かつて父と呼んだあなたへ 冒頭のみ

8月中旬の夕暮れ時、私はワードパッドを立ち上げ文章を書いている
 どうしてそんなことを?普段から文章でも書いているのか?なんて変哲もない疑問が浮かんでくるかもしれないが、学生の頃から国語の授業でいい成績を取り続けてきただとか、何かのコンクールで作品の入賞経験ありなんてことはない。
もしかして仕事が物書きや記者、それとも教師や教授?もしそうだとしたら冒頭に書かれた三行はもっとましな文章になってることだろうし、そもそも文章を書く上でワードパッドをチョイスすることはないと思う。そして残念ながら私は飲食店で働く一般社会人だ。
そもそも文章を書くこと自体の久しい。段や行なんてものがあったなぐらいの知識で、句読点のルールどころか文章のどこで一文字空けるのかすら忘れている。今もインターネットで文章のルールを逐一確認しながら、せめて読めるぐらいのものにしようなんて考えながら入力している。そんな物書きなんて自称したら怒られてしまう私がなぜ、今この瞬間文章を書こうなんて思ったのか…
 特に理由なんてものはない。
蝉が自分の生きた証を残すために鳴り響かす情熱よりも熱い日差しに悲鳴を上げながら私の肉体は大号泣するものだから、大号泣の痕を流すためシャワーを浴びていた。その時ふと、文章を書きたいと思ったから書き出したまでだ。しかし、書きたい題材は私の中でしっかりと決まっている。そして題名も。
あの日もちょうど今みたいな太陽がひと肌を焼く8月だった。もう彼のことを頭によぎらせることはないと思っていた。だがいまこの瞬間だけあなたのことを鮮明に思い出し、そしてこの日を最後に今度こそ記憶の底の底へとしまいこむ。

かつて父と呼んだあなたを-

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