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【五木寛之 心に沁み入る不滅の言葉】 第12回

『生かされる命をみつめて 自分を愛する 編』 五木寛之講演集


 五木寛之さんの『生かされる命をみつめて 自分を愛する 編』から心に沁み入る不滅の言葉をご紹介します。

 五木さんは戦時中から特異な体験をしています。
 「五木さんは生まれて間もなく家族と共に朝鮮半島に渡り、幼少時代を過ごしました。そこで迎えた終戦。五木さんたちは必死の思いで日本に引き揚げたそうです」(「捨てない生活も悪くない」 五木寛之さんインタビューから)


 今年9月に90歳になるそうです。今日に至るまで数多の体験と多くの人々との関わりを掛け替えのない宝物のように感じている、と思っています。

 五木さんは広く知られた超一流の作家ですが、随筆家としても、講演者としても超一流だと、私は思っています。

 一般論ですが、もの書きは話すのがあまり得意ではないという傾向があります。しかし、五木さんは当てはまらないと思います。 



「人は泣きながら生まれてくる」から

五木寛之の心に沁み入る不滅の言葉 1 (34)

 
 先日、本を読んでいると、大変おもしろいことばに出合いました。
 モンテスキューという、ヨーロッパの思想家のことばだそうなのですが、
「人びとはなぜ人が亡くなっていく時に泣くのだろう。むしろ生まれた時に泣くべきではないか」
 これは逆説的な表現ですが、思わずにやりとさせられる、おもしろいことばだと思いました。
 私たちはオギャーと人間が生まれてくる時は、手を打ってその誕生を喜ぶ。そして人が別れを告げて行く時に、涙を流して見送る。これが普通です。
 しかし、モンテスキューが言っているのはその逆なのです。
「人が生まれてくる、そのことを涙を流して迎えるべきではないか」
 逆説的なことばのような気がしますが、それにも一面の真理があるのかな、というふうに思います。
 

『生かされる命をみつめて 自分を愛する 編』 五木寛之                  




「人は泣きながら生まれてくる」から

五木寛之の心に沁み入る不滅の言葉 2 (35)

 
 人間が死ぬ時も、「ああ、本当に立派に生きた、そして立派に死んでいった。じつに素晴らしい」と、周りの方たちが思わず拍手をする、拍手が沸き起こる。そういう世の去り方があってもいい、と思ったことがあります。

『生かされる命をみつめて 自分を愛する 編』 五木寛之                  



「人は泣きながら生まれてくる」から

五木寛之の心に沁み入る不滅の言葉 3 (36)

 
 人間が生まれてくるというのは、自分の意志で自分が決定し、そして生まれてこようと思う時を選び、場所を選び、家庭を選び、両親を選んで生まれてくるのではない。我々はなんとも知れない力によって、この世の中に自分の意志や努力、愛、誠意、そういうものとは無関係に生まれてくるのである。
 こう言われてしまうと、ふたもないような気がします。しかし、その逆らいがたい真実というものを感じずにはいられません。
 私たちは、自分の意志とは無関係にこの世の中に誕生してくる存在である。

『生かされる命をみつめて 自分を愛する 編』 五木寛之                  


出典元

『生かされる命をみつめて 自分を愛する 編 五木寛之講演集』から
2015年10月15日 初版第1刷発行
実業之日本社




✒ 編集後記

『生かされる命をみつめて 自分を愛する 編 五木寛之講演集』は、講演集ということになっていますが、巻末を読むと、「2011年8月東京書籍刊『生かされる命をみつめて』『朝顔は闇の底に咲く』『歓ぶこと悲しむこと』に加筆の上、再構成、再編集したものです」と記載されています。

裏表紙を見ると、「50年近くかけて語った講演」と記されています。それだけの実績があります。

🔷 「人間が生まれてくるというのは、自分の意志で自分が決定し、そして生まれてこようと思う時を選び、場所を選び、家庭を選び、両親を選んで生まれてくるのではない。我々はなんとも知れない力によって、この世の中に自分の意志や努力、愛、誠意、そういうものとは無関係に生まれてくるのである」

自分がこの世に生を受けてこれまで生きてきたことを、五木寛之さんのように深掘りして考えたことがなかったので、じっくり考えるよい機会を提供していただいたと思いました。

私たちは生まれた瞬間から死に向かってカウントダウンしていきます。人それぞれの寿命には長短がありますが、いずれにせよいつか必ず死を迎えることを拒否することはできません。

古来から、権力者は「不老不死」を渇望し、不老不死の薬があるという噂を耳にすると、家来に探させたという逸話は数多く残されています。

あるいは、現代医学がさらに進歩すれば(遺伝子解析などで)、やがていろいろな病気に罹らず、老化しない身体を作り上げていくことは不可能ではないかもしれません。

人間が生まれるということにはどんな意味があるのか。
一度立ち止まって、じっくり考えてみませんか。


🔶 五木寛之さんの言葉は、軽妙洒脱という言葉が相応しいかもしれません。軽々に断定することはできませんが。

五木さんの言葉を読むと、心に響くという言うよりも、心に沁み入る言葉の方が適切だと思いました。

しかも、不滅の言葉と言ってもよいでしょう。



著者略歴

五木寛之ひつき・ひろゆき

1932年福岡県出身。早稲田大学露文科中退。67年、直木賞受賞。

76年、吉川英治文学賞受賞。

主な小説作品に『戒厳令の夜』『風の王国』『晴れた日には鏡をわすれて』ほか。

エッセイ、批評書に『大河の一滴』『ゆるやかな生き方』『余命』など。

02年、菊池寛賞を受賞。

10年、『親鸞』で毎日出版文化賞特別賞受賞。

各文学賞選考委員も務める。






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