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デザイナーの可能性を模索し続けてきた、ほぼ11年をふり返る〜第5章〜

デザイナー11年間のふり返り。最終章となる今回は、デザイナー10周年を過ぎてこれからどんな形でデザインに関わっていこうか.. 大学院を修了してこれからどうやってデザイン研究を続けていこうか.. と模索していったときに考えていたことをふり返ります。(今もまだまだ模索中..)そして、これからやっていきたいことも小出しにしていきます。まだふわふわした話です。でも一番生々しい話かもしれません。

第1章 デザインの現場を知る
第2章 UXデザインの広がりとともに
第3章 UXデザインの継続に向けて
第4章 デザイン研究へのチャレンジ
第5章 デザインの実践と研究を模索

10年間は全てつながっていた

新卒から10年間ヤフーでデザインの仕事をしてきて、その10年間を改めてふり返ってみると、あっという間だったけれど、変化に富んだ密度の濃い10年間だったなと感じます。

第1章に載せた11年間の活動領域マップをもう一度↓

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デザイン業務、UIデザイン、UXデザイン、マネジメント、人財育成、UXの組織支援、研究・・・こうやって並べてみると年々変化がありました。

でも変化が多かったとはいえ、ヤフーでの10年間の活動は、社内外の活動含め全てつながっていたものとも言えるんじゃないかと思えてきました。チームを異動したり、関わるプロジェクトが変わったとしても、それまでやってきたことと全く別ものとして分けて考えてはいませんでした。

「デザインは全体性を大事にするもの」これは東京藝大大学院時代にゼミで度々須永先生がおっしゃっていた言葉です。デザイナーは無意識のうちに全体感が気になってしまうところがあります。これは私にも言えます。全体感が気になると同時に、細かい部分も気になります。全体と部分の行き来をしながら進めていくデザインのあり方は、デッサンに通じるというのは度々言われる話ですね。

自分がやってきた活動を私が分けずにつなげて考えてきたのは、全体性を大事にするということもありますが、もう一つ自分の経験してきたことや関わってきた人たちの関係性を踏まえ、それまでの経験のどこが次の活動に活かせるかを考えて活動してきたと捉えることもできると思っています。

チームでUXデザインをやろうとしたとき、ものづくりに関わる人たちがUXデザインの考え方ややり方を学ぶ場としてワークショップも有効ですが、学んだことをすぐうまく実践するのは難しいので、実際のサービス開発のプロジェクトチームをサポートすることも必要です。そして、組織の中で継続してUXデザインを実践していけるようにするためには、その組織内でUXを実践・推進していく役割としてUXデザイナーを育成することも必要です。さらに、UXデザインをチームで継続的に実践していくためには、チームづくりも避けては通れません。

私が理想と思うデザインのあり方を探求していったら、自然とこれだけの活動へと広がっていきました。

ふり返りの連載で度々紹介している「デザインの知恵」で須永先生が関わってきたデザイン対象の移り変わりとデザイン領域の変化を表した「デザインを考えるためのひとつのビュー」が出てくるのですが、これに私の活動を当てはめてみると、下の図に赤字で書いたような感じかなと思います。UIデザインから、UXデザイン、そしてUXを活用できる組織づくりへと広がっていきました。

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黒帯は手段であり通過点

第2章で触れましたが、私はヤフー社内でデザイン思考、UXデザインを推進する活動をするようになり、UXデザインの黒帯をやっていました。ヤフーで黒帯をやると、その分野を極めた感が出てしまい、社内外ですごい人扱いされることも少なからずありました。そう見られる肩書きだとわかってはいたものの、そこに違和感を感じることもありました。

たまに「黒帯やったのに更に大学院で学ぶとかすごいね」と言われることもありました。黒帯を専門性を極めた頂点と捉えていると、「これ以上学ぶことなんかあるの…?」と思うのかもしれません。でも、広義のデザインにおいて「デザインはここまで」という境界はないと思っているので、世の中の変化とともに学ぶことは尽きません。私にとって黒帯は周囲から信用を得やすくするための手段に過ぎませんでした。もっとクリエイティブなものづくりをしていくために何が足りないのか?探究し、UXデザインなど事業開発のことだけ考えていてもうまくいかないと思い、チームづくりを研究して組織開発にも足を踏み入れていきました。

自分なりのデザイン研究のあり方を探究していきたいが…

2019年の春、大学院に通う日々も終わり、また毎日会社の仕事にフルコミットな日々が始まりました。大学院に通っていた間、少なからずコミットし切れていなかった罪悪感もあったので、とりあえずしばらくは今社内で求められる仕事をがんばろう!という気持ちで働いていました。その一方で、これから研究をどう続けていくか考えなければ..というのが頭の片隅にありつつも、仕事の中では考える時間も作れない日々が続いていました。研究を続けるとしても、会社の中ではデザイン研究の議論ができる仲間がほとんどいない。そんな状況でどこまで研究のレベルを上げていけるだろうか?大学院時代の後半は、研究の話は社外の知り合いとたまに議論できればいいと割り切ってやってきたものの、このままでは研究のレベルを上げていくのにものすごく時間がかかってしまうのではないか…という不安が徐々に大きくなっていきました。

