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現状と、背後にある官の構造――北沢栄『静かな暴走 独立行政法人』(日本評論社、2005年)評

行政改革の新手法として、2001年度に導入された独立行政法人制度(以下「独法」と略記)。その数は、05年11月現在、二百法人を超える。とはいえ、「改革の有効打」として導入されながら、いまだその実態については不明なままだ。本書は、そうした不透明な独法の現状とその背後にある官支配の構造とに関する、おそらくは本邦初の、貴重な体系的記述である。

著者いわく、国家事業の独法化の波は三つ。第一が研究所や博物館、第二が特殊法人や認可法人、そして第三が国立大学や国立病院の独法化だ。今後は第四の波として、独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構や年金積立管理運用独立行政法人など、国民生活に多大な影響力を有する大型独法の設立が続いていくという。

表向きは確かに「官から民へ」だが、問題はそこで現実に何が生じているかだ。著者によれば「官僚の天下り先」とか「府省庁の言いなり」といった特殊法人の構造的な地位が、独法にそのまま受け継がれているという。それどころか「業務運営の自律性」を逆手にとった職員給与・賞与の引き上げさえ行われているのが実態とのこと。つまり独法は「第二の特殊法人」、新たな「官の聖域」と化してさえいるのだ。

「改革」の実態がこうもひどいとなると、もはや打つ手などないかのようだ。だが、著者も指摘するように、こうした官システムの内情が私たちにもわずかながら見通せるようになってきたのは、独法のもう一つの特性たる情報公開の原則によるところが大きい。とすれば、これは小さくも大きな一歩といえるだろう。いずれにせよ、システムの改革は長期戦が前提だ。この気が遠くなるような過程に耐え続け、関心と監視とを持続させること。よりましなシステムを構築していくために私たちが支払わねばならないコストが、それなのだと思う。

著者は、鶴岡市に位置する東北公益文科大学大学院教授。「官益」を告発する「公益」のまなざし。そんなふうに読み解くのも面白いかもしれない。(了)

※『山形新聞』2005年11月20日 掲載

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