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長崎出張② 川口、浜口

昨日の夜は、バスでそのまま浦上まで行き、そして川口、浜口とすでに暗くなった街をひとり練り歩いた。雑誌らくで予習したいくつかの店を巡りたい、夜の浜口を見ておきたいと思ったのだ。何より確かめたいことがあり、急ぎ浜口町に向かった。
毎熊書店。ほとんど店名も掲げられていない、本当の街場の本屋さんだった。知らなければ、いや知っていてもここを目指していなければ、たぶん通り過ぎたであろう佇まいである。閉店間際の店内に潜り込み、店内を巡る。少し長崎のコーナーがあったが、やたらと小さな人形が飾られていた(キティちゃんかキューピーか)以外は至って普通。誌面に大きく写っていた奥様も、閉店前だからか、雑誌で見せたような親しみやすい笑顔で迎え入れてくれるわけもない(そりゃそうだ)。
なにか買わなければ話しかけられないと察し、書棚を漁る時間もなかったので、吉田修一の国宝の前編を手にとった。彼もまた長崎出身の男である。そして、同じく長崎出身の彼について聞いてみたく、奥様に聞いてみる。
「毎熊というのは、長崎ではよくあるお名前なんですか?」
「いいえ」
「サッカー選手に毎熊という人がいますよね」
「そうなんですか」
長崎の人は、大阪の人とは違うな、とこの会話だけで理解した。そして、マイクとこの毎熊書店は何の血縁関係もないことも。今回の旅で急ぎ確かめたかったことは、呆気なく、迅速に解決した。
もう一つ、行きたい店があったが、毎熊書店で少し心が半折れしていた身には、その戸を開けるにはハードルが高く、また今度誰かと来よう!と誓って、同じく雑誌に載っていたラーメン屋桃太郎で、キムチチャーハンと餃子を食べた。正直に言おう。このキムチチャーハン、料理のうまい友人が作ったような見た目だか、ほんまに美味い。また行きたい。
その後、浜口から長崎駅前まで歩いて、ホテルに。

今日はふたつほど打合せを無事に終え、夕方に開放された。これから5年、長い長い仕事が始まる。あまりに遠方で多少の不安もあるが、楽しみのほうがはるかに大きい。打合せ後にまた寄った浜口のひいらぎで、固いプリンと味わい深い珈琲を嗜みながら、ここに通うのだと改めて実感した。
帰りの飛行機で、毎熊書店で買った国宝を読む。内容を知らずに買ったが、昭和の高度成長期の長崎で物語は始まった。長崎を舞台にした吉田修一の作品では、悪人や長崎乱楽坂と傑作揃いだ。浜口のあの暗い夜道を思い出しながら読み進めていくと、長崎を追い出された主人公の少年とその友人が夜行電車に乗り、旅立つ。目的地である大阪駅に彼らが着いたころに、ぐるぐると伊丹の上空で順番待ちをしていた飛行機が滑走路に滑り込んだ。
空港バスの車窓からは、見慣れた大阪の夜景がやけに余所余所しく見えたけれど、バスを降りたら、笑い転げている酔客たちの群れに、大阪に帰ってきたんだと思うのだった。

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