見出し画像

1 生成AI、リアル世界の司令塔に 2 テスラ、使い勝手で日本に圧勝 3 米景気、軟着陸阻む「時限爆弾」

⭐『日経ビジネス』の最新号から注目記事を3本選りすぐってご紹介します。「時事深層」は主に若手記者の独自取材に基づいて執筆された記事です。最近では1記事ごとに見開き2ページにまとめられています。


<2023年10月16日号から厳選した記事は、次の3本です>

1 アマゾンがアレクサに導入 生成AI、リアル世界の司令塔に

2 EV急速充電器の規格争い テスラ、使い勝手で日本に圧勝

3 ウォーレン・バフェット氏も指摘 米景気、軟着陸阻む「時限爆弾」


1 アマゾンがアレクサに導入 生成AI、リアル世界の司令塔に(TECH 時事深層)


生成AI(人工知能)がいよいよPCのブラウザーやスマートフォンのアプリを飛び越えて、物理的な世界につながろうとしている──。


アマゾン社のデバイス部門を率いるシニアバイスプレジデントのデイブ・リンプ氏は発表会で、新しいアレクサとの会話のデモンストレーションを披露した。「Alexa, let's chat(アレクサ、チャットしよう)」。これが生成AIとの会話の合図となる。

TECH 時事深層 
半導体 雪辱戦 10兆円 列島改造の勝算 
2023.10.16 p. 086


新製品発表会に登壇したデイブ・リンプ・シニアバイスプレジデント。
数カ月以内に退社することが発表されており、
今回が最後の登壇になるとみられる。
米CNBCはリンプ氏が、アマゾン創業者である
ジェフ・ベゾス氏が創業した宇宙開発企業、
米ブルーオリジンのCEO(最高経営責任者)
に就くと報じている(写真:日経ビジネス)


5つの新機能

①パーソナライズと文脈の理解

リンプ氏は生成AIを搭載したアレクサについて、5つの新機能が加わったと説明した。1つ目はパーソナライズと文脈の理解だ。アレクサは話しかけられた相手がリンプ氏であることを認識している。

TECH 時事深層 
半導体 雪辱戦 10兆円 列島改造の勝算
 2023.10.16 p. 086 

②会話機能の強化

2つ目は会話機能の強化。端末のカメラやセンサーを使って、そこに人間がいることを検出する。

TECH 時事深層 
半導体 雪辱戦 10兆円 列島改造の勝算 
2023.10.16 p. 086

③アレクサ自体の人格

3つ目の進化はアレクサ自体の人格だ。(中略)アマゾンによれば、アレクサは「アカデミー賞を受賞すべき映画」を答えることもできるという。

TECH 時事深層 
半導体 雪辱戦 10兆円 列島改造の勝算 
2023.10.16 p. 086 

④「リアルな世界との接続」

4つ目として「リアルな世界との接続」を挙げた。この点が、これまでの生成AIによるアプリと決定的に異なる点だろう。(中略)アプリだけでなく同様にアレクサとつながる他の物理的なデバイスにも生成AIが指示を送ることが可能になる。アマゾンによれば、アレクサと接続しているデバイスは世界で約10億台に及ぶという。

TECH 時事深層 
半導体 雪辱戦 10兆円 列島改造の勝算 
2023.10.16 pp. 086-087 

⑤「信頼性」

最後の5つ目の特徴をアマゾンは「信頼性」と表現した。リンプ氏は「機能と信頼性がトレードオフになることは絶対にない」とし、プライバシーなどを侵害してまで機能を拡充しないことを明言した。

ブラウザーを飛び越えてリアルな世界と接続する以上、信頼性への取り組みは欠かせない。

TECH 時事深層 
半導体 雪辱戦 10兆円 列島改造の勝算 
2023.10.16 p. 087 


アマゾンでアレクサなどを担当する
ダニエル・ラウシュ・バイスプレジデントが
日経ビジネスの取材に応じた
(写真:日経ビジネス)
TECH 時事深層 
半導体 雪辱戦 10兆円
列島改造の勝算 2023.10.16


セキュリティーシステム

「アレクサはまだ間違いを犯すかもしれない。セキュリティーシステムなどを正しく機能させる必要があり、この課題に懸命に取り組んでいる。(物理世界との接続に関する課題は)新しい技術的な領域であり、(これまでの)LLMとは異なるものだ」。アマゾンでアレクサなどを担当するダニエル・ラウシュ・バイスプレジデントは日経ビジネスの取材で、プレビューの段階で信頼性についてさらなる検討を進めることを明らかにした。

