとされ(本件LLP契約第6条、上記イの(イ)のB)、自己の持分に係る資本の全部又は一部の払戻しもそれに付随する利息を受ける権利も有しないとされている(本件LLP契約第10条(a)、上記イの(イ)のCの(A))。これらのことも上記(A)及び(B)においてみたLLPにおける法律行為の権限やその効果の帰属及びLLPに係るパートナーの持分に関する州PS法の規定と整合するものということができる。
 そして、以上のほか、本件LLP契約の各条項の中に、上記(A)及び(B)の米国一のLLPの法律行為の権限及びその効果の帰属並びに米国■■■■■■のLLPに係るパートナーの持分に関する州PS法の規定と抵触する内容の定めは見当たらない。
(D) 以上のような州PS法等の定めに鑑みると、本件LLPは、自ら法律行為の当事者となることができ、かつ、その法律効果が本件LLPに帰属するものということができるから、権利義務の帰属主体であると認められる。
 そうすると、本件LLPは、我が国の租税法上の法人に該当し、所得税法第2条第1項第7号等に規定する外国法人に該当するものというべきである。
したがって、本件LLPは任意組合等に該当しない。

まぁ、平成27年の最高裁判決で示された規範によればそういう結論になるのでしょうね。

なお、バージニア州のUniform Partnership Actには、以下のようにLLPが訴訟当事者になる旨の規定もありましたので、それを指摘してもよかったのではないかとは思いました。

§50-73.97. Actions by and against partnership and partners
A. A partnership may sue and be sued in the name of the partnership.
B. An action may be brought against the partnership and, except as provided in §50-73.96, against any or all of the partners in the same action or in separate actions.
C. A judgment against a partnership is not by itself a judgment against a partner. A judgment against a partnership may not be satisfied from a partner's assets unless there is also a judgment against the partner.
D. A judgment creditor of a partner may not levy execution against the assets of the partner to satisfy a judgment based on a claim against the partnership unless:
1. The claim is for a debt, obligation or liability for which the partner is liable as provided in §50-73.96 and either:
a. A judgment based on the same claim has been obtained against the partnership and a writ of execution on the judgment has been returned unsatisfied in whole or in part;
b. The partnership is a debtor in bankruptcy;
c. The partner has agreed that the creditor need not exhaust partnership assets; or
d. A court grants permission to the judgment creditor to levy execution against the assets of a partner based on a finding that partnership assets subject to execution are clearly insufficient to satisfy the judgment, that exhaustion of partnership assets is excessively burdensome, or that the grant of permission is an appropriate exercise of the court's equitable powers; or
2. Liability is imposed on the partner by law or contract independent of the existence of the partnership.
E. This section applies to any partnership liability or obligation resulting from a representation by a partner or purported partner under §50-73.98.

ただ、平成27年の最高裁判決が出た時に思ったのですが、アメリカのLPSやLLPが日本の租税法上の法人に該当するということで本当に不都合はないのですかね?

平成27年の最高裁の判決の後に、国税庁から、同判決と矛盾するような取扱いをする旨の見解が公表されていたりしていることからしても、あの事案で国側がLPSが法人に該当するはずだと頑張りすぎたことで、国税としても困ってしまっているのではないかという気もするところです。

あと、この裁決で気になったのはその後の判断です。

審判所は、請求人が本件LLPから現金の配分は受けていないものの、本件LLPの銀行預金口座から請求人の分離資本勘定の残高を限度として必要に応じて都合の良いときに出金することが可能であり、実際にも、請求人が本件LLPの銀行預金口座から出金をしていることを理由として、本件LLPの利益が請求人の分離資本勘定に組み入れられたことにより、当該組入額が請求人に収入すべき金額となると判断していて、そのような判断自体はあり得ると思うのですが、当事者の主張を見る限り、この点については争点になっていた訳ではなくて、請求人に反論の機会は与えられていなかったようであるところが気になりました。本件の結論に大きな影響を与える重要な判断ですので、審理不尽だと言われてもおかしくないようにも思えます。

また、その所得区分について、以下のように、配当所得ではなく雑所得と判断しているのですが、この所得区分の判断については、規範と当てはめが対応していないような気がしました。

(イ) 配当所得か否かについて
請求人は、本件LLPは外国法人に該当することから、本件LLPから受ける利益は、所得税法第24条第1項に規定する「法人から受ける剰余金の配当」に類似するものであり、配当所得に該当する旨主張するので、まず、この点について検討する。
所得税法第24条第1項は、配当所得について、法人から受ける剰余金の配当、利益の配当及び剰余金の分配等に係る所得をいう旨規定しているところ、これらについては、剰余金又は利益の処分として配当又は分配したものだけでなく、法人が株主又は出資者に対しその株主又は出資者である地位に基づいて供与した経済的な利益も含まれると解されている。
これを本件についてみると、上記ハのとおり、請求人が得た利益は、本件LLP契約の定めに基づき、本件LLPの本件各年分の純利益を資本割合に応じて請求人の分離資本勘定に組み入れることによって生じたものであるが、本件LLPと各パートナーとの間において、本件LLP契約に定める分配は省略されていたのであるから、当該利益を所得税法第24条第1項にいう「法人から受ける剰余金の配当、利益の配当及び剰余金の分配等に係る所得」に当たるということはできない。

つまり、「法人が株主又は出資者に対しその株主又は出資者である地位に基づいて供与した経済的利益」が配当所得になるのであれば、本件LLPの利益が請求人の分離資本勘定に組み入られることにより請求人が受ける利益というのは、本件LLPの出資者(パートナー)である請求人に対しその出資者(パートナー)である地位に基づいて受けるものであるから、配当所得になるはずではないかということです。

「本件LLP契約に定める分配は省略されていた」ことを理由としているみたいですが、「法人が株主又は出資者に対しその株主又は出資者である地位に基づいて供与した経済的利益」であれば配当所得になるというのは、株主が株主たる地位に基づいて受ける利益であれば、剰余金の配当に必要な手続が省略されていたとしても配当所得になるという意味のはずですので、「本件LLP契約に定める分配は省略されていた」ことは、本件LLPから請求人が受けた利益が配当所得にならない理由にはならないのではないかなと。

という訳で、特に所得区分については争う余地がありそうに思えるのですが、所得区分だけの争いとなると配当控除があるかないかくらいの違いではないかと思いますので、訴訟をするほどの金額の違いにはならないのかもしれません。

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