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ペルーシンフォニー管弦楽団

私の妻はペルー人、そしてそのお父さんもペルー人だ

お父さんは普段、70年の積年の知恵と、菩薩のような優しい微笑みで、家族を暖かく包み込んでいる

そんなお父さんも、運転すると"スイッチ"が入る。いや、正確にいうと"インカの戦士の血が騒ぐ"というべきか

私はかつてインドのインドールという地方都市でインド式運転技術を体感し、乗車中に歯並びが変わるほど歯を食いしばった経験があるが

今回はそれを上回った

お父さんは決して自らの"ポールポジション"を明け渡さない

中南米では幼少期で覚える言葉は"Mio(私の)"という所有格と、"No(いいえ)"の否定だという

それを見事に運転で再現していた

横から前から後ろから

入ってくる車は交通ルールの範囲内で徹底的にブロックする

スペイン語でCERRADOという

その顔にかつてのアルカイックスマイルはない

そしてペルーシンフォニー管弦楽団ともいうべき

クラクションを奏でて前の車をどけ...誘導していく

Mio!というトランペットと、No!というシンバル

高速道路は彼の独壇場とかした

そして舗装が間に合わないところどころフェルマータのある道とは独創的なハーモニーを奏で

車体はバスケットボールのように鈍く跳ね上がる

私はお父さんにゲンコツのスラムダンクをしそうになったが

妻は真剣にお父さんをサポートしている

その顔には太陽神インティライミを拝む、戦士の娘の顔になっている

私は今、改めて異国にいると感じる

これは文化的孤独とでもいうべきか

さよなら、日本。

パカリンカマ(それでは、また)

※古代インカのケチュア語です。







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