エアイズ王国SS1「ミスリル砂金」
「マリア・そっち行きました」
「うん、ササッとやっちゃうね、トヤァ」
「私もやるにゃあ」
ビッグ・ゴブリンの群れと戦闘している。
私たちはエアイズ迷宮の46階の森エリアで戦っているところだった。
世界最大規模のダンジョン「エアイズ迷宮」はエアイズ王国の王都リッテンマイアの地下にある。
攻略の最先端は今60階に達していた。
全部で100層だという意見も500層だという意見もあるが、わかってはいない。
古代遺跡と思われるエレベーターが何機かあり、10階、20階、30階へと直通で昇り降りができる。
ダンジョンにあふれる魔力を動力にしているとされるものの、解明はされていない。
エアイズ迷宮は世界最古の迷宮とも言われている。
その周りにいつしか町ができ、都市になり、今ではその名を冠したエアイズ王国になった。
「ふうふう、これでラストね」
私が最後のビッグ・ゴブリンを斬り伏せた。
私マリア、エナル、サーナの3人は冒険者パーティー「レッドキャッツ」を組んでいる。
「お疲れ様にゃん、マリア、エナル」
「はい、お疲れ様です」
「うんうん、お疲れ様。みんなありがと」
みんなで戦果を称える。
ゴブリンを倒したものの、特に報酬があるわけではない。
よく、一般人にはモンスターが消えてドロップアイテムが出現するという噂がある。
実際にはそんなことはなく、しばらく死体は残るし、ドロップアイテムもなかった。
「ゴブリンソードか、一応拾ってくね」
所持品が残ることはある。そういうモノを見たことの誤解なのだろう。
ゴブリンソードは鉄製でまぁまぁの値段になる。
「ああ、剣が」
「なに、また壊しましたの、マリア?」
「あ、うん。鉄の剣はそろそろ限界ね」
「ミスリルにするにゃ、ミスリル」
「そうね、ネタじゃなくて本当にそうしようかな」
ミスリスは希少金属でこの近辺では隣国で少量産出しているくらいだった。
「57階のミスリル砂金のこと、知ってる?」
「もちろんです」
「にゃは、かなり下にゃんよ」
「でも、欲しいね、ミスリル」
「ふにゃあ」
サーナが本気かという顔をして驚いた。
たしかに57階ともなれば、最前線に近い。
30階より上は洞窟型迷宮をしており、部屋と通路でできている。
しかし30階からは開放型自然型迷宮で、空や森、草原などが広がっていた。
中には海と島のフィールドもある。
迷宮攻略はなかなか進んでいない。
最深部を目指すという名目はあるものの、ある程度の階層でも利益が出るためモチベーションがそれほどないのだった。
しかし下の階のほうが高価なものが多い。
一攫千金を狙う一部のパーティーはさらに下を目指していた。
私たちもほぼ最前線で戦う有名冒険者の一人だった。
「サーナ、予備の剣出して」
「はいにゃ。どうぞ」
「ありがと、いつも助かるわ」
「お安い御用にゃ。ポーターは獣人の十八番にゃし」
「うはふ、そうね」
サーナは猫耳族だ。獣人たちはなぜかアイテムボックス所有率が高い。
中でもサーナはかなりの大容量を収納できる。
いま期待のポーターちゃんだった。
普段はその応用で弓使いをしている。
私はご覧の通り剣士で、エナルは魔法使いだ。
◇
戦闘を続け、57階まで降りてきた。
「やっとついたにゃ」
「そうねサーナ」
「やりますか」
「うん」
平原フィールドはかなり広い。
その中を沢が流れていた。
水は綺麗で魚も泳いでいる。
あちこちに砂が堆積していた。
「そのあたりかしら」
「まぁ、やってみましょう」
「頑張るにゃ」
みんなで皿を持った。
砂をすくい、皿を動かしながら水に流していく。
砂がだんだんと減っていき、重いものが残るのだ。
「あっ、あった!」
小さな小さな銀の粒。
キラッと輝いていた。砂金のように酸化しないのだ。
これがミスリルの輝きなのかと、感動する。
しかしその粒はあまりに小さい。
一ミリもないのだった。
「これで剣を作るとしたらですね……」
「そうだね、たくさん集めないと」
通常はミスリルと鉄が半々の合金にすると、ちょうどいい硬さになると言われている。
それでも剣の半分の量を集める必要があった。
「うにゃあ、大変にゃあ」
「腕にくるね、あはは」
「終わるまで頑張りましょう」
ミスリルの砂金を取り続ける。
砂金と呼んでいるが正確には砂銀だ。
「疲れたにゃ」
「今日はこの辺にしましょ」
近くでキャンプをする。
迷宮下層では、このように泊まることもよくある。
夜間は順番に見張りをする。
夜ご飯やテントはアイテムボックス頼みだった。
サーナが出してくれるので、助かる。
夜ご飯は具沢山のスープだ。
ミネストローネのような感じのもので煮込む。
ここは平原フィールドだけど、ちゃんと夜は暗くなる。
なかなか不思議な仕組みだ。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
「おやすみにゃ」
三人でテントの中で雑魚寝する。
「むにゃむにゃ、お魚にゃ」
「ふふ」
サーナの寝言が聞こえる。
魚でも食べている夢でも見ているのだろう。
王都リッテンマイアはエアイズ湾に面していて、港があり、魚介類も豊富だ。
