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景気失速の主犯 アベノミクス再浮上へ「新・3本の矢」 2/3 2014.12.01



景気失速の主犯 アベノミクス再浮上へ「新・3本の矢」 2/3 2014.12.01



CONTENTS

解散で舞い上がるのは市場だけ

PART 1 街角景気、通説の嘘

PART 2 「外需が牽引」の幻想

PART 3 民が射る3本の矢



第2回は、

PART 1 街角景気、通説の嘘の6つのうちの残り4つ

PART 2 「外需が牽引」の幻想

を取り上げます。


今週の特集記事のテーマは

日銀の追加金融緩和による株高効果が続く中、安倍晋三首相は消費増税の先送りを決断。
国民の信を問うとして、衆院解散・総選挙に踏み切った。
期待感をあおり、経済を引き上げるアベノミクスだが、市場と実体の差は視界不良が続く。
円安・株高が民間投資の喚起、そして実質賃金の上昇に結びつかないのはなぜか。
景気回復を阻む要因を探る中、「アベノミクス景気」再浮上のヒントが見えてきた
(『日経ビジネス』 2014.12.01 号 P.026)

です。



景気失速の主犯  アベノミクス再浮上へ
「新・3本の矢」
(『日経ビジネス』 2014.12.01 号 表紙)


衆議院総選挙が12月14日に実施されます。衆院解散・総選挙の是非を問うつもりはありませんが、少なくとも、自公の「戦術」であることは明らかです。

佐藤栄作元首相は、こう語っています。
「内閣改造をするほど総理の権力は下がり、解散するほど上がる」

安倍晋三首相も、佐藤元首相の言葉を踏襲したのか、と考えてしまいます。

事実、第二次内閣改造では、女性閣僚を5人選任しましたが、そのうちの2人が辞任するという失態を演じました。

これ以上閣僚の辞任を出すと、内閣不信任案が出されるおそれがありました。

もちろん、自公の圧倒的多数で内閣不信任案を否決することはできますが、国民の不信感を募らせることになり、大きなイメージダウンになる、と安倍首相が考えたことは想像できます。

第1回は、「解散で舞い上がるのは市場だけ」と「PART 1 街角景気、通説の嘘」の6つのうちの2つを取り上げます。

第2回は、「PART 1 街角景気、通説の嘘」の残りの4つと、「PART 2 『外需が牽引』の幻想」の US と CHINA のケースを取り上げます。

最終回は、「PART 2 『外需が牽引』の幻想」の EUROP Eのケースと「PART 3 民が射る3本の矢」をご紹介します。


PART 1 街角景気、通説の嘘

通 説 3 不動産に資金殺到

賃料回復は道半ば 売り急ぐ外資も

オフィスビルやマンションの建設ラッシュが相次いでいます。こうした状況を見ると、不動産市場は活況を呈しているように感じられます。

ですが、「日経ビジネス」取材班は、見かけと実態は乖離している、と伝えています。

アベノミクスや2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催をはやして活況の続く不動産市場。しかしオフィスビルの賃料回復は鈍く、優良物件からも早々に資金を引き揚げる動きも出始めた。

今年4月、米資産運用大手インベスコグループは大阪。御堂筋の一等地にある13階建ての商業ビルを別の米系投資会社に売却した。
売却金額は推定130億円前後。

イタリアの高級ブランド、ドルチェ&ガッバーナが旗艦店を構えるほどの優良物件だが、大阪市内では米サーベラス・グループも別のビルを手放した。

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「新・3本の矢」 
2014.12.01 p. 032 


米系の投資会社は、物件を長期保有しません。割安物件を購入し、短期で売却します。投資会社への出資者に、短期で儲けて報いるためです。

まして、今後不動産価値が上がりそうにない、と判断すればすぐに売却します。

株式や債券の投資と同じです。

米系の著名な投資銀行の不動産部門の専門家は、次のように語っています。

ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントの貝塚浩康・不動産運用部長は「低金利で不動産投資の資金が調達しやすくなっている半面、賃料は回復が鈍い。マネーと景気が乖離する中で、売り手も買い手も成長余力の高い物件を見極める目利きが一層問われる局面に入った」と話す。

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「新・3本の矢」 
2014.12.01 p. 032
 


「日経ビジネス」取材班は、このように語っています。

マネーに依存した不動産市場は実体経済の好転が伴わなければ、雪崩のように反動安に見舞われるリスクをはらんでいる。

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 「新・3本の矢」 
2014.12.01 p. 032
 


今年最高水準の1700億円で取引された
東京駅前の
「パシフィックセンチュリープレイス丸の内」
(写真=柚木 裕司)


通 説 4 富裕層消費は活発

買い物は「質」重視 株高でも資産防衛

富裕層の消費は活発化しているように感じられますが、実態はどうでしょうか?

