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さんかくオニとももたろう①

むかしむかし、あるところにおじいさんとおばあさんがいました。おばあさんが川へ洗濯にいき、川の上流から大きな大きな桃がどんぶらこどんぶらこと流れてきたそのころ、さんかくオニは産声を上げました。
さんかくオニが生まれたとき、お母さんオニもお父さんオニも、その友だちも、そうでないオニたちも、みんなその顔をみて、びっくりしました。
オニなのに、顔が三角だったからです。オニの顔は四角か丸、三角だったとしても、上向きの三角が定番なのです。ところが、さんかくオニとあとで名前がつくその赤ちゃんオニは、下がとがった三角でした。これでは、ぜんぜんこわくみえません。
こまったナァとお父さんオニとお母さんオニは頭を抱えました。オニは人間たちをこわがらせて、宝をうばったり、町をあらしたりするのがしごとです。見た目がなにより大事です。オニは見た目が9割、という言葉もあるくらいですから。
まあ、いずれ四角にでも丸にでもなるさ。やや楽観的なお父さんオニ(顔は丸)はそう言って、心配症のお母さんオニ(顔は四角)をなぐさめました。
もちろん、大きくなって、町をあらしにいくのに付いていくほどになっても、さんかくオニの顔は下向きの三角のまま。あごの先っぽは、みごとに地面を指してました。
仲間のオニたちにずいぶんからかわれて、ひどいことを言われましたが、それで顔は丸くなりません。いつしかさんかくオニは、自分の顔が三角だということに、なんだかほこらしい気持ちもめばえました。なんせ、みんながみんな、三角だと言うのです。四角や丸のオニには何も言わないのに。

ある日、いつものように町へと悪さをしに出かけようとしたら、おおぜいのオニたちが島に戻ってきました。
ももたろうがきた!という悲鳴のような声がどこかから聞こえてきました。桃の絵を描いたハチマキを巻いた青年が、犬と猿と大きめの鳥をしたがえて、鬼ヶ島にやってきました。
ふだん、誰かよそ者が来ることのないこの島に、舟で乗り込んできたのです。それだけで、オニたちは大あらわ。気の弱いオニなんかは、それだけで腰が引けてしまいました。
さんかくオニは思いました。こいつぁいいや。ここであの連中を追っ払ったら、みんなを見返せるぞ。みんな三角に憧れと畏怖をいだくんだ。
そして、桃太郎たちがばったばったとオニたちを倒していくところへ、勇気をふりしぼったさんかくオニは向かったのです。

つづく


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