見出し画像

環太平洋 30億人経済圏を攻略せよ 2015年メガFTA始動 2/3 2014.12.15



環太平洋 30億人経済圏を攻略せよ 2015年メガFTA始動 2/3 2014.12.15



CONTENTS

PROLOGUE 幻と化す新幹線輸出

PART 1 大動脈から毛細血管へ

PART 2 世界の6割 握るのは誰 

PART 3 日本企業が挑む3つの攻め手



今週の特集記事のテーマは

地中海は過去の海、大西洋は現在の海、そして太平洋は将来の海――。
100年以上前から言われてきた世界がついに現実のものになろうとしている。
高い潜在成長性、活発化する域内貿易、伸び続ける人口・・・。
難航するTPP交渉をよそに、環太平洋経済圏の現実は先を行く
(『日経ビジネス』 2014.12.15 号 P.029)

です。



環太平洋 30億人経済圏を 攻略せよ 
2015年メガFTA始動
(『日経ビジネス』 2014.12.15 号 表紙)


今特集記事のスタートページ
(『日経ビジネス』 2014.12.15 号 pp. 028-029)


第1回は、「PROLOGUE 幻と化す新幹線輸出」と「PART 1 大動脈から毛細血管へ」を取り上げます。

第2回は、「PART 2 世界の6割握るのは誰」を取り上げます。

最終回は、「PART 3 日本企業が挑む3つの攻め手」をご紹介します。


前回、メキシコで遭遇した中国と日本との越えがたい価格差などの動きが拡大すればどうなるのか、「日経ビジネス」取材班は、次のように述べていました。

 国という単位は経済活動においてそれほど大きな意味をなさなくなり、さながら一つの巨大な「太平洋国」の中の競争であるように、地域や都市の単位で需要とプレーヤーが結び合うことになるだろう。

環太平洋 30億人経済圏を攻略せよ 
2015年メガFTA始動 
2014.12.15 p. 031 


上記の解説を読んで思い浮かんだのは、大前研一さんが19年前(1995年)に書いた『地域国家論』(原題は The End of the Nation State)(大前研一 山岡洋一・仁平和夫 訳 講談社 1995年3月2日 第1刷発行)に書かれていたことです。

今日の世界情勢を預言したと言っても過言ではありません。

もっとも、大前さんは「私は預言者ではない。世界の動きをつぶさに見ていれば、必然的にそうならざるを得ない」と言うかもしれません。

出版当時、大前さんが指摘した状況に、世界も日本も追いついていなかったと言えるかもしれません。

以来、約20年が経った今日、世界も日本も、大前さんが指摘した状況に、ようやく追いついてきたと言えます。

『地域国家論』に書かれていることの一部をご紹介しましょう。
抜粋を読んでいただけば、「日経ビジネス」の今特集記事を深く理解できる、と考えました。少し長くなりますが、じっくりお読みください。

 私はグローバル経済の性格を決める「4つのC」の流れを見る方法を提唱する。1番目のCは、キャピタル(資本)。資本はもはや地理的な拘束を受けない。世界のどこであろうと、魅力的な投資機会があれば、カネが流れ込んでくる。そして、その大半は「民間の」資金だ。

 2番目のCは、コーポレーション(企業)。魅力的な市場や顧客があれば、魅力的な資源があれば、どこへでも出ていこうと考える。また、そうしなければ生き残れない。もちろん、企業が動けば、資金もいっしょに動く。それ以上に重要なのは、技術と経営ノウハウが移転されることだろう。

 資本と企業が動きやすくなったのは、3番目のC、コミュニケーション(情報)技術の発達によるところが大きい。企業はいまや、進出する国ごとに大がかりな事業組織をつくらなくても、世界の各地で事業を展開できるようになった。

 4番目のC、コンシューマー(消費者)もグローバル化が進んでいる。どこの国の製品だろうがおかまいなく、消費者はもっともよい製品、もっとも安い製品を買おうとする。ふところと相談して、自分の好きなものを買う。

 以上説明してきた4つのCの国境をまたいだ動きによって、ふさわしい規模をそなえた経済単位を持つ地域なら、世界のどこに位置しようと、発展に必要なものを何でも手に入れられるようになった。

 4つのCの自由な動きによって、主権国家の「仲介者」の役割は時代遅れになったのだとすれば、グローバルな交渉のテーブルにつき、グローバルな解決策を見つけられる経済単位は、人為的、政治的な国境にとらわれず、経済がうまくいき、市場が繁栄している地域になる。

