見出し画像

(Direct to Consumer)DTC遺伝学的検査に対するよくある誤解

訳者前書き

本記事では、臨床経験を持ち、現在はDTC遺伝学的検査の会社23andMeに勤める二人の遺伝カウンセラーが消費者が直接購入する形の遺伝学的検査、Direct to Consumer遺伝学的検査(DTC)検査に対する遺伝カウンセラーの関わり方について述べられています。
翻訳元の記事はNational Society of Genetic Counselorsの連載記事「Prespectives」の「Busting Common Misconceptions about Direct-To-Consumer Genetic Testing」(Hannah Llorin, Brianne Kirkpatrick, 10.30.2023)です。

元記事のリンクはこちら。
https://perspectives.nsgc.org/Article/busting-common-misconceptions-about-direct-to-consumer-genetic-testing

はじめに

遺伝カウンセリングとDirect to Consumer(DTC)遺伝学的検査は2022年までの約20年の間共存してきており、アメリカ人の5人に1人は郵送式の遺伝学的検査を経験しています。昨今のDTCは周産期、腫瘍、心血管系、神経系、腎臓系、プライマリケアといった遺伝カウンセラー(CGC)の各専門分野と関連しています。遺伝カウンセリング(GC)とDTCは共に進化を遂げてきましたが、正確性、臨床的関連性、DTCの役割に関するDTCへの誤解は依然として存在しています。
DTC遺伝学的検査の会社に勤務し遺伝学的検査へのアクセス向上のために尽力している働く我々は、CGCとしてこれらの誤解について述べようと思います。クライアントのDTC遺伝学的検査の結果レポートを確認することは多くのCGCにとって現状あまり一般的ではありませんが、我々はCGCがこの役割を担うべきだと考えます。DTC遺伝学的検査は正確で、遺伝的リスクアセスメントにも関連し、早期診断に寄与することで、個人や、場合によっては家系員全体に対する医療マネジメントを変化させるポテンシャルがあるのです。

正確性

実際、患者が臨床現場に持ち込む多くのDTC遺伝学的検査の結果報告書には、臨床で行われる水準と同等の技術、用具、参照データセット、データ解析手法が用いられています。全てではないものの、いくつかのDTC遺伝学的検査はFDA認証を受けており、その正確性は衛生検査所や病院のラボと同等であると証明されています。
がん遺伝子パネル検査やセルフリーDNAスクリーニングといった多くの臨床的遺伝学的検査は現在FDAの上市前レビューを求められていない(当記事発刊日現在)。対して、アメリカ食品医薬品局(FDA)認証のDTC遺伝学的検査は(99%以上の正確性と99%以上の再現性を含む)分析的妥当性と臨床的妥当性、そしてユーザーにとっての理解のしやすさに関して高い水準に達しています。

臨床との関連性

DTC遺伝学的検査は、その検査を受けなければ遺伝的なケアに辿り着けなかった人物が臨床的な遺伝的サービスを受けるきっかけになりうるのです。例えば、DTC遺伝学的検査の結果TTR遺伝子にバリアントが見つかり、遺伝外来に受診した50代中盤の女性について考えてみましょう。確認検査によって、28人に1人の割合で存在する診断の難しい疾患であるTTR関連遺伝性アミロイドーシスの診断に至ったのです。本患者はアミロイドーシスが早期発見され、TTR三量体不安定生が確認されました。このように、DTC遺伝学的検査は遺伝的スクリーニングのような役割を果たし、これまでの医療のモデルでは不可能だった規模感で人々に遺伝学的検査を提供することができるのです。
DTC遺伝学的検査はGCにも影響を与えます。妊娠初期の、FDA認定を受けたDTC遺伝学的検査を受けた女性の例を考えてみます。彼女は検査で糖原病I型に関連するSLC37A4遺伝子にバリアントを保持することが判明しました。遺伝カウンセリング後、彼女とそのパートナーは、彼女がおそらく保因者であるということを考慮し、SLC37A4遺伝子を含めた保因者スクリーニングパネルを受けることを決断しました。このシナリオでは、意思決定と医療者のカウンセリングにおいてDTC遺伝学的検査が重要な役割を果たしたことになります。

