見出し画像

【大人の流儀 伊集院 静 心に響く言葉】 第89回



大人の流儀

 伊集院 静氏の『大人の流儀』から心に響く言葉をご紹介します。私は現在『大人の流儀』1~10巻を持っています。このうちの第1巻から心に響く言葉を毎回3件ずつご紹介していこうと考えています。全巻を同様に扱います。

 時には、厳しい言葉で私たちを叱咤激励することがあります。反発する気持ちをぐっと堪え、なぜ伊集院氏はこのように言ったのだろうか、と考えてみてください。しばらく考えたあとで、腑に落ちることが多いと感じるはずです。

『大人の流儀3 別れる力』をご紹介します。

 ご存知のように、伊集院氏は小説家(直木賞作家)で、さらに作詞家でもありますが、『大人の流儀』のような辛口エッセーも書いています。


大人の流儀 伊集院 静 心に響く言葉 第89回

第4章 本物の大人はこう考える


「綺麗に遊んでグッドバイ」から

伊集院 静の言葉 1 (264)

「仕事というものは本来休みはないものだ。ましてや若い時は仕事を覚えようと思ったら十年、二十年は休みなしでやらなきゃ本物にはならないよ。農家や、漁師や、昔からある仕事には休みはないでしょう」
「お客さん、働き者ですね。失礼ですが、ご職業は何ですか?」
「私は、ただの遊び人だよ」
「はあ……」
 この頃、日本食が不味くなったのは、料理の職人が休日を取るからである。毎日、休みなしで仕事を覚えて、やっと客に出せるものが調理できるまで十年では足りないはずだ。
 高級品と言われる輸入ブランドのスーツやシャツのボタンがすぐに取れるのは、きちんと手仕事をしていないからだ。    

大人の流儀 3 別れる力 伊集院 静 


「綺麗に遊んでグッドバイ」から

伊集院 静の言葉 2 (265)

 やれ創作料理だ、ユニークなデザイン服だ、と言っても、まずは物をこしらえるには手順、基本をしっかり体得することだろう。頭の中だけで考え、システムだけを整えて、それで流行に乗ったのを仕事と勘違いしないことだ。
 仕事の根本は、誠実と丁寧である。このふたつを成立させるのは品格と姿勢だ。これを覚えるのに下手をすると何十年、いや一生かかる。だから仕事には揺るぎない尊厳がある。
__遊び人の言葉とは思えませんね。
 そうかい。遊んだからわかるんだよ。

                        大人の流儀 3 別れる力 伊集院 静




「愉快な男たちの話」から

伊集院 静の言葉 3 (266)

 元力士と元プロ野球選手が話す日本語ははなはだ難解なのはなぜだろうか。理由はわかっているが、ここでは書かない。
 栃乃若とはまだ彼が幕下の時代、銀座裏の焼鳥屋、T政で人形町の旦那が連れてきていた折に逢い言葉を交わした。兵庫出身の純朴な若者で、出世したら何かいたします、と酔って約束。アレヨアレヨよいう内に十両に上がり、人形町の旦那より座布団の文字を欲しいと当人より願い。初夏、半日かけて墨すり、筆を動かしてようやく一枚かたちになる。
「やっとかけた。こんなとこだな」
 かたわらにいた家人が言う。
「半日よくやりましたね。でもそれお尻に敷くんでしょう」
「………」 

                          人の流儀 3 別れる力 伊集院 静

⭐出典元

『大人の流儀 3 別れる力』

2012年12月10日第1刷発行
講談社


表紙カバーに書かれている言葉です。

人は別れる。
そして本物の大人になる。


✒ 編集後記

『大人の流儀』は手元に1~10巻あります。今後も出版されることでしょう。出版されればまた入手します。

伊集院静氏は2020年1月にくも膜下出血で入院され大変心配されましたが、リハビリがうまくいき、その後退院し、執筆を再開しています。

伊集院氏は作家にして随筆家でもあるので、我々一般人とは異なり、物事を少し遠くから眺め、「物事の本質はここにあり」と見抜き、それに相応しい言葉を紡いでいます


🔷「仕事の根本は、誠実と丁寧である。このふたつを成立させるのは品格と姿勢だ。これを覚えるのに下手をすると何十年、いや一生かかる。だから仕事には揺るぎない尊厳がある」

今ではほとんど使われなくなった言葉に、「職人芸」(専門的な修練を十分積んではじめてできる、たくみな技芸。また、そのできばえ。goo辞書の定義)があります。分かる人が見ると分かるプロの職人の仕事です。

現在は、スピード重視のため、拙速が巧緻より上という理解がされています。

ところが、料理でも服のテーラーメイドでも、短期間で職人になった人と、長年の修行を経て職人になった人の出来栄えの細部を見比べると歴然とした差に気づくことがあります。

もちろん、名前は知られていても、名前負けしている職人もいますが、その世界で名を知られた人物の仕事は一流であることは解ります。

私たちも、味覚や視覚あるいは聴覚を養っておかないと一流と二流の差は解りません。

ほんのわずかの差のようで、実はとても大きな差となっていることを思い知らされ、恥ずかしさに赤面してしまうこともあります。

「品格と姿勢」は一朝一夕には身につきません。


🔶『大人の流儀3 別れる力』について『由美子のいなくなった夏 亡き最愛の妻への想い』の中で言及しています。

伊集院静と城山三郎
『別れる力 大人の流儀3』
私が伊集院静さんに興味を持ったのは、彼の先妻が女優の夏目雅子さんであったこともありますが、『いねむり先生』という題名の小説を読み、不思議な感覚を味わい、また『大人の流儀』という辛口のエッセーを読んだからです。 

由美子のいなくなった夏 亡き最愛の妻への想い p. 212


夏目雅子さんのプロフィール



🔶伊集院静氏の言葉は、軽妙にして本質を見抜いたものです。随筆家としても小説家としても一流であることを示していると私は考えています。


<著者略歴 『大人の流儀』から>

1950年山口県防府市生まれ。72年立教大学文学部卒業。
91年『乳房』で第12回吉川英治文学新人賞、92年『受け月』で第107回直木賞、94年『機関車先生』で第7回柴田錬三郎賞、2002年『ごろごろ』で第36回吉川英治文学賞をそれぞれ受賞。
作詞家として『ギンギラギンにさりげなく』『愚か者』などを手がけている。


⭐ 原典のご紹介



クリエイターのページ


大人の流儀 伊集院 静


五木寛之 名言集


稲盛和夫 名言集


回想録


サポートしていただけると嬉しいです。 サポートしていただいたお金は、投稿のための資料購入代金に充てさせていただきます。