小学校低学年女子に見るショーヘイ・オータニの影響力

私は小学生のための放課後学童保育所で働いている。〝自由〟を基本としており、子供達に遊びを強制することも、制限をかけることも殆ど無い。折り紙をしようが、大量のセロハンテープで空き箱を繋ぎ合わせて武器を作りそれで戦おうが、お笑いライブの練習をして手作りチケットを配布しようが、ある日突然マクドナルドを開店して皆を客として巻き込もうが、庭に穴を堀って水をじゃんじゃか入れ靴のままその中に入ろうが子供たちのやりたいままだ。

そんなやりたい放題の子供たちに、WBC優勝以来、世界のショーヘイ・オータニは影響を与え続けている。庭で野球に興じる男子の人数と時間が増えただけでなく、野球を全く知らない低学年の女子が、「世界で一番野球が上手いのは大谷翔平なんでしょ?」と言ってくる。メジャーリーグ全30球団のうち、エンゼルスのロゴだけが女子にも認識されている。普段は可愛い女の子の絵やすみっこぐらしのキャラクターしか描かない子が、『A』の上に光輪を付けたエンゼルスのマークを描く。

日本全国の小学校にグローブが贈られることが報道されると、「大谷がみんなにグローブをくれる」と騒ぎになり、来週テレビと新聞のカメラが学校に来るらしいとざわめき、学童に在籍する子がグローブを手にはめた写真が掲載された新聞を皆で見て大いに盛り上がった。中には、「残り1009億か」と呟く子もいた。何が1009億なの?と訊くと、「だってさ、大谷はドジャースから1015億もらったんでしょ。グローブが6億だから、1015ひく6は、残り1009億じゃん」と、ショーヘイ・オータニのお財布事情を心配した。

この学童保育所には、普段から自作の歌を作って踊りながら歌う低学年女子が居る。「ワイルドチクビ」や「髪の毛ボンッ・キュッ・ボンッ」などというわけのわからない歌から、特定の人物を歌った歌まで。『ジングルベル』のメドレーに乗せるのが好きで、私の歌もジングルベルの替え歌として作られた。なぜか「50メートル走が遅くて笑われた」という曲だった。

同じくジングルベルのサビ部分のメドレーに乗せた曲が、今、学童内で大流行りしている。「ワイルドチクビ」や「髪の毛ボンッ・キュッ・ボンッ」と同じ作詞者によるもので、今回、歌にされたのは、毎日テレビニュースで取り上げられるショーヘイ・オータニ。最初は作詞者ひとりで歌っていたのだが、あっという間に最新ヒットチャートの1位に上り詰め、毎日、低学年女子が集団で歌う声が学童内に響き渡る。なんの恥ずかしげもなく大声で歌い、振りまで付けて歌うので、お迎えに来る入所してきたばかりの新一年生のお母さんたちはこの子たちに免疫が無いので若干引いた様子を見せている。

歌は、ひとりがぐちゃぐちゃに丸めた紙を投げ、ひとりが空の牛乳パックでそれを打ち、そして皆でその辺りを一周走ってから始まる。

♪ ドジャース ドジャース 大谷翔平
 結婚したよ おめでとう ヘイ!
 ホームラン ホームラン 打ちまくり
 ドジャースで 大活躍だ
 6億8千円 一平ちゃんに とらとらとらとら取られたよ
 え〜ん え〜ん かなしいよ
 大谷翔平 泣きまくる

「6億8千万だよ!」と何度言っても暫くの間『6億8千円』のままだったのは、あまりにも馴染みのない桁だったからだろう。後にちゃんと「6億8千万」になったかと思ったら、すぐに最新の報道を受けて歌詞は『にじゅうよんおくごせんま〜ん』に訂正された。

家で歌ったらお父さんとお母さんが大爆笑だったと満足げ気に報告してくる子、お母さんがこの歌を気に入ってしまい家で小声で歌っててウザいんだけど、と言う子もいた。

後にマミコさんとの出会いを想像で歌った2番まで作られ、進化はここで終わったかと思ったのだが、つい最近、歌のメンバーたちが「大谷翔平の劇をやります」と言うので、リハーサルが終わるのを待って、観客役として観に行った。

例の作詞者がナレーター役で、ナレーションに沿ってほんの1分足らずの劇は進んだ。

ある日、大谷選手が全国の小学校にグローブを贈ろうと金庫を開けました。
パカーン
すると、中に入っていたのはたったの千円だけ。
大谷選手は腰が抜けてしまいました。
すると、その横に一平ちゃんが現れました。
すると、大谷選手は一平ちゃんが盗んだということがよくわかる。
大谷選手が一平ちゃんのほっぺを思い切り叩きつけました。
ぺシンッ
すると一平ちゃんが泣き出してしまいました。
その騒ぎを聞きつけて・・・

ここまで小学校低学年女子を惹き付け続けるのも、ショーヘイ・オータニの持つパワーだろう。

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