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懺悔(ざんげ)


寒い、と思ったら、部屋の中だった。
誰もいない。そう思う。
でも右側を見ると、ひとりだけいるみたいだった。
もう、ぼんやりしてほぼ見えない。見覚えがあるような、ないような。元気に見えるような、元気がないような。苦しんでいるような、苦しんでいないような。
私の手は、もうすでにしおれていて、力を入れようとしても、できなかった。左手も、足もやってみたが、ひとつも力が入らなかった。
この前、目が開いたとき………。一昨日だったかな、今見た人とは別の人が、それも何人かいたような。その記憶も定かではない。
私はどうすればいい。体に力も入らなければ、この状態でどうすればいいのか指示を出してくれる人もいない。苦しいのかも、すでにわからない。
目の前の人、何か言ってくれれば、何か、少しでも分かるのかも知れない。でも、もう目を開けているのも疲れてきた。どうしよう。

あなたに手を差し伸べたことがあった。それは複数日に亘ったが、回復しては、落ち込み、回復しては、落ち込み、という状態だった。
僕の手の中では、あるいは、僕の頭の中では、あなたはとうに治っていたのだが、でも、神様はそう簡単に、事を運ばさせてはくれなかったようだった。
すでに冷たくなってしまった、あなたの両手。血管の音が僅かに拍動するだけで、もう、これっぽっちも動かない。どうしたものか。

初めてあなたの長年苦しんできた容態を見たとき、僕は「きっと治りますよ」とあなたに告げた。僕は全力を尽くしたつもりだったが、嘘をついてしまったようだった。
しきりに僕を期待するあなたを横目に、僕は自分自身の力不足によって、なんてことをしてしまったのだろう。
傍にいること、たまに顔を見せること、優しく接すること、温かな声をかけること、極力柔らかい手つきで触れること。
約束を破った僕ができるのは、あなたへの懺悔だけのようです。
あなたが苦しんでおられたご様子を見届けることができなかった、僕の罪は深いままで、目をつむり続けるあなたの顔の横を誰かが通り過ぎた。



頭を下げることしか、できない。