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【大人の流儀 伊集院 静 心に響く言葉】 Vol.48

大人の流儀

 伊集院 静さんの『大人の流儀』から心に響く言葉をご紹介します。私は現在『大人の流儀』1~10巻を持っています。このうちの第1巻から心に響く言葉を毎回3件ずつご紹介していこうと考えています。全巻を同様に扱います。

 時には、厳しい言葉で私たちを叱咤激励することがあります。反発する気持ちをぐっと堪え、なぜ伊集院さんはこのように言ったのだろうか、と考えてみてください。しばらく考えたあとで、腑に落ちることが多いと感じるはずです。

 帯には「あなたのこころの奥にある勇気と覚悟に出会える。『本物の大人』になりたいあなたへ、」(『続・大人の流儀』)と書かれています。

 ご存知のように、伊集院さんは小説家ですが、『大人の流儀』のような辛口エッセーも書いています。



「私はなぜ仙台を離れなかったか」から

伊集院 静の言葉 1 (142)

 今日(三月三十一日)で震災後二十日目である。
 昨日、隣の空家に石巻いしのまきから避難してきた家族がやって来た。家人がカレーライスを持って行った。たいそう喜ばれたらしい。家も失ったらしいが、よほどこれまでが大変だったのだろう。
 上京した折、関西にいる後輩に不足しているものを送ってもらえないかと連絡すると、数日後、定宿のホテルに続々と物資が届きはじめた。それを車に積んで持ち帰った。家人は近所、避難所に届けていた。
 この人、こういうことが自然とできるからエライもんだ。私などは善行に慣れていないので、胸の隅で偽善をやってるんじゃないかという気持ちが残る。しかし偽善であっても、できる救いをかたちにしていると、偽善はいつの間にか失せて、懸命に行動している自分があるのだろう。    

大人の流儀 2 伊集院 静                               




「私はなぜ仙台を離れなかったか」から

伊集院 静の言葉 2 (143)

 もう何年も前からわかっていたことだが、東京にはすでにコミュニティーは存在しないのだろう。皆仮住いと思ってるに違いない。
 自分さえよければと買い占めに走る行動を卑しいとは誰も思わない。
「だって隣りの人もあっちの人も買いだめてるんだよ。どうしてこっちだけが我慢しなきゃならないんだよ」
 それでも我慢するのが人間だろう。
 それをわからせるのが大人の男のツトメじゃないのか。買いだめた女房、娘に、
「何やってんだ。今、飢えたり、困るわけじゃあるまいに」
 と叱りつけないと。 

大人の流儀 2 伊集院 静                               



「私はなぜ仙台を離れなかったか」から

伊集院 静の言葉 3 (144)

 原発事故の現状、真相が見えない。フランスの友人から電話が入り、
「家族を連れて避難してきなさい。受け入れの態勢はできているから」
 と痛切な声で言われた。
「我家は九十キロ離れてるから情報を判断して身体を守ると家人と決めた。子供もいないし、犬たちのこともある。ともかく作家が国を捨てられないよ。それじゃ印税をもらった人に顔がむけられない。どうでもダメなら連絡するよ。ありがとう」   

大人の流儀 2 伊集院 静                               


出典元

『大人の流儀 2』(書籍の表紙は「続・大人の流儀」)
2011年12月12日第1刷発行
講談社




✒ 編集後記

『大人の流儀』は手元に1~10巻あります。今後も出版されることでしょう。出版されればまた入手します。

伊集院静氏は2020年1月にくも膜下出血で入院され大変心配されましたが、リハビリがうまくいき、その後退院し、執筆を再開しています。

伊集院氏は作家にして随筆家でもあるので、我々一般人とは異なり、物事を少し遠くから眺め、「物事の本質はここにあり」と見抜き、それに相応しい言葉を紡いでいます。

🔷 「わからせるのが大人の男のツトメじゃないのか。買いだめた女房、娘に、
『何やってんだ。今、飢えたり、困るわけじゃあるまいに』
 と叱りつけないと」

今、こんなことを言える男が何人いるでしょうか?

「お父さんは世間知らずなのよ」
「パパ、ばっかじゃないの!」

と言われるのがオチなので、言えないと推測します。

アナクロニズム(時代錯誤)かもしれません。
それでも気概のある男は時代が変わっても求められています。

でも、私にはできません。
妻は他界し、娘は結婚して家を出ました。

仮に、二人がいても言えなかったかもしれません。





🔶 伊集院静氏の言葉は、軽妙にして本質を見抜いたものです。随筆家としても小説家としても一流であることを示していると私は考えています。




<著者略歴 『大人の流儀』から>

1950年山口県防府市生まれ。72年立教大学文学部卒業。

91年『乳房』で第12回吉川英治文学新人賞、92年『受け月』で第107回直木賞、94年『機関車先生』で第7回柴田錬三郎賞、2002年『ごろごろ』で第36回吉川英治文学賞をそれぞれ受賞。

作詞家として『ギンギラギンにさりげなく』『愚か者』などを手がけている。







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