 私はそうした単位を「地域国家(リージョン・ステート)」と呼んでいる。地域国家とは、政治的な境界に関わりなく、今日のグローバル経済の中で繁栄していくのに適切な規模を持った「自然な経済単位」のことである。グローバル・ワールドで問題になるのは、そうした経済単位の境界と関係である。

 主権国家は経済単位としては不自然なものになってしまった。経済単位として機能しなくなったと言ってもいい。その一方で、地域国家はグローバル経済への出入口として非常にうまく機能している。

地域国家論 大前研一 
pp. 19-23
 


『地域国家論』で、大前さんは「地域国家」という概念を世界で初めて提示しました。19年前のことですよ!

大前さんが述べていることは、現在、世界中で確認できることばかりです。今特集記事でも確認できるでしょう。

私が、『地域国家論』を読んだ当時、今ひとつピントきませんでしたが、20年近く経って読み直してみると、大前さんが述べていたことがよく理解できるようになりました。

「なるほど。こういうことだったのか」と腑に落ちることがあります。

「日経ビジネス」は一つの言葉を提示します。
今特集を象徴する「言葉」と言ってもよいでしょう。
それは、「環太平洋経済圏」

 地中海は過去の海、大西洋は現在の海、そして太平洋は「将来の海」と言われる。

 環太平洋経済圏――自由貿易の海が、今まさに、目の前に姿を現し始めている。

環太平洋 30億人経済圏を攻略せよ 
2015年メガFTA始動 
2014.12.15 p. 031
 


PART 2 世界の6割 握るのは誰

「環太平洋経済圏は世界経済の6割を占める」(p. 036)そうです。このパイを我が物にするために各国がしのぎを削っています。

私は、10年以内に決着がつくと考えています。TPP(環太平洋経済連携協定)は、2015年早々にも米国主導でまとまると見られています。

日本の立場はかなり厳しいものになるでしょう。
それはさておき、米中のせめぎ合いは一層激化し、環太平洋経済圏のシェアの多くは米中が握ることになるのは、ほぼ確実です。

では、日本はその次を占めることができるでしょうか?
現況を見ると非常に難しいと言わざるを得ません。アジア地域を見ますと、新・新興国の台頭が著しく、日本に迫ってきています。

ここで注目すべきは、TPPは米国が主導し、FTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)は中国が主導していることです。

米中の綱引きが激化するだけでなく、環太平洋経済圏にある国々をいかに取り込めるかで、大勢が決します。

日本はTPPとFTAAPの構成国ですが、脇役に甘んじるしかないでしょう。
もっとも、脇役が主役を食ってしまうことがない、とは言い切れません。
映画や舞台の世界で実際に起きているように。

まず、図表をご覧ください。

● FTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)
● TPP(環太平洋経済連携協定)
● ASEAN(東南アジア諸国連合)
● 太平洋同盟
● TTIP(環大西洋貿易投資協定)


の5つの自由貿易圏があります。


枠組み作りで主導権争い
●各自由貿易圏の種類と特徴

米国主導のTPPとは異なり、中国がルール作りを
主導したい考え。
2025年を妥結目標に掲げるよう中国が動くも、
参加国や詳細は不透明だ 構成国・地域 オーストラリア、ブルネイ、カナダ、
インドネシア、日本、米国、マレーシア、
ニュージーランド、フィリピン、
シンガポール、タイ、韓国、台湾、中国、
香港、メキシコ、パプアニューギニア、チリ、
ペルー、ロシア、ベトナム、モンゴル


自国内における基準や認証などの撤廃を求める。
著作権保護の期間を延長するといった
知財分野の枠組み作りなど、米国が主導する

構成国
オーストラリア、カナダ、日本、米国、マレーシア、
ニュージーランド、シンガポール、ベトナム、ブルネイ、
メキシコ、ペルー、チリ


2015年末にASEAN経済共同体が発足予定。
知的財産保護など、政策の共通化も視野に入れる。
2018年までに域内で全ての関税撤廃を目指す 構成国 インドネシア、カンボジア、シンガポール、タイ、
フィリピン、ブルネイ、ベトナム、マレーシア、
ミャンマー、ラオス


