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一般男性(25)が藤井風に嫉妬し、ゲリラ豪雨を憂うエッセイ

 念願の藤井風くんのライブ『HELP EVER ARENA TOUR』初日横浜アリーナ公演を観に行った。リアルライブは5月のiriちゃん新木場コースト公演以来なので4ヶ月ぶりか。今回のツアーは頭文字を取って「HEAT」ツアーらしい。そして彼の最新曲は『燃えよ』だ。よくできている。

 藤井風くんの死生観は24歳とは思えないほど洗練されている。ある意味あっさりしているけれど裏を返せばすごく優しさに満ちている。それは楽曲『帰ろう』に全てが凝縮されている。私はネオシティポップやネオソウル系の楽曲で踊り狂っていたが『帰ろう』だけは着席して歌詞に耳を傾けた。去年散々聴いた曲だが改めて聴くと表現がダンチすぎてヤバい。語彙力を落として語りたくなるほどに。歌詞世界の中で描かれているのは明らかに若かりし日々、それなのに終わりの匂いが漂っている。『旅路』や『青春病』にも共通して言えることだが、彼は「いつかくる終わり」を恐ろしいほど大人に受け入れている。とんでもない懐の広さだ。メシア的な振る舞いが持ち上げられがちだが、藤井風の凄さであり彼を完全にアーティスト然たらしめている、そしてスターとしての素質は此処にある。いつか来る終わりの中であなたはどう生きますか?わしはこんな感じやで〜と見せてくれる(その見せてくれる世界が、とんでもないほどノレるネオシティポップだったりするからすごい)。

 『きらり』がバズって良かった。今日もスゲー人数がいて、ファン層も若者だけではなくて、売れるべきアーティストがガンガン聴かれる世界線、良いなと喜びを得た。かつて私はCD店員だった。その立場で藤井風くんを売りたかった。人生に「踊り」を取り戻させてくれて本当にありがとうね風くん。(青春病のMVはショートフィルムとしてすごくいいです)

 さて、会場を出ると雷が鳴り響きヘソを隠す必要が出てきた。そして程なくして、ああ何年前だろう、高校の研修旅行先であったマレーシアで遭ったスコールのようなゲリラ豪雨が新横浜に襲いかかった。HELP EVERはどこへやら、プリンスぺぺに駆け込む人々たち。仕方ないことである。サコッシュの中に読みかけの『コインロッカー・ベイビーズ』を入れっぱなしにしていることを忘れ、雨の中をゆっくり歩いた後、これはもたんわと結局コンビニに駆け込み傘を買った。コンビニ傘のコレクターになりたいわけじゃない。でもコンビニ傘はとてもメルカリで売れない。うちのベランダにまた一本、傘のストックが増えてしまった。

 それにしてもこの雨の降り方はヤバい。小さな頃見た大雨はこんなんじゃなかったし、「ゲリラ豪雨」という言葉が生まれた時もこんなのではなかった。どうやら本当に気候変動しているらしい。ただでさえこんな世の中になってしまったのに、気候まで変わってきている。もう本当に、昔のようには戻れないのではないか、と嘆く一般男性(25)に藤井風(24)がいろいろ問いかける。一喜一憂してたらあかんで〜と言われている気がする。襟を正す。情けない。

 『帰ろう』を聴いて正直凹んだ。年齢で比べるなんてしょうもないことはわかっているけれどやっぱり年功序列の中で育ってきたから、自分より年下の子がこれだけの表現をしているという現実に少し落ち込み悔しさを得る。でも何より私が得なければいけないのは多分焦り。書けよ何やってんだほんと。

 粗利率25%を作るためだけに生きるわけにはいかない。時間を確保するために電子レンジを買え。無駄なものは買うな。名作から学びを得て自分の地肉としろ。途方もない才能を目の前にした時自分の愚かさが表出する。それでも自己を信じ、愛せるか否か。地球規模のことを憂うのはもう少しあとから。

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