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【大人の流儀 伊集院 静 心に響く言葉 Vol.7】

大人の流儀

 伊集院 静さんの『大人の流儀』から心に響く言葉をご紹介します。私は現在『大人の流儀』1~10巻を持っています。このうちの第1巻から心に響く言葉を毎回3件ずつご紹介していこうと考えています。全巻を同様に扱います。

 時には、厳しい言葉で私たちを叱咤激励することがあります。反発する気持ちをぐっと堪え、なぜ伊集院さんはこのように言ったのだろうか、と考えてみてください。しばらく考えたあとで、腑に落ちることが多いと感じるはずです。

 帯に自筆で「ちゃんとした大人になりたければこの本を読みなさい」と記しています。

 ご存知のように、伊集院さんは小説家ですが、『大人の流儀』のような辛口エッセーも書いています。


出典元

『大人の流儀 1』
2011年3月18日第1刷発行
2011年7月14日第11刷発行
講談社


「大人はなぜ酒を飲むのか」から

伊集院 静の言葉 1(19)

 
 私は若い人に無理に酒を飲みなさい、とは言わない。体質もあるだろう。自分が二日酔いで苦しんでいる時など、酒のない国に生まれりゃよかった、と思うこともあるくらいだ。
 上司や、恩師、仲間と過ごすのに酒が話の潤滑油になるのも本当だろう。
 しかしそんなことではない。私が酒を覚えていたことで一番助かったのは、どうしようもない辛苦を味わわなくてはならなかった時、酒で救われたことだ。
 眠れない夜もどうにか横になれた。どんな生き方をしても人間には必ず苦節が一、二度むこうからやってくる。それがないのは人生ではない。
 人間は強くて、弱い生きものだ。そんな時、酒は友となる。

大人の流儀 1 伊集院 静



「あなたが生きているだけで・・・・・・」から

伊集院 静の言葉 2(20)

 
 気象予報で天気図を説明するが、要するに風が吹かないのである。
 風が吹かないから雨も降らない。
 ”五風十雨ごふうじゅうう”の当り前の気候が訪れないから、これほど暑い。
 稲田ではとうとう水を入れはじめた。そうしないと稲が全滅する。
 ”五風十雨”はわかりますね。わからないのか? 書けそうで書けない漢字などどうでもいいから、こういう基本の言葉を大人の男は学んでおかないと。これは農作業に適した気候のことを表わす言葉で、五日ごとに風が吹き、十日ごとに雨が降ることで、これが普通の天候だという意味だ。
 この天候の順調さをたとえに、今、天下は太平に治まっているの意味となり、細かいことに憂いを持たず悠々と生きればいいとの教えになっている。

大人の流儀 1 伊集院 静



伊集院 静の言葉 3(21)

 
 立川談志をひさしぶりに観に行った。
 会場は満杯だ。皆談志のファンである。
 声は少ししわがれていたが、前半のジョーク連発の話も相変わらず面白いし、後半の落語も良し。病上がりでこれだけならと安心。客は皆、師匠の元気な姿を見ることができただけで嬉しそうだった。
 --------生きている談志がそこにいる。それでいいのだ。いい連中もまだ日本にいる。

大人の流儀 1 伊集院 静




✒ 編集後記

『大人の流儀』は手元に1~10巻あります。今後も出版されることでしょう。出版されればまた入手します。

伊集院静氏は2020年1月にくも膜下出血で入院され大変心配されましたが、リハビリがうまくいき、その後退院し、執筆を再開しています。

伊集院氏は作家にして随筆家でもあるので、我々一般人とは異なり、物事を少し遠くから眺め、「物事の本質はここにあり」と見抜き、それに相応しい言葉を紡いでいます。

🔷 五風十雨ごふうじゅううという言葉は、この本で初めて知りました。まだまだ勉強不足です。

立川談志の落語で『芝浜』は傑作です。談志が「神様が降りてきた」と言ったそうです。一度は聴いて頂きたい落語です。

落語は現代日本人が失いつつある人情をもう一度思い出させてくれるものです。分からない人は分からなくて構いません。




伊集院静氏の言葉は、軽妙にして本質を見抜いたものです。随筆家としても小説家としても一流であることを示していると私は考えています。


<著者略歴 『大人の流儀』から

1950年山口県防府市生まれ。72年立教大学文学部卒業。

91年『乳房』で第12回吉川英治文学新人賞、92年『受け月』で第107回直木賞、94年『機関車先生』で第7回柴田錬三郎賞、2002年『ごろごろ』で第36回吉川英治文学賞をそれぞれ受賞。

作詞家として『ギンギラギンにさりげなく』『愚か者』などを手がけている。




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