TECH 時事深層 
半導体 雪辱戦 10兆円 列島改造の勝算 
2023.10.16 p. 087


ソフトウェアで対応

生成AIを搭載したアレクサは米国で24年にかけて段階的にプレビュー提供を開始する予定だ。ソフトウエアのアップデートで対応するため、旧型のデバイスでも利用できるという。

TECH 時事深層 
半導体 雪辱戦 10兆円 列島改造の勝算 
2023.10.16 p. 087

著者 島津 翔しまづ・しょう

シリコンバレー支局
大学院にて建築家・内藤廣に師事した後、2008年に日経BP入社。建設系専門誌記者、日経ビジネス記者、日経クロステック副編集長を経て、2022年10月から現職。ビッグテックや大手半導体、米国スタートアップを取材中。


⭐コメント

「生成AIが進化し、いよいよ物理的な世界につながろうとしている」というところまで来ました。これからも進化は加速していくことでしょう。
私たちは情報を収集するだけでなく、利活用するためにリテラシーの向上に励むことが欠かせません。



2 EV急速充電器の規格争い テスラ、使い勝手で日本に圧勝(MOBILITY 時事深層)


電気自動車(EV)の急速充電器の規格争いで米テスラの存在感が高まる。欧米の自動車メーカーだけでなく、日産自動車やホンダも米国ではテスラ規格を採用すると発表。日本も独自規格の普及を進めるものの、実際に比べてみると、使い勝手の良さでテスラに軍配が上がる。


EV急速充電器の5つの規格

世界におけるEVの急速充電器の規格は主に5つある。テスラのほか、欧米規格「CCS」や日本独自の規格「CHAdeMO(チャデモ)」などだ。

テスラは、米国や中国を中心として世界で急速充電器「スーパーチャージャー」を計5万基以上設置している。現在はテスラ車しか充電できないが、2022年末に充電口の規格を公開。米フォード・モーターや米ゼネラル・モーターズ(GM)は25年以降に投入するEVについてはテスラの規格を標準仕様にすると発表した。北米では日産やホンダも続く。

MOBILITY 時事深層 
半導体 雪辱戦 10兆円 列島改造の勝算 
2023.10.16 p. 088 


日本の現状

日本はどういう状況だろうか。チャデモの設置数は全国で約9000基。テスラのスーパーチャージャーは400基にとどまる。ただ、テスラのセダン型EV「モデル3」に乗る東京都に住む40代男性は「スーパーチャージャーの便利さを一度体験すると、他のEVに乗り換えできない」と話す。

MOBILITY 時事深層 
半導体 雪辱戦 10兆円 列島改造の勝算 
2023.10.16 p. 088 


米テスラは、独自の急速充電器「スーパーチャージャー」
を世界で5万基以上設置している
(写真=ロイター)
MOBILITY 時事深層 
半導体 雪辱戦 10兆円 列島改造の勝算 
2023.10.16


スーパーチャージャーとチャデモを充電速度で比較(スーパーチャージャー)

スーパーチャージャーから充電ケーブルを外して、車の充電口に挿し込むだけで充電が始まった。

車内のタブレットや連動するスマートフォンのアプリには、充電量や料金が表示される。充電を止める際はタブレットやスマホを操作する。100キロ分の充電にかかった時間は7分10秒、料金は664円。登録した決済情報ですぐ支払いは終わった。

MOBILITY 時事深層 
半導体 雪辱戦 10兆円 列島改造の勝算 
2023.10.16 p. 089 
スーパーチャージャーを使った充電。
事前の操作なしに、充電口に挿し込むだけで
充電が始まる
MOBILITY 時事深層 
半導体 雪辱戦 10兆円 列島改造の勝算 
2023.10.16


スーパーチャージャーとチャデモを充電速度で比較(チャデモ)

次にチャデモの充電器だ。設置箇所は多く、国内の充電拠点の大半は東京電力ホールディングスなどが出資するイーモビリティパワー(eMP、東京・港)が運営する。
(中略)
変換用アダプターを取り付ければ、テスラ車でもチャデモの充電器で充電ができる。100キロ分の充電にかかった時間は21分30秒、料金は600円だった。

