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【大人の流儀 伊集院 静 心に響く言葉 Vol.17】

大人の流儀

 伊集院 静さんの『大人の流儀』から心に響く言葉をご紹介します。私は現在『大人の流儀』1~10巻を持っています。このうちの第1巻から心に響く言葉を毎回3件ずつご紹介していこうと考えています。全巻を同様に扱います。

 時には、厳しい言葉で私たちを叱咤激励することがあります。反発する気持ちをぐっと堪え、なぜ伊集院さんはこのように言ったのだろうか、と考えてみてください。しばらく考えたあとで、腑に落ちることが多いと感じるはずです。

 帯に自筆で「ちゃんとした大人になりたければこの本を読みなさい」と記しています。

 ご存知のように、伊集院さんは小説家ですが、『大人の流儀』のような辛口エッセーも書いています。


出典元

『大人の流儀 1』
2011年3月18日第1刷発行
2011年7月14日第11刷発行
講談社


「正月、父と母と話す大切さ」から

伊集院 静の言葉 1 (49)

 
 私は正月を生家の、母のそばで過ごす。
 三年前までは父も健在だったので、三人で過ごした。家人は2匹の犬の移動が大変なので仙台で彼等の面倒を見てもらう。まあ正月くらいは彼女にも休みを差し上げる方がよかろうという気持ちもある。
 生家にはたいがい大晦日の夕刻に着く。
 だから私は毎年、大晦日の午後は駅のプラットフォームか空港のロビーに一人立っている。
 二十五年余り、それを続けている。
 生前の父は、正月に子供たちの姿が一人でも欠けていると不機嫌になった。姉や妹が嫁いだ後は私だけは必ず帰省した。
 一度、私が帰らない正月があり、その年の正月の父の不機嫌は凄まじかったらしい。怒りはすべて母にむく。それを知ってから私は正月は家に帰り、父のそばにいるのが自分の役割と決めた。黙ってそこに居て、父の酒の相手と、来客への挨拶をすればそれで済む。
 だから正月の旅行というものを一度もしたことがない。
 それが家の事情というものであり、それぞれ家族が引き受けるものだと考えている。

大人の流儀 1 伊集院 静           




「正月、父と母と話す大切さ」から

伊集院 静の言葉 2 (50)

 
 最初は父の不機嫌と、母の辛さを思って正月の帰省をなかば自分に義務付けていたが、十年、二十年と続けて行くと、子供たちの、息子の様子を年の初めに自分の目でたしかめておきたいという父の気持ちが少しずつわかるようになってきた。親にとって子供は何歳になっても子供である。

大人の流儀 1 伊集院 静          



「正月、父と母と話す大切さ」から

伊集院 静の言葉 3 (51)

 
 この四、五年、独り暮らしの男のなす凶悪犯罪が目立つ。後で男たちの事情を知ると、共通している点がひとつある。それは彼等が何年も実家に挨拶に帰っていないということだ。
 実の親はテレビの取材に、子供の悪業を詫びながら、この数年、逢っていないと言う。
 一人前の大人がなしたことを親にまで詫びさせるマスコミの報道のやり方にも腹が立つが、親のことを考えない子供が増えているのも事実である。

大人の流儀 1 伊集院 静          




✒ 編集後記

『大人の流儀』は手元に1~10巻あります。今後も出版されることでしょう。出版されればまた入手します。

伊集院静氏は2020年1月にくも膜下出血で入院され大変心配されましたが、リハビリがうまくいき、その後退院し、執筆を再開しています。

伊集院氏は作家にして随筆家でもあるので、我々一般人とは異なり、物事を少し遠くから眺め、「物事の本質はここにあり」と見抜き、それに相応しい言葉を紡いでいます。

🔷 今回は、「正月に父母と話す大切さ」について語っています。

私は父母がすでに他界しているので、話すことができません。
現在、実家に住んでいる私は、仏間で位牌の前で手を合わせ、生前世話になったことに対して、心の中で感謝の言葉を繰り返しているだけです。

あるいは、月に4回4人(父母、妻、姉)の月命日に墓参りした際に、両手を合わせ、頭を垂らしながら、生前の厚情に対する感謝の言葉を心の中でつぶやいているだけです。

今の私には、それだけしかできません。彼等と実際に話すことができないのです。

🔶 伊集院静氏の言葉は、軽妙にして本質を見抜いたものです。随筆家としても小説家としても一流であることを示していると私は考えています。


<著者略歴 『大人の流儀』から>

1950年山口県防府市生まれ。72年立教大学文学部卒業。

91年『乳房』で第12回吉川英治文学新人賞、92年『受け月』で第107回直木賞、94年『機関車先生』で第7回柴田錬三郎賞、2002年『ごろごろ』で第36回吉川英治文学賞をそれぞれ受賞。

作詞家として『ギンギラギンにさりげなく』『愚か者』などを手がけている。





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