見出し画像

通説とか有力説とか

滝川沙希です。
法学の教科書を読んでいると、ときおり通説という言葉が出てきます。
今回はこの辺りの言葉遣いを紹介します。

はじめに

おさえるべきは、これらの言葉が、いずれも、判例ではないということです。あたりまえですね。それと実は、通説、有力説という言葉が示すところは、区別が曖昧であることです。

通説と有力説

民法学者の内田貴博士によれば、通説と有力説の区別は、次の通りです(『民法Ⅰ第3版』東京大学出版第3版p3)。

まず、通説圧倒的多数の学者が支持しているか、有力な学者の多くが支持している学説です。

そして、有力説内容的な説得力の強い少数説であるか、少数だが有力な説得力の強い少数説であるか。

こういった説明では、「有力な学者」がだれなのか、いまだによくわからないなどと、内田博士は書いています。
ま、上記の本は通説を破壊する本ですので、通説と有力説とを相対的にとらえているわけです(相対性を強調している)。

行政書士試験では、そうしたことにあまり関心を払わずに、通説をがっちり固めましょう
要は、法学の先生たちの争いなのだと、クールに受け止めましょう。私たち受験生が、巻き込まれる必要はありません(院試を受験なさる方は別ですが)。

問題なのは、テキストをみても、通説と書いていないことがある(よくある)ことです。他に学説がないなら、そこは通説というよりも、定説でしょうから、割り切ってそう理解してください。

複数の学説が載っているのに、通説がないなら、『法律学小事典』コメンタールなどで調べることになります。時間がかかるので、ゼミなどで必要な時に限って、あとはググってください。

具体例1

いくつか具体例を挙げてみましょう。

憲法32条と82条の「裁判」について、両者は同一の範囲を指すというのが通説ですね。裁判を受ける権利も、公開されるべき裁判も同じ範囲ということです。
他方、有力説では32条が82条よりも広いと説明します(佐藤幸治)。

具体例2

次は民法から。177条の第三者とはだれか。通説判例は、「登記の欠缺を主張するに付き正当な利益を有する者」ですね。しかし、大昔は「当事者及びその包括承継人以外の者すべて」が判例でしたし通説でもありました。

有力説が通説に

有力説が通説になっていくというのはダイナミックですし、おそらく、学者は自分の学説がそうなるのを望んでいるのでしょう。

一人説

通説、有力説のほかに、多数説、少数説、少数有力説、異説、一人説というのも聞いた覚えがあります。一人説って(笑)。
劇団も一人がある時代、学説もあってよいのでしょう。

かつて民法学者の加藤雅信先生の学説のうち、転用物訴権に関するものが最高裁に採用されました(最判平成7年9月19日)。これは加藤博士の一人説だったと思います。内田博士によれば、最高裁が採用したけれども、通説化はしていないとのこと。このあたり、駆け引きが面白い。興味がある方は、調べてみて下さいね(上記内田民法)。

蛇足

蛇足ですが、加藤先生は東大馬術部のご出身で、民法改正に当初は尽力なさったのですが、途中から袂を分かちました。お話を聞いたこともありますが、明快なご主張が持ち味です。
私は先生の教科書で民法を学びました(名古屋大学出身ではありません)。改正された民法についての体系書を執筆するという話ですので、楽しみです。

まとめ

通説と暗記しましょう。ただし、何が通説なのかを探求しないでください。時間のロスです。


できればサポートお願いします。法律学の勉強の苦痛から少しでも皆様が解放されるように活動しています! 新規六法の購入費用に充てていきます(笑)