魚は王都民の貴重なタンパク源になってた。
「おはよう」
「おはようございます」
「おはようにゃ」
みんな起きる。
朝ご飯は軽く麦粥にする。
「では再開」
「頑張りましょう」
「えいえいおーにゃ」
ミスリル砂金取りは地道な作業だ。
それでもかなりの量が砂に含まれていて、ちょっとずつでも溜まっていく。
丸二日間。一生懸命にミスリル砂金を採り、袋いっぱいになった。
このミスリル砂金の山、値段でいうと同じ量の金よりも高い。
「ざっくざくにゃ」
「そうね、これだけあればお金持ちね、ふふふ」
「二人とも、残念だけど剣にするんですよ」
「わかってるにゃ」
「もちろん!」
足早に階層を上がっていく。
それでも途中何度もモンスターに足止めされた。
今死んだら、死んでも死にきれないだろう。
「30階エレベーターにゃ」
「やっとついたね」
「鍛冶屋に行きましょうね」
三人でエレベーターの中で少しの間休憩だ。
エレベーターはあまり速くないのだった。
浮遊感があり、地上に到着した。
「やっと地上ね」
「太陽が眩しいです」
「お日様ポカポカにゃ」
太陽の下、鍛冶屋に直行した。
「よくこれだけミスリル砂金を集めたもんだ」
「でしょでしょ」
「久しぶりじゃな、昔はよくミスリル剣を鍛えたもんだがな」
「隣国の産出量が減ったんでしたっけ」
「ああそれもある。北の方で需要が増えてな、そっちへ流れてるんじゃと」
「なるほろ」
世界は広い。この国の都合だけではいかないのだ。
「腕が鳴るわい」
「ふふ、楽しみにしてます」
「おおう、3日くれ、なんとかする」
鍛冶屋のオヤジはニコニコ顔で奥に向かった。
3日後。
「おお、マリアちゃん、できとるぞ」
「ありがうございます」
「久しぶりにいい仕事ができた。感謝するのはワシの方かもしれんな」
「そんな。とてもうれしいです」
「がっっはっは。そんじゃ、ほい」
剣を渡された。
ミスリルのショートソードだ。
この剣は機動力を活かせるように普通のモノより短めになっている。
「いい剣ですね」
「そりゃ、ワシが打った剣だからな」
二人してニヤリと笑いあった。
冒険者ギルドに顔を出したら、パーティー「ブラックヘッズ」のカブルが私の剣を目ざとく見つけてきた。
「どうしたん、また新しい剣か。どうだ?」
「ミスリルソードをな、ちょっと」
「見せてもらってもいいか?」
「いいよ」
剣を出して、渡して見せる。
「すごいな、さすがミスリル、いい。素晴らしい。欲しい」
「あげないよ」
「わかってる。アレだろ例のミスリル砂金」
「そうそれ。場所見つけたんだ」
「案内してほしい、それからミスリルの買い取りも」
「ああ、じゃあ一緒に行く?」
「頼んだ」
ブラックヘッズと一緒に57階へ向かった。
「ここだよ」
「普通の小川だな」
「まぁ見てなってね」
私たちが実際にミスリル砂金を取ってみせる。
「これがそうか!」
「そうだよ」
彼カブルは私と違ってロングソード使いだった。
当然として剣一本作るのにもたくさんの材料がいる。
私たちレッドキャッツもミスリル砂金集めを手伝った。
当然、棒天秤で重さを測り、買い取りしてもらった。
「マリアさんたち、ありがとう」
「いえ、いいんだよ。対価は貰ってるし」
「これでロングソードができるぞ」
私とカブルがミスリルソードを手に入れたことは、冒険者ギルド内で少しだけ噂になった。
ギルマスはそれを聞きつけて、指令を出した。
それはポーターズの少年少女たちを引率して、みんなでミスリス砂金取りをするということだった。
「みんな、よろしくお願いします」
「よろしくですにゃ」
「よろしくわん」
「よろしくぴょん」
ポーターズは冒険者ギルドの下部組織で、少年少女たちがポーターとして所属している。
主に若い冒険者と一時的な野良パーティーで一緒に行動している。
様々な獣人の子供たちがいた。
「では出発です」
「「「「はーい」」」」
みんな滅多にこれない下層へ降りられると聞いて興奮していた。
怖いと思っている子も中に入るようだった。
基本的に下層のほうが強いモンスターが出る。
こうして私たちパーティーはポーターズと共に57階へ行った。
みんなで泊まると結構大変なのでぎりぎりの日帰りだ。
だから今日は朝から早い。
今日は私たちの番だけども、ブラックヘッズや他のトップ冒険者たちが順番に引率するという。
私のミスリルソードは50%ミスリル製だった。
彼カブルのはちょっと下がって40%ミスリルになっている。少し節約したらしい。
妥協ではあるが、それでも十分な性能だった。
今回ポーターズが集めたミスリル砂金は、鉄に10%ミスリルという劣化版、なんちゃってミスリルソードとして販売されることになった。
何人かの冒険者はこれを購入できたらしい。
この国ではミスリルは非常に高価で貴重だった。
私は自慢の愛剣を腰に下げて、今日も冒険を続ける。
(終わり)
ご案内
この小説はAipictors公認企画の原作小説となります。
自由に二次創作をしようという企画になります。
詳細については、下記のコラムをご覧ください。
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