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【五木寛之 心に沁み入る不滅の言葉】 第15回

『生かされる命をみつめて 自分を愛する 編』 五木寛之講演集


 五木寛之さんの『生かされる命をみつめて 自分を愛する 編』から心に沁み入る不滅の言葉をご紹介します。

 五木さんは戦時中から特異な体験をしています。
 「五木さんは生まれて間もなく家族と共に朝鮮半島に渡り、幼少時代を過ごしました。そこで迎えた終戦。五木さんたちは必死の思いで日本に引き揚げたそうです」(「捨てない生活も悪くない」 五木寛之さんインタビューから)


 今年9月に90歳になるそうです。今日に至るまで数多の体験と多くの人々との関わりを掛け替えのない宝物のように感じている、と思っています。

 五木さんは広く知られた超一流の作家ですが、随筆家としても、講演者としても超一流だと、私は思っています。

 一般論ですが、もの書きは話すのがあまり得意ではないという傾向があります。しかし、五木さんは当てはまらないと思います。 



「憂いなきに似たり」から

五木寛之の心に沁み入る不滅の言葉 1 (43)

 
 人生を悲観的に見るな、ということがよく言われます。では、楽観的に見ればいいのか。
 大いなる楽観と大いなる悲観というのは、じつは裏表の一枚の銅貨ではないか。
 深い悲しみがなくて、どうして本当の意味での喜びを手のなかにつかむことができようか。

『生かされる命をみつめて 自分を愛する 編』 五木寛之                  




「憂いなきに似たり」から

五木寛之の心に沁み入る不滅の言葉 2 (44)

 
 昔の人は、人生というものは決して明るい、華やかなだけのものではなく、豊かな分だけ幸せになれるものだとも考えませんでした。
「重き荷を負うて長き道のりを歩くが如し」
重い荷物を背負って、そして長い道のりを営々として歩いて行く、それが人生なんだと、かつては考えられていた。それはじつに悲観的な考え方かもしれませんが、どうしても避けることのできない真実がそこにあるということは、認めざるをえないと思います。 

『生かされる命をみつめて 自分を愛する 編』 五木寛之                  



「憂いなきに似たり」から

五木寛之の心に沁み入る不滅の言葉 3 (45)

 
 戦後、私たちは新しい憲法の下で、国民は文化的で健康な生活を営む権利があるという、基本的な権利として保障していることがらを頭から鵜呑うのみにしてしまったところがあるかもしれません。
 自分たちが健康で豊かな生活をいまできていない、これは本当におかしいことだ。なんでこんなことになるんだ、間違っているじゃないか。
 そうやって、とつぜん深い挫折感のなかに落ち込んでいる人たちが、ずいぶんいるような気がするのです。
 しかし、憲法が私たちの国民としての権利を保障してくれはしても、一個の人間として生きていく上での幸せや、希望、絶望、心の在り様、そういうものを保障してくれるものでは最初からまったくないのです。

『生かされる命をみつめて 自分を愛する 編』 五木寛之                  


出典元

『生かされる命をみつめて 自分を愛する 編 五木寛之講演集』から
2015年10月15日 初版第1刷発行
実業之日本社




✒ 編集後記

『生かされる命をみつめて 自分を愛する 編 五木寛之講演集』は、講演集ということになっていますが、巻末を読むと、「2011年8月東京書籍刊『生かされる命をみつめて』『朝顔は闇の底に咲く』『歓ぶこと悲しむこと』に加筆の上、再構成、再編集したものです」と記載されています。

裏表紙を見ると、「50年近くかけて語った講演」と記されています。それだけの実績があります。

🔷 「憲法が私たちの国民としての権利を保障してくれはしても、一個の人間として生きていく上での幸せや、希望、絶望、心の在り様、そういうものを保障してくれるものでは最初からまったくないのです」

ここまで率直に憲法に関する意見を述べた作家を寡聞にして私は知りません。

普段私たちは憲法の存在を意識して生きているとは言えないでしょう。
基本的人権の尊重や、憲法第九条に関わる自衛隊の存在、名ばかりの国民主権がメディアにたまに取り上げられることはあっても、私たちの多くは他人事ひとごとと考えているのではないでしょうか。

政治への無関心が、政府与党の暴走を許すことにつながっていることに国民はもっと関心を持つべきだと考えます。


🔶 五木寛之さんの言葉は、軽妙洒脱という言葉が相応しいかもしれません。軽々に断定することはできませんが。

五木さんの言葉を読むと、心に響くという言うよりも、心に沁み入る言葉の方が適切だと思いました。

しかも、不滅の言葉と言ってもよいでしょう。



著者略歴

五木寛之ひつき・ひろゆき

1932年福岡県出身。早稲田大学露文科中退。67年、直木賞受賞。

76年、吉川英治文学賞受賞。

主な小説作品に『戒厳令の夜』『風の王国』『晴れた日には鏡をわすれて』ほか。

エッセイ、批評書に『大河の一滴』『ゆるやかな生き方』『余命』など。

02年、菊池寛賞を受賞。

10年、『親鸞』で毎日出版文化賞特別賞受賞。

各文学賞選考委員も務める。







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