富裕層の消費・投資行動をたどると、バブル期のような身の丈に合わない高額消費は鳴りを潜め、価格対比で商品・サービスの質を見極める堅実ぶりが際立っていることが分かる。

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「新・3本の矢」 
2014.12.01 p. 033 


富裕層は金融に関する情報に非常に敏感です。

富裕層の一人はポートフォリオの見直しを行ない、金融資産を国内から海外へ移しました。

東京都内で飲食業から不動産管理業に転身した40代女性は、蓄えた金融資産を日本には置かず、シンガポールや香港などで現地通貨建ての株式、不動産に振り向けているという。資産運用のアドバイスを依頼するのは、英金融大手HSBC(旧香港上海バンクコーポレーション 註:藤巻隆)の富裕層専門デスクだ。

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「新・3本の矢」 
2014.12.01 pp. 033-034
 


大手証券会社は、富裕層を取り込むため、プライベート・バンキング部門を設けています。その一つである大和証券の事例をご紹介しましょう。

大和証券は50兆円強ある顧客金融資産のうち、1000万円以上を預ける富裕層のお金が7割を占めている。

富裕層ほど複数の金融機関を使い分ける傾向がある。1社に1000万円を預けている顧客の場合、金融資産全体は、実は5000万~1億円は下らないというのが業界の常識になっている。

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2014.12.01 p. 033
 


手頃な小型車が売れ筋
●2014年上期の外車販売台数トップ10

出所:日本自動車輸入組合(JAIA)


通 説 5 都市部消費は堅調

千客万来の外国人 「普通の消費」は変調

東京・銀座のデパート、松屋で「異変」が起きているそうです。

東京・銀座のデパート、松屋の3階に毎月1日、朝から長い列ができる。

「バオ バオ イッセイ ミヤケ」という女性用バッグのブランド店。並んでいるのは、ほとんどがタイからの女性観光客だ。

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2014.12.01 p. 034
 


いったいどういうことなのか、と思いますよね? 理由は何だと思いますか?

「王女様と同じモノが欲しい」から。

タイの王女が、このブランドを気にいって使い始めたところ人気が急上昇し、以来、日本に買い求めに来るようになったのだという。

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「新・3本の矢」 
2014.12.01 p. 034
 


都市部の消費が堅調と言われますが、実は外国人観光客に支えられていることが分かります。既述のバオ バオのケースを見てみましょう。

例えばバオ バオは、バッグでは1個2万5000円から4万円といった中間価格帯の商品が多い。しかし、中国や香港、シンガポール、タイ、インドネシアなどアジアからの観光客は10万~20万円もする欧州の高級ブランドをためらいもなく買っていく。

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「新・3本の矢」 
2014.12.01 p. 034
 


その一方で、超高級品を扱っていないデパートは「普通の消費」の変調のあおりを受けているということです。

超高級品を扱わない店舗は、「普通の消費」の変調のあおりを受けている。

京王百貨店新宿店は4月の消費増税以降、8月まで月次の売上高が前年同期比でマイナスに沈み続けた。

景気失速の主犯  アベノミクス再浮上へ 
「新・3本の矢」 
2014.12.01 p. 034
 


外国人観光客に都市部の消費が下支えされていることが、一目瞭然です。

外国人マネーが都市部消費を下支えする
●訪日外国人の推移と渡航目的

(出所:日本政府観光局、SMBC日興証券)



通 説 6 接待需要が復活

2次会は「ご法度」 政府の後押しも不発

国が言うように、好景気であれば、企業の接待は増えて当然ですね。ところが、実態は接待は減少しています。接待費をカットしている企業が実在します。

リーマンショックをきっかけに一度引き締めた財布のひもを再び緩めようとする企業は見られない。

国税庁によると、企業の交際費は2006年度の3兆6800億円を直近のピークに下落基調にある。

バブル期との比較では半分にも満たない。

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「新・3本の矢」 
2014.12.01 p. 035
 


企業の財布のひもは依然、緩まず
●企業交際費の推移

(出所:国税庁)


PART 2のキーワードは、幻想です。

PART 2 「外需が牽引」の幻想

円安の恩恵を受けて、自動車産業は増収増益が続いています。ただ、販売台数増であるのかは極めて疑問です。輸出量は増えていないのではないか、という印象があります。

US
好調続く新車販売 需要先食い懸念も

米国の自動車販売は好調に推移しているそうです。ただ、不安材料がないわけではありません。

不動産のサブプライムローン問題に似たオートローンが、サブプライムローンに類似した危機をもたらすのではないか、と言われています。

今年の新車販売が7年ぶりに1600万台を超えるのが確実と言われている米自動車市場。2015年には「1700万台超えも」との威勢のいい声も聞かれる。だが金融緩和の長期化でだぶついたマネーが自動車ローンに向かい、市場をかさ上げしている面もある。