リスクアセスメント

DTC遺伝学的検査を含む非遺伝学的検査だけを受検し、遺伝学的検査を受けない場合ていない患者の場合は遺伝的リスクアセスメントを提供します。がん遺伝子パネル検査の陽性結果を受け取った患者は、がんのサーベイランスの意思決定を行う前にトレーニングを受けた専門家による個人の既往歴、家族歴を聴取を行う必要があります。保因者スクリーニングは出生前の染色体異数生スクリーニングと確定診断のための遺伝学的検査と共に活用し、胎児超音波検査も併せて実施します。

臨床の場におけるDTC遺伝学的検査への対応

忙しい臨床現場において、遺伝カウンセラーがクライアントと関わる時間は限られています。筆者は7年間周産期の遺伝診療に従事し、臨床現場の状況も理解しています。CGCがDTC遺伝学的検査を実践に取り入れるためのいくつかの提案を以下に示します。

  1. 問診票にDTC遺伝学的検査に関する質問を記載する

  2. クライエントに対して事前にDTC遺伝学的検査の結果レポートのコピーの共有を依頼する

  3. クライエントが検査を受ける動機を確認し、クライエントが予期していなかった結果について尋ねる

  4. どのDTC遺伝学的検査のラボや結果レポートがFDA認証を受けていて分析的・臨床的妥当性を有しているのかを確認する

DTC遺伝学的検査は技術革新によってこの20年で飛躍的な進化を遂げました。クライエントへのDTC遺伝学的検査に関する支援をためらうことはもはや時代遅れです。遺伝専門職は消費者における遺伝学への関わりから、ともすれば、自らがDTC遺伝学的検査を受けることから学びを得ることができます。DTC遺伝学的検査は今後も定着し、患者へのケアを改善または確信させるまたとない機会を提供するでしょう。

訳者あとがき

本記事はアメリカの状況に基づいて書かれており、これをそのまま日本に当てはめるのは適切ではないかもしれません。
日本人類遺伝学会は2008年にDTC遺伝学的検査の科学的根拠、分析的妥当性、臨床的意義などに疑問を呈する声明を発表しています[1]。しかしこれも15年前のことで、アップデートが必要と言えるでしょう。現在は当時よりもさらに市場にDTC遺伝学的検査が浸透してきている状況は日米共通です。
元記事より、アメリカでは一部のDTC遺伝学的検査がFDAの承認を受けていることがわかります。一方日本では、医療において提供される遺伝学的検査は厚生労働省、DTC遺伝学的検査は経済産業省が管轄するという縦割りの構造になっています[2]。医療における遺伝学的検査は医薬品医療機器総合機構(PMDA)の承認を受けている一方で、DTC遺伝学的検査の一部は経産省のガイドライン、業界団体の自主規制を満たしています。こうした規制があるものの、DTC遺伝学的検査の一部に正確性や妥当性、そして消費者のフォローアップ体制に関する不足があることは否めません。

私は2023年春にCGC養成課程を卒業し、同年CGC認定試験に合格しました。私が受けた教育の中ではDTC遺伝学的検査のフォローについては触れられることはなく、日本人類遺伝学会の声明通り医療における活用には疑問が残るというような教育を受けてきました。しかし、今後状況が刻一刻と変化する中で、日本のCGCにもDTC遺伝学的検査への対応が迫られることは十分に考えられると思いました。
元記事で述べられているように、従来では遺伝医療を提供し得なかった層に対して遺伝医療を提供できるという点は、DTC遺伝学的検査の特長と言えます。一方で、その良さを最大限クライエントに還元するためには、私たちCGCを含めた遺伝専門職がDTC遺伝学的検査についても知識を得て、検査を受けた、または受けようとしているクライエントに対して相談の窓口があることを伝え、サービスを提供することが必要なのではないでしょうか。

参考文献

  1. 日本人類遺伝学会「DTC遺伝学的検査に関する見解」(2008)、https://jshg.jp/about/notice-reference/view-on-dtcgenetic-testing/

  2. 武藤香織「『遺伝子検査』へのダブルスタンダードと 不透明な未来、科学技術社会論研究 第 17 号(2019)、https://www.jstage.jst.go.jp/article/jnlsts/17/0/17_129/_pdf

  3. 経済産業省「DTC遺伝子検査ビジネスに係る検討の背景について 第1回消費者向け(DTC)遺伝子検査ビジネスのあり方に関する研究会 資料6」(2020)、https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/dtc/pdf/001_06_00.pdf


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?