2009年に社会人になって丸10年が過ぎ、私も33歳になる。定年が60歳な時代ではもはやないけれど、健康面を考えたらあと何年元気に働けるだろうか?とふと考えました。このままヤフーで10年20年、それなりの成果を出しながら働き続けることもできるんだろうな..と思いつつ、この先もデザインに関わっていく中で、私が本当にやりたいこと、私にしかできないかもしれないことはなんだろうか..とまじめに考えました。そのとき、やはり捨て切れなかったのが、「デザインの実践と研究の両立」でした。これがそれなりに満足できるレベルでやり切れなかったら後悔するんじゃないかと思ってしまいました。これは元気に働けるうちにできるようになりたい!そのための最短ルートをなるべくいきたい!と考えるようになりました。これが転職を真面目に考え始めたきっかけになったように思います。

ヤフーの中では、まだまだUXデザインがうまくできていないサービスや組織はあって、私が退職する直前にも「なんでこのプロジェクトに瀧さんは入らないんだ?」と裏で言われていたと聞いたりしました。(裏で言うくらいなら直接言えばいいのに..と思ってしまいましたが)でも、UXの推進活動も早いもので5年くらい続けてきたので、まだまだ需要があることはわかってはいたけれど、これ以上同じことを続けていては自分が成長できないと思ってしまい、変化が少ない状況に物足りなさを感じていた部分もありました。

求められる成果とデザインの本質探究の間で葛藤し…

デザイナーなら、デザインの本質を見失ってはいけない!デザインは、あくまで人の生活をより良くするためを第一に考えることを忘れてはいけない。それなくしてビジネスにはならないし、評価もされようがないはず、本来は。それでも、成果を出さなければやりたいこともやらせてもらえないからと割り切ってずっと求められている一定の成果は出せるように努力してきました。同時に、本質的に大事なことを地道に訴え続けていくことは惜しまず続けていました。全員に受け入れられないとしても、少しでも共感してくれる人が出てきてくれると信じて。私がデザインの本質を見失うことなく自分が信じる道を続けて来られたのも、会社の中だけが全てではなく、大学院に通ったり、普段から社外の人たちとも情報交換をして、さまざまな考え方に触れられていたからじゃないかと思います。

ヤフーでの最後の1、2年の仕事は社内で大して評価されてはいません。評価されようと思えば、そのための仕事の仕方は他にあったと思います。それは分かっていましたが、あえてわかりやすく評価されるための仕事には力を入れませんでした。ヤフーの中でどんどん成果を残して偉くなる道もあったかもしれませんが、偉くなったらもっと忙しくなるし、デザイン研究ができる気がしなかったし、それが自分にとって幸せな働き方だとは思えませんでした。やはり私は自分が気になることを探究し続け、目の前の誰かの役に立つ仕事をしている方が充実感を感じていられるな、と思ったのでした。

デザインの実践と研究を一体のものとして体現していきたい

転職することを決め、長年使ってきた会社のメールアドレスも使えなくなるので、連絡先変更の連絡をせねばと思い、須永先生へ転職の報告も兼ねてメールを出しました。その返信メールでハッとさせられたのは、

「デザインの実践と研究はもともと一体のものなので、わけずにやってください。」

こう書いてあったことでした。「デザインの実践と研究の両立」と自分の中で考えていたけれど、「両立」というと、それぞれ別のものと捉えてしまっている言い方になっていることに気づかされました。デザインは全体性を大事にするんだから、デザインの実践と研究も別物として捉えてしまってはダメだ!一体のものとして捉えてやっていこう!と改めて決意しました。

「デザインの実践と研究を一体のものとして体現する」これを次の中長期的な目標に掲げてやっていこうと決めました。「一体のものとして」がどういうあり方なのかはやりながら探究しているところです。

Experience Designerとしての「深化」を目指す

ヤフーにいた10年8ヶ月でやってきたことは主に「UXデザイン」でしたが、今後はいわゆる「UXデザイナー」をやるつもりはありません。それはUXデザインをやらないという意味ではなく、私にとってUXデザインはどんな活動をするにしても、当たり前に自然にやってしまう基礎になっているからです。ただ、「UX」と言うとユーザーの体験だけしか考えないように見えるのも少し違和感があり、使い手だけでなく作り手の体験も大事にしたいという意味で、2020年2月から所属するミミクリデザインでは「Experience Designer」という肩書きにしました。ミミクリデザインでは「創造性の土壌を耕す」を理念として掲げていますが、私にとっての「創造性の土壌」には「Experience Design」という堆肥が埋め込まれている、みたいなイメージです。

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正直にいえば、UXデザインだけやっても今までと同じことの繰り返しでおもしろみがないし、新しい要素を加えてやった方が楽しそう!という単純に新しいことにチャレンジしたいという思いもあります。

ミミクリデザインでは2020年3月から4期目に入り、「深化と探索」のテーマを各個人でも掲げて取り組むことになりました。そこで、私は「ミミクリらしいサービスデザインの実践」を深化の目標に掲げて取り組んでいくことにしました。これまでのUXの経験をベースとしつつ、ミミクリデザインのクレドで語られている5つの「葛藤」を大事にしたサービスデザインを実践してみようと思っています。ちょうど、ミミクリデザインが提供するWorkshop Design Academiaのサービスリデザインのプロジェクトのディレクションを担当することになったので、まずはそこで実践し始めています。

「探索」のテーマは、大学院時代に取り組んだリフレクション研究の次のフェーズの研究テーマとして取り組んでいくことにしましたが、こちらはまたの機会にnoteに書こうかと思います。

デザイナー11周年を迎えるにあたって

4月から2020年度が始まると、デザイナー11周年になります。(本当に11年あっという間..)全5章にわたって、デザイナーになってからこれまで何を考えて過ごしてきたのか書いてみました。今後は、デザインの実践と研究を一体のものとして体現するためにも、ときどきnoteに書いていこうと思います。


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