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「モノクロームの人形たち」

満ちたる月が照らしている 。

窓際のベッドを。

そのベッドの上に、二人の少女が眠っていた。
仰向けになった少女に、もう一人の少女がうつ伏せで重なるように、窓から差し込む月の光が二人をその部屋から浮かび上がらせていた。
ふと、上になっていた少女が月の気配に目覚め体を起こす。
窓の外の月を見上げるその肩越しに、はらりと長い髪が落ちる。
その髪は白く、まるでプラチナで出来た糸のように月光にキラキラと輝ていた。
その髪がかかる肌も、その皮下の血が透けて見えるほどに白く、まるで冷たい陶器のようだ。


「コールド・ドール」


あの子は冷たい人形

プラチナの肌をした人形

あたしの

この

醜い傷と汚い血にまみれた この体を

獣の唾液と体液にまみれた この体を

冷たく癒してくれる

ああ

お願いだから

あたしの前から消えたりしないでね

あなたがなければ

あたしは生きていけないの

お願いだから

プラチナの肌をした人形

あたしの冷たい人形


「ねえぇ。ユキぃ。」
下になっていた少女も目覚めた。
「なあに。リィナ。」
月を見上げたまま、ユキと呼ばれた少女が応える。
「ここから見るユキは、まるで白の化身みたいだよ。」
「そう?」
「このまま額に閉じ込めて永遠に飾っておきたい。そんな気分。」
「リィナ。まるで何処かの芸術家のような台詞ね。」
そのまま顔だけをリィナと呼ばれる少女の方に向けてユキは微笑んだ。
きゅうっと口角の上がったその唇は、まるで血の色がそのまま浮き出たように赤い色をしていた。



「悲しいリィナ」

リィナ リィナ

悲しい リィナ


自分自身を傷つける事でしか

生きていけない あなたを


痛みを感じる事でしか

自分を愛せない あなたを


そんなあなたを 止める事ができない

あたしを 許して


そんなあなたを 愛している

あたしを 許して


あなたは あたし

無くした あたし


リィナ リィナ

悲しい リィナ



はらはらと、ユキのプラチナ色の長い髪がリィナの顔に落ちてくる。
「ねえぇ。ユキぃ。あたしユキが居ないと生きていけないの。あたしと離れないでね。ずっと一緒にいてね。」
月の光に潤んだ目をしてリィナは言った。
「大丈夫よリィナ。あなたはあたしの欠けた一部。あたしが生まれてすぐに無くしたモノを、あなたは持っているの。だから一緒よ。ずっと一緒。」
月の光ごしにユキは答えた」
「ありがとぅ。ユキぃ。ユキの事はあたしが守るよ。絶対に守るよ。」
リィナの潤んでいた目は強い光を帯びていた。



「折れない心」

あたしは 痛みを無くした人形

だけど

だから

絶対に 折れる事の無い人形

そして

唇には 真っ赤なルージュをひくんだ

左手首にも 一本ひく

その上に 黒いリボンを結ぶ

決して

折れない心 を刻む為に


「ねえぇ。ユキぃ。キスして。そしてあたしを眠らせて。」
「いいよ。リィナ。」
ユキは、リィナの下唇に通されたシルバーのピアスをその舌で舐め、そしてその赤い唇でキスをした。深く長いキスをした。
その長い睫をした目が静かに閉じられ、リィナは眠りにつく。
キスを終えたユキは、リィナの右耳に通された5個のピアスを猫のように舌で舐める。
その赤い舌に感じる金属の冷たさが、ユキは好きなのだ。

「おやすみリィナ。悲しいリィナ。」

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