【漫画】『ハイパーインフレーション』で描かれる他者理解
連載をずっと追っていた作品『ハイパーインフレーション』が面白かったので感想です。
主人公ルークの成長
主人公ルークは、一方的に虐げられる側の立場。偽札を作れる特殊能力はあるものの、それをうまく使えなければ意味がない。聡い彼は、能力の利点と弱点を瞬時に理解して、相手を騙していく。
しかし、物語序盤にして、超えるべき2人の壁(ライバル)が早速出てくる。1話表紙にもいる官僚と商人である。
この二人はルークよりも年上で、お金と人と思惑とすべてが渦巻く取引に長けている。経験の好循環ループで、生き残った人物たちだ。
ルークは成長途中の子供であり、ライバルの2人は大人。くぐり抜けてきた修羅場の数と経験が違う。大人たちの先読みは、バウムクーヘンのように、何重にも重なる思惑がある。
ルークは最初の戦いで、読み負ける。騙し騙される社会を知る。勝ち抜くために、頭を使い始める。この導入が素晴らしい。
画やネタの癖があるけど、しっかりとした王道少年漫画だ。
騙し合いから生まれる他者理解
騙し合い、人を出し抜くことはコミュニケーションでもある。これがこの作品を読んで学べたこと。
この作品の特徴の一つは「キャラクター退場率の少なさ」。同じようなメンバーのやりとり。騙し騙され、共闘と裏切りを繰り返す。負けたから退場にはならない。
特に主人公とライバルの大人2人は、何度も手を変え品を変え、戦い続ける。相手を出し抜く、裏をかく。しかし、恨みがない。妙にスッキリしているのが新しさだろう。
ギャグテイストなのも影響しているが、キャラが嫌いになるような「一線を踏み越える行動」がないのが理由だろう。
主人公とライバルたちは、敵でありつづける。裏切りも何度も行われる。しかし、なぜか憎悪に行き着かないのだ。むしろそれは、相手への理解と信頼に変わっていく。
「騙し合い」というゲームに興じるためには、相手の考えを深く理解しなければならない。相手を出し抜くためには、他者を理解して、能力を信頼する必要が出てくる。
そしてそれは、形を変えた友情や愛情にすら見えてくるのが、この作品の凄み。
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