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【大人の流儀 伊集院 静 心に響く言葉】 Vol.34

大人の流儀

 伊集院 静さんの『大人の流儀』から心に響く言葉をご紹介します。私は現在『大人の流儀』1~10巻を持っています。このうちの第1巻から心に響く言葉を毎回3件ずつご紹介していこうと考えています。全巻を同様に扱います。

 時には、厳しい言葉で私たちを叱咤激励することがあります。反発する気持ちをぐっと堪え、なぜ伊集院さんはこのように言ったのだろうか、と考えてみてください。しばらく考えたあとで、腑に落ちることが多いと感じるはずです。

 帯には「あなたのこころの奥にある勇気と覚悟に出会える。『本物の大人』になりたいあなたへ、」(『続・大人の流儀』)と書かれています。

 ご存知のように、伊集院さんは小説家ですが、『大人の流儀』のような辛口エッセーも書いています。



「イイ人はなぜか皆貧乏である」から

伊集院 静の言葉 1 (100)

 
 焼鳥屋ではオヤジ(二代目)が引き揚げた後、ワカ(三代目)の前で酒だけを知った顔とやる。毎晩のことなので新鮮味に欠けるというか、向上性がないというか、ただ飲んで、演歌なんかを口ずさむ。
 皆イイ人たちである。
 上京して四十数年になるが、イイ人というのはどうして貧乏なのだろうか。

大人の流儀 2 伊集院 静                               




「亡き師の面影に涙す」から

伊集院 静の言葉 2 (101)

 
 作家デビューしていっとき丸い眼鏡をかけていた時期があり、ヨーロッパに旅をしていて中国(主に香港の人たちだが)の人たちから、顔を見た途端、声を上げられ、指さされ、何事かをささやかれた。ひどい時はエレベーターの中で出逢った中国の女性がいきなり声を上げ、私の腕をつかんで泣き出したことがあった。
---いったい誰と間違えてるんだ?
 どうやら香港のコメディアンに似ていることがわかった。それは半年くらい続いたが、しばらくすると静かになった。コメディアンが亡くなったのだろうかと思った。

大人の流儀 2 伊集院 静                               



「亡き師の面影に涙す」から

伊集院 静の言葉 3 (102)

 
 香港の”陸羽茶室”という古いヤム茶の店に行った時、あらわれた店の人を見て、私は仰天した。
「先生……」
 亡くなった色川武大さんに瓜ふたつの男がそこに立っていた。亡くなって一年目だったので、死がなかなか信じられない時期だ。
---こんなところにいらしたんですか。
 その男をじっと見てたら、相手が視線に気付いてニヤリと笑った。
 笑い返した後、涙が出ている自分に気付いた。似ているのも考えものである。

大人の流儀 2 伊集院 静                               



出典元

『大人の流儀 2』(書籍の表紙は「続・大人の流儀」)
2011年12月12日第1刷発行
講談社



✒ 編集後記

『大人の流儀』は手元に1~10巻あります。今後も出版されることでしょう。出版されればまた入手します。

伊集院静氏は2020年1月にくも膜下出血で入院され大変心配されましたが、リハビリがうまくいき、その後退院し、執筆を再開しています。

伊集院氏は作家にして随筆家でもあるので、我々一般人とは異なり、物事を少し遠くから眺め、「物事の本質はここにあり」と見抜き、それに相応しい言葉を紡いでいます。

🔷 「亡くなった色川武大さんに瓜ふたつの男がそこに立っていた。亡くなって一年目だったので、死がなかなか信じられない時期だ」

色川武大(いろかわ・たけひろ)さん直木賞作家という顔を持ち、もう一つ別の顔を持っています。それは阿佐田哲也 (あさだ・てつや)というプロ雀士です。

第79回直木賞を 『離婚』 で受賞


私はマージャンをやりませんので、阿佐田哲也さんのことは伊集院さんの小説を読むまで知りませんでした。かなり有名で強いプロ雀士だったそうです。

『いねむり先生』 に実名の色川武大さんが主人公で登場します。この小説を読むと不思議な感覚に囚われます。 いねむり先生はナルコレプシーという病に罹っていました。 その症状によるものです。 自伝的小説です。

阿佐田哲也という名前の由来は面白いです。「朝だ! 徹夜だ!」と徹マン(徹夜マージャン)をよくやっていたことから名付けたそうです。




🔶 伊集院静氏の言葉は、軽妙にして本質を見抜いたものです。随筆家としても小説家としても一流であることを示していると私は考えています。


<著者略歴 『大人の流儀』から>

1950年山口県防府市生まれ。72年立教大学文学部卒業。

91年『乳房』で第12回吉川英治文学新人賞、92年『受け月』で第107回直木賞、94年『機関車先生』で第7回柴田錬三郎賞、2002年『ごろごろ』で第36回吉川英治文学賞をそれぞれ受賞。

作詞家として『ギンギラギンにさりげなく』『愚か者』などを手がけている。







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