MOBILITY 時事深層 
半導体 雪辱戦 10兆円 列島改造の勝算 
2023.10.16 p. 089


チャデモの充電器。充電カードやアプリなどで
認証する必要がある
MOBILITY 時事深層 
半導体 雪辱戦 10兆円 列島改造の勝算 
2023.10.16


スーパーチャージャーに軍配が上がる

比較の結果、電気料金に相当する充電コストはほぼ変わらない。だが充電速度はスーパーチャージャーの方が約3倍速かった。これはチャデモの充電器の出力が主に最大50キロワットに対し、スーパーチャージャーは最大250キロワットだからだ。認証や充電方法の手軽さ、ケーブルの軽さなどでもスーパーチャージャーに軍配が上がるだろう。

MOBILITY 時事深層 
半導体 雪辱戦 10兆円 列島改造の勝算 
2023.10.16 p. 089


データの収集と活用

テスラは独自の充電網を自前で整備することで優位性を高めている。カギとなるのがデータだ。テスラ車から集めたデータから最適な場所に充電器を設置できる。さらに充電器からもデータを取得し、充電速度やバッテリー温度の最適化などに活用していると見られる。

MOBILITY 時事深層 
半導体 雪辱戦 10兆円 列島改造の勝算 
2023.10.16 p. 089 


ガラパゴス化が再現される?

チャデモは10年、日本発の規格として導入が始まった。世界初の量産EVである日産の「リーフ」の発売開始に合わせて国際標準化を狙ってきた。充電器の規格は大きく分けて5つの規格があるものの、チャデモは日本市場に限られている。「ガラパゴス化」もささやかれる。

北米ではテスラが実質的に充電器の規格競争で勝利したといえる。充電を巡る技術革新やデータ戦略も重要だが、競争力の一丁目一番地はユーザー目線だ。それを忘れれば日本は充電器の規格競争でも劣勢になりかねない。

MOBILITY 時事深層 
半導体 雪辱戦 10兆円 列島改造の勝算 
2023.10.16 p. 089


著者 薬 文江 やく・ふみえ

日経ビジネス記者
2011年日本経済新聞社入社。証券部や企業報道部で、電機・IT、スタートアップ、中国テック、商社業界などの取材を担当。22年4月から日経ビジネス記者。


⭐コメント

今後EV普及に伴いEV急速充電器の供給が不可欠です。EV急速充電器への電力供給は、太陽光発電や風力発電だけで賄えるのか懐疑的です。

また、どんなにEVが脱炭素を目指し、サステナブルな商品であっても、化石燃料を使った発電でEV急速充電器に給電するのであれば、脱炭素もサステナブルも絵に描いた餅です。

遅かれ早かれ原発再稼働の是非が議論される時期が到来するでしょう。



3 ウォーレン・バフェット氏も指摘 米景気、軟着陸阻む「時限爆弾」(GLOBAL 時事深層)


米株式市場では9月に発表された経済指標の底堅さから「ソフトランディング(軟着陸)説」が有力視されている。「ハードランディング(強行着陸)説」を唱える著名エコノミストのデービッド・ローゼンバーグ氏は四面楚歌。だが金融関係者は同氏の見解に近く、着々と不況の準備を進めている。なぜ市場と現場に乖離があるのか。背景にはウォーレン・バフェット氏も指摘する、知られざる「不良債権の種」があった。


米国の8月雇用統計

変わり目は9月。1日発表の8月雇用統計で非農業部門の雇用者数が前月比18万7000人増で市場予想を上回ったほか、米サプライマネジメント協会(ISM)の製造業景況感指数も同予想を超えた。14日に発表された8月の米小売売上高も前月比0.6%増の結果となり、景気の底堅さを示す材料と市場に受け止められた。

だが金融機関関係者からはむしろ、ローゼンバーグ氏に近い声が聞こえてくる。ある在米日系金融機関の幹部は「6カ月以内の不況入りを想定して準備を始めた」と明かす。22年末ごろから、米大手銀行も貸倒引当金を積み増している。

GLOBAL 時事深層 
半導体 雪辱戦 10兆円 列島改造の勝算 
2023.10.16 p. 090 


米国の住宅ローン(固定金利)