自動車版サブプライムローン――。

2008年のリーマンショックの引き金を引いた信用力の低い層向けの融資が住宅から自動車に舞台を移している。

景気失速の主犯  アベノミクス再浮上へ 
「新・3本の矢」 
2014.12.01 p. 036
 


今後問題になるのは、「金利上昇」です。

市場金利が上昇すれば自動車ローンも影響は避けられない。米経済の弱点だった雇用は表向き順調に拡大し、失業率は5%台まで低下。ウォール街は過去最高値圏の株価に湧く。

景気失速の主犯  アベノミクス再浮上へ 
「新・3本の矢」 
2014.12.01 pp. 036-037
 


「日経ビジネス」は、学費ローンが地雷になりかねない、と考えています。

ニューヨークのコミュニティカレッジで法学を教えるジェイソン・リジットさん(33歳)のケースが紹介されています。

大学や大学院への進学費用を工面するために借りたローン債務が、金利分を入れてまだ30万ドル以上も残る。

景気失速の主犯  アベノミクス再浮上へ 
「新・3本の矢」 
2014.12.01 p. 037
 


30万ドルということは、1ドル=120円とすると、3600万円と巨額です。住宅ローンではありませんよ。学費ローンです。

一般的に、学費ローンはどのくらいなのかと言いますと、3万ドル超だそうです。10倍の学費ローンを抱えるというのは、極端なケースかもしれません。ですが、学費ローン全体を見ると、青くなります。

学費ローンを借りた卒業生の平均債務残高は3万ドル超と言われる。

その10倍もの学費ローンを超えるリジットさんはやや極端な例かもしれない。しかし、学生のうち学費ローンを利用する割合は右肩上がりに上昇。米国における学費ローンの残高は1兆ドルを軽く突破し、クレジットカードローン、自動車ローンをはるかに上回る。

1兆ドルもの負債を背負う米国の若者たち。これは米国のGDPの約7割を占める個人消費を中長期的に圧迫する要因になりかねない。

景気失速の主犯  アベノミクス再浮上へ 
「新・3本の矢」 
2014.12.01 p. 037
 


学費ローンの残高は1兆ドルを超えた
●全米の各種ローン残高

(出所:ニューヨーク連邦準備銀行)


CHINA
住宅販売は不振 設備過剰にも拍車

ここ最近、中国の成長が減速しているという報道が多くされるようになってきました。

「世界の工場」とか「世界一の市場」とか言われてきましたが、成長が鈍化すると、世界経済にも暗い影を落とします。

中国の7~9月の実質GDP(国内総生産)は前年同期比で7.3%増と、リーマンショック後に次ぐ低い伸びとなった。

政府系シンクタンク、中国社会科学院も2015年の実質成長率が7%前後にとどまる見通しを明らかにした。

景気失速の主犯  アベノミクス再浮上へ 
「新・3本の矢」 
2014.12.01 pp. 037-038
 



このような状況では、12月14日の衆院総選挙は安倍内閣の政策をどう評価するのか、ということには直接つながらない、と考えています。

なぜなら、第3の矢「成長戦略」は道半ばだからです。そもそも長期的成長を考えるものです。短期的成長を狙っても意味がないというか、大きな反動に見舞われるからです。

最終回は、

PART 2 「外需が牽引」の幻想の残りの一部

PART 3  民が射る3本の矢

をご紹介します。



🔷編集後記

この特集記事(元記事)が公開されたのは、10年前のことで、アメブロでも10年前(2014-12-04 21:29:30)のことでした。

大幅に加筆修正しました。

10年前に投稿した元記事ですが、現況とあまり変わっていないと感じます。
10年前と明らかに異なることはドル円レートです。

文中で「1ドル=120円」と記されていますが、現在のレートは1ドル=151.31円(3月29日 21:00 グリニッジ標準時)です。

円安が進んでいます。

中国の不動産バブルは弾け、莫大な負債を抱えている企業があります。
明らかに中国経済は疲弊しています。以前のような成長率は望めません。

新コロナウイルスの感染が拡大し、中国人客の流入によるインバウンド消費の期待が外れ、日本の小売業は大きな打撃を受けました。外需をあてにした商売だけでは経営が成り立たなくなってきました。

円安の影響で高額輸入品に限らず、食材の価格高騰が家計を圧迫しています。物価が上昇し、賃金上昇が追いついていないのが現状です。

一方、米国は金利を年3回ないしは4回下げるのではないかという議論が続いています。少なくとも金利上昇は止まったと考えて良いでしょう。

日本はどうかと言えば、日銀総裁が黒田東彦氏から植田和夫氏に代わり、ついにマイナス金利の解除とYCC(長短金利の操作)の終結、ETF(上場投資信託)の買い入れをやめる決定がありました。

これら一連の政策は今までが異常であったので、正常に戻したというべきです。

例えば、今までは都市銀行が日銀に預けていた預金が増えるのではなく、減っていたことになるからです。


(6,275 文字)


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