関税だけでなく、ビザの撤廃や通関の手続きも簡素化。
食糧やエネルギー資源が豊富で、日本を含む30カ国が
オブザーバー国として名を連ねる 構成国 メキシコ、コスタリカ、チリ、ペルー、
コロンビア、パナマ


中国やアジアに対抗したEUと米国の自由貿易圏構想。
米国は食品の安全性基準の引き下げを
EUに要求するなど、規格の統一も狙い 構成国 米国、欧州連合


注:FTAAPの構成国・地域はAPECの参加国または参加予定国
出所:域内貿易額は国際通貨基金(IMF)「Direction of Trade Statistics」、域内GDPはIMF「World Economic Outlook」、域内人口は国連「World Population Prospects:The 2012 Revision」の中位推計値


主要部分を書き出します。

北京APECで中国が推進を    域内貿易額 5兆1520億ドル
主張              域内GDP   42兆5255億ドル  
FTAAP             域内人口   28億6120万人
(アジア太平洋自由貿易圏)   構成国・地域
                オーストラリア、ブルネイ、カナダ、
2025年を妥結目標に掲げる  インドネシア、日本、米国、マレー
よう中国が動く         シア、ニュージーランド、フィリピン、
                シンガポール、タイ、韓国、台湾、
                中国、香港、メキシコ、パプア
                ニューギニア、チリ、ペルー、ロシ
               ア、ベトナム、モンゴル

米国が主導          域内貿易額 2兆152億ドル
交渉は最終段階         域内GDP   27兆5720億ドル 
TPP              域内人口   8億1431万人
(環太平洋経済連携協定)     構成国・地域
                オーストラリア、カナダ、日本、米
                国、マレーシア、ニュージーランド、
                シンガポール、ベトナム、ブルネイ、
                メキシコ、ペルー、チリ

設立から47年         域内貿易額 3288億ドル
日本とも深い関係         域内GDP   2兆5260億ドル 
ASEAN              域内人口   6億2483万人
(東南アジア諸国連合)       構成国・地域
                 インドネシア、カンボジア、シンガ
                 ポール、タイ、フィリピン、ブルネ
                イ、ベトナム、マレーシア、ミャン
                マー、ラオス

南米の新興国群          域内貿易額 271億ドル
日本を含む30カ国が       域内GDP   2兆3990億ドル
オブザーバー国           域内人口   2億3014万人
太平洋同盟            構成国・地域
                  メキシコ、コスタリカ、チリ、ペ
                  ルー、コロンビア、パナマ

米欧がアジアに対抗        域内貿易額 4兆3338億ドル
                  域内GDP 33兆5256億ドル
TTIP                域内人口   8億3306万人
(環大西洋貿易投資協定)      構成国・地域
                   メキシコ、コスタリカ、チリ、ペ
                  ルー、コロンビア、パナマ

出所:域内貿易額は国際通貨基金(IMF)
   「Direction of Trade Statistics」、
   域内GDPはIMF「World Economic Outlook」、
   域内人口は国連「World Population Prospects:
   The 2012 Revision」の中位推計値

5つの自由貿易圏を比較しますと、FTAAPが最も規模が大きく、TTIPが続いています。TPPは3番目の規模ということになります。



何と言いましても、米中の動きが一番気になるところです。中国はFTAAPを主導し、有利に展開したいという目論みを持っています。

一方、米国は右手にTTP、左手にTTIPという太平洋と大西洋を制覇したいという野望を抱いています。TPPとTTIPを合わせれば、FTAAPに規模で勝るからです。両国とも「したたか」です。

そんな「したたか」な米中が、「11月11日に北京で開催されたAPEC(アジア太平洋経済協力会議)が終了後、中国の習近平・国家主席はバラク・
オバマ米大統領と10時間、意見交換した」(p. 036)そうです。

どんな内容であったかは、当事者しか分かりませんが、「したたか」な二人ですから、米中双方にとってプラスになることを話し合ったに違いありません。

しかし、その一方で米国が中国を全面的に信用しているわけではないことが推測できる、象徴的な出来事がありました。

「日経ビジネス」の記事を読んでみましょう。

オバマ大統領と習国家主席が長時間会議で友好を演出する一方、米国大使館で隠れるように開かれたTPP会合。北京でのAPECに合わせて行われた2つの会議が、現在の米中両国の微妙な関係を象徴している。