米国の住宅ローンは30年固定などが一般的だ。米連邦準備理事会(FRB)が2020年3月に金利を0.25%に下げたことで、住宅ローンの借り換えを実施する人が急増。

GLOBAL 時事深層 
半導体 雪辱戦 10兆円 列島改造の勝算 
2023.10.16 p. 091


知られざる「不良債権」

「米国の銀行は粗悪な商業用不動産ローンであふれている」――。こんな見出しの記事を英フィナンシャル・タイムズが掲載したのは23年4月末のこと。発言者はウォーレン・バフェット氏率いる投資会社バークシャー・ハザウェイで副会長を務める99歳の著名投資家、チャーリー・マンガー氏だ。

GLOBAL 時事深層 
半導体 雪辱戦 10兆円 列島改造の勝算 
2023.10.16 p. 091 


商業用不動産ローン(変動金利)

問題は商業用不動産の場合、金利が政策金利などに合わせて変動するケースが多い点だ。低金利時のメリットを継続的に享受しづらい仕組みなのだ。
加えて、新型コロナウイルス禍に進行した在宅勤務の普及でオフィス需要の低下が止まらない。米不動産調査のヤーディ・システムズ(Yardi Systems)のデータによると、23年8月末の全米のオフィス平均空室率は1年前に比べて2.6ポイント上昇の17.5%を記録した。

GLOBAL 時事深層 
半導体 雪辱戦 10兆円 列島改造の勝算 
2023.10.16 p. 091 


金利上昇と需要低迷

商業用不動産ローンの「時限爆弾」が、爆発する時期はいつなのか。満期を迎えるローンが増加する24年が山場となりそうだ。

だが時限爆弾はこれだけではない。コロナ禍に米連邦政府が消費者にバラまいた助成金が「年内に枯渇する可能性がある」(丸紅ワシントン事務所)。いわば、もう一つの時限爆弾がここに潜んでいる。

GLOBAL 時事深層 
半導体 雪辱戦 10兆円 列島改造の勝算 
2023.10.16 p. 091


軟着陸では済まない

「不渡りを出したくない銀行は、期限を延長するなど『数々の(よからぬ)行為』をしがちだ。それはやがて大きなインパクトとなり、必ずその『代償』を払わなければならなくなる」。23年5月に開かれたバークシャー・ハザウェイの株主総会で、バフェット氏はこう予想してみせた。同じ席でバフェット、マンガーの両氏は「米経済が乗り越えられないほどではない」としながらも、軟着陸では済まないとの見解を明らかにした。

GLOBAL 時事深層 
半導体 雪辱戦 10兆円 列島改造の勝算 
2023.10.16 p. 091 


バークシャー・ハザウェイの
ウォーレン・バフェット氏(左)
とチャーリー・マンガー氏。
写真は2019年株主総会当時
(写真=AP/アフロ)
GLOBAL 時事深層 
半導体 雪辱戦 10兆円 列島改造の勝算 
2023.10.16


著者 池松 由香ニューヨーク支局長

北米毎日新聞社(米国サンフランシスコ)で5年間、記者を務めた後、帰国。日経E-BIZ、日経ベンチャー(現・日経トップリーダー)、日経ものづくりの記者を経て、2014年10月から日経ビジネス編集部。19年4月からニューヨークに赴任。


⭐コメント

金利が上昇すると株価が下落するという事実が存在します。
とりわけハイテク企業が多く上場しているナスダック市場ではそれが顕著です。

投資家から見ると、金利高は企業の追加融資が困難になり、利息を含め元本の返済が厳しくなると考えられるからです。

一方で、米国の銀行は不良債権の先延ばしに躍起 になっています。
先延ばしをしても「その日」はやがてやってきます。

バフェット氏が「不渡りを出したくない銀行は、期限を延長するなど『数々の(よからぬ)行為』をしがちだ。それはやがて大きなインパクトとなり、必ずその『代償』を払わなければならなくなる」と述べたことは現実となるでしょうか?


🔷編集後記

「時事深層」は毎号7~9本の記事で構成されています。
主に若手記者が専門分野を自らの独自取材に基づいて精魂込めて執筆しています。最近では見開き2ページの紙面を十二分に使い、内容の濃さで「競い合って」います。

今後、そのような記事から毎回3本を(私の独断と偏見で)厳選し、お伝えしていきます。楽しんでいただけたら幸いです。

(6,918文字)


クリエイターのページ


日経ビジネスの特集記事(バックナンバー)


日経ビジネスの特集記事


日経ビジネスのインタビュー(バックナンバー)


サポートしていただけると嬉しいです。 サポートしていただいたお金は、投稿のための資料購入代金に充てさせていただきます。