日本の難民政策プロフィールを見直す

読売新聞が、難民認定制度の改革を含む出入国管理・難民認定法の改正案について報道。早速、ネットなどでは「法を破った外国人になぜ在留を認めるのか」といった批判が流れ、人権擁護団体などが「外国人の権利擁護に不十分」といった批判の声を上げている。入管庁はこれらの相反する批判を汲んで法案を作る必要がある。

今回の改正案のポイントの一つが「準難民」(補完的保護)の枠組みの創設。難民条約にはない理由で保護を求める者に庇護を与えるもので、典型は紛争国からの紛争(戦争)難民。「難民」と同様な地位を与えられるので、旅行証明書や家族呼び寄せもできると思われる。

第2が難民認定基準の公開。今まで推測するしかなかった基準が明らかになることは、透明性の向上とともに、基準を巡る建設的議論に役立つ。

第3に「管理措置」制度の導入も評価できる。課題は、どう運用され、また想定対象者がどう反応するかだ。良かれと思って導入した取り扱いが想定外の事態を引き起こすことはしばしばある。

第4は、記事にはないが、難民認定手続きとは独立した特別在留許可手続きの創設。難民認定は求めないが、日本に在留せざるを得ない事情を持つ者にはいいニュース。今までは、特別在留許可を得るために難民申請をするというケースもあった。

ただ、このニュースも含め、日本での難民政策を巡る議論は「難民認定」に限られ、世界各地に何年、何十年と滞留する2500万人の難民の保護に日本(人)としてどう向かい合うべきか、というマクロな難民政策についての議論は少ない。

世界の圧倒的多数の難民、特に紛争・戦争難民には日本まで逃げてくる可能性はほぼない。内戦が続くような国で、当局から旅券を発行してもらうのは至難だ(ちなみに日本人でも旅券を持っている者は4人に1人)。バングラデシュにいる100万人以上のロヒンギャ難民はミャンマー政府により国籍を剥奪されているから旅券はないし、難民キャンプから出ることすら許されない。

日本に来るためのビザの取得も大変だ。ビザ申請書には滞在目的から滞在先、保証人などを記入したうえで、滞在費や往復の航空券も準備しなければならない。多くがブローカーを頼るが、その費用も高額だ。乗り換えの空港でも旅券・ビザチェックがあり、偽造旅券は見破られる。今年に入って広がるコロナのせいで、各国は国境を閉ざし、航空機での越境移動はほぼ不可能になった。

そもそも、知人などがいない限り、中東やアフリカの紛争国からあえて言葉も分からず宗教も文化も違う日本に保護を求めて来る難民は少ない。「難民審査を厳しくしないと、難民が大量に押し寄せる」というのは日本人に多い幻想・妄想だ。

難民問題の大規模化と長期化を前に、2018年の国連総会で決まった難民グローバル・コンパクトは、①難民の自立能力の強化、②多数の難民を受け入れている途上国の負担の軽減、③第三国定住など合法的な移動ルートの拡充、④難民が本国に帰還できるように状況を改善する(平和構築)を謳っている。各国の努力は定期的に評価されるが、日本はこの4つの目的の推進のために大きな貢献ができる。

日本の「難民政策プロフィール」は、①難民認定による受け入れのほか、②責任/負担分担のための、③同じく第三国定住などの代替的受け入れルートの3本柱から成る。

②の資金協力では、政府は毎年150憶から200億円の資金をUNHCRなど国連機関に出している。2国間ベースでも、シリア難民を受け入れる中東諸国の負担軽減と安定のために数千億円の支援をしている。その効果は数十万人、数百万人単位の難民・国内避難民に及ぶ。民間でも、例えば国連UNHCR協会は昨年はなんと40億円近い寄付金を集めてUNHCRに提供している。他の大手NGO も難民支援で億単位の寄付金を集める。13の私立大学はUNHCRと協力して難民(と同じ境遇にある)学生を無償で受け入れる事業を続けている。

③の難民第三国定住事業は今年から年間受け入れ枠が30人から60人に増え、いずれ100人以上の難民が受け入れられる。シリア難民の留学生としての受入れも年間30で続いている。

このほか人的貢献もある。途上国の難民支援の現場では、数十人の日本人がUNHCRの事務所で働き、同じぐらいの若者がNGOスタッフとして難民キャンプなどで働いている。「日本は難民に冷たい国」とは言い切れない。

ニュースになることは少ないが、日本は官民で世界各地の多くの難民(や国内避難民)を助けているのだ。課題は、縦割り行政の中でさまざまな支援保護活動が統合されていないことだろう。

日本に来た難民も来(れ)ない難民も、等しく救済される権利があるということを共通認識にして、難民グローバルコンパクトの精神のもと、官民による「日本の難民政策」を打ち立てたいものだ。


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