環太平洋 30億人経済圏を攻略せよ 
2015年メガFTA始動 
2014.12.15 p. 036
 


ここで注目すべきポイントは、米国はFTAAPにもTTP(TTIPも含め)にも参加していますが、中国はFTAAPにしか参加していないことです。

中国はFTAAPにしか参加していませんから、その枠組の中で主導権を握りたいのです。

透けて見えてくるのは、これまでにない巨大な経済圏の主導権をどちらが握るかという、大国間の激しい綱引きだ。

環太平洋 30億人経済圏を攻略せよ 
2015年メガFTA始動 
2014.12.15 pp. 037-038
 


TPP、ASEAN、太平洋同盟などに名を連ねる28の国・地域のGDP4の合計は、ここ10年で2倍近くに伸びている。

さらに、人口は2030年までに2億5000万人ほど増えるとの予測が出ている。米国と欧州連合(EU)の間で交渉しているTTIP(環大西洋貿易投資協定)の人口増が5000万人弱なのと比べると、成長力の高さが分かる。

環太平洋 30億人経済圏を攻略せよ 
2015年メガFTA始動 
2014.12.15 p. 039
 


今まで米中両国を中心に「日経ビジネス」の記事に基づいてお話してきました。

では、日本は指を咥えて待っているしかないのでしょうか?
「日経ビジネス」はこう伝えています。

環太平洋経済圏の誕生は、日本にとっても大きな意味がある。現在、日本の全輸出額に占める環太平洋経済圏(日本を除く27の国と地域)向け輸出の割合は8割。その内訳を見ると、米国と中国向けで4割弱を占める。

米中の経済規模を考えると、当然とも言えるかもしれないが、いわゆる経済の“動脈”に頼る部分が大きいことを示す。多様な国や地域が集まる環太平洋経済圏の潜在力を、まだ十分に生かし切れていないと見ることもできる。 
 
人口減が進み、資源も乏しい日本にとって、貿易などによる他国との経済的なつながりはこれまで以上に重みを増す。環太平洋経済圏の活用に、消極的であっていいはずはない。

環太平洋 30億人経済圏を攻略せよ 
2015年メガFTA始動 
2014.12.15 p. 039 


最終回は、

PART 3 日本企業が挑む3つの攻めて


をご紹介します。




🔷編集後記

この特集記事(元記事)が公開されたのは、10年前のことで、アメブロでも10年前(2014-12-18 19:54:16)のことでした。

大幅に加筆修正しました。

環太平洋経済圏にはいろいろな問題が重層的に存在していることがわかります。そこには、日本の論理が通用しない世界があるということです。

なんともやるせない気持ちになりますが、それが10年前の現実です。
果たして、10年後の現況は変わっているでしょうか?
気にかかるところです。

私見ですが、現況は10年前とあまり変わっていないと考えています。
むしろ状況は一層深刻化しているかもしれません。

アジア諸国は、この10年で自力をつけてきて、「日本に追いつき、追い越せ」というスローガンを掲げ、国を上げて邁進している姿が目に浮かびます。

私の想像に過ぎませんが。

大前研一さんが『地域国家論』の中で述べていたことが、約30年後に、いや20年後に現実となっていることに、驚きを禁じえません。

突出した頭脳だけでなく、五感を使って導き出す結論に、大前研一さんが大前研一さんである存在理由があると確信しています。


2021年の読売新聞オンラインの記事ですが、下記のような記述がありました。

アジア・太平洋に巨大経済圏、来年1月に誕生…RCEPが日中など10か国で先行発効 2021/11/04 00:24

 日本政府は3日、日中韓や東南アジア諸国連合(ASEAN)など15か国が署名した地域包括的経済連携(RCEP=アールセップ)が、来年1月1日付で発効すると発表した。すでに批准手続きを終えた日本や中国など10か国で先行発効し、アジア・太平洋地域に巨大経済圏が誕生する。

 関税を撤廃する品目の割合は環太平洋経済連携協定(TPP)には及ばないものの、91%に上る。ソフトウェアの設計図にあたるソースコードの開示要求禁止などは盛り込まれず、TPPより緩いルールとなっている。

読売新聞オンライン 2021/11/04 00:24 



(7,640 文字)


クリエイターのページ


日経ビジネスの特集記事(バックナンバー)


日経ビジネスの特集記事


日経ビジネスのインタビュー(バックナンバー)


サポートしていただけると嬉しいです。 サポートしていただいたお金は、投稿のための資料購入代金に充てさせていただきます。