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    精神科医R.D.レインの生とその思想について。 いまのところ考えている目次… I 思想 1. Simply Human 2. Schizoid way of life 3. Spiral / Nexus 4. 自由へ 5. プレゼンス II 生

最近の記事

精神科医R.D.レイン論 2-① Schizoid way of life

<身体をもつこと>、その困難 私は、この身体を、生きる。 ごく当たり前のこととしてやりすごしている、この現実。 そのようなあり方を、レインは「身体化されている embodied」と表現している。 「主体的に、能動的にならねば…」といったことなど意識せぬうちに、いつの間にか、そのように生きている。 しかし、人が「身体化されている」ということ、身体の身体性について、レインがあらためて語ろうとするのは、それが実際には「当たり前」のこととは言えないからである。人は――殊に「精神を

    • 精神科医R.D.レイン論 1-⑤ 愛のポリティクス

      賞賛する者からも、批判者からも、レインは「”分裂病”なる病名はただのレッテル貼り」だと主張した「反精神医学運動の旗手」である、などと語られるのが常であり、それはもはや戦後の精神医学史を語る際のクリシェになっている。しかし彼自身は、「自分は”反精神医学者”ではない」と明言していた。 そして、ここまでみてきたようなレインの言葉をなぞってゆくならば、そのような否認が決して日和見的なものではないことが見えてくるだろう。たしかに、著作の中には、一文を取り出してしまうと、「反精神医学的

      • 没後15年: 飯島愛『Ball Boy & Bad Girl』のために

        『Ball Boy & Bad Girl』とは… 突き抜けたおちゃらけっぷり。かと思えば、そこはかとなき透明感と寄る辺なさが……そんな断章で綴られる寓話、それが飯島愛(1972-2008)の遺作、『Ball Boy & Bad Girl』(以下『B&B』)。 この作品が生み出されるきっかけとなったのは、おそらくは飯島からのリクエストで企画された押井守監督との対談(『お友だちになりたい!』所収)。アニメーターになりたい、監督をやりたい、といった夢を抱いていた飯島が、押井守に

        • 精神科医R.D.レイン論 1-④ 方法としてのアマチュアリズム

           一個の「有機体」から相互的な「人間(person)」へのパースペクティヴの転換、そして、その往還、あるいは二重視。  レインにとってそれは、単なる認識論的な議論などではなく、治療的な営為そのもへと通じるものでもあった。半生を振り返った自伝においては、このようにも述べていた。  同じものを別様に見ること(seeing the same differently)、それがもたらすポジティヴィティを信ずること。  しかし、ならば、「別様に見る」と言っても次のような場合はどうだろう

        精神科医R.D.レイン論 2-① Schizoid way of life

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          精神科医R.D.レイン論 1-③ サリヴァン/レイン~Simply Human

          人として理解する――3つの位相 「シンプリー・ヒューマン」。 これは、レインが一度ならず引用している、アメリカの精神科医ハリー・スタック・サリヴァンの言葉である。サリヴァンは、当時の主流派であった精神分析のみならず、学際的なバックグラウンドを持ち、戦前のアメリカ精神医学をリードした存在であった。レインにとっての基本的な視点のひとつである「inter-personal」ということを明確に打ち出したのも、サリヴァンが先駆であり、レインも少なからず影響を受けていたと思われる。そん

          精神科医R.D.レイン論 1-③ サリヴァン/レイン~Simply Human

          精神科医R.D.レイン論 1-② 人を人として見ること

          人を人として見ること、その困難 ~ 医学的メタファー 今日では、精神科に限らず医療全体において、「患者さんを人としてみる、その人全体をみる」といったフレーズは、耳に心地よい言葉として、すでに違和感なく受け入れられている。しかし、そのフレーズはいったい何を意味しているのだろうか。それが、単に「サービス業化した医療」を意味するのではないとすれば。 「人を人として見る」ということをあまりに安易にとらえてはいないか、「人を人として見る」ことの困難をあまりに軽く見積もってはいないか、

          精神科医R.D.レイン論 1-② 人を人として見ること

          精神科医R.D.レイン論 1-① クレペリニズムの裏面へ

          クレペリンの講義にて 1900年頃のドイツ、病院の講堂にて。 統合失調症や躁うつ病の疾患概念をまとめあげるなど、今日の精神医学の礎を築いたエミール・クレペリン教授は、「緊張病性興奮」――今日で言う統合失調症の一亜型――と診断された一人の患者を講堂に招き入れる。その昔は、医学教育のために、講義の舞台で実際に患者を診察してみせる、といったことがしばしば行われていたのだった。 そして、クレペリンはこう付け加える、「彼は疑いもなくすべての質問を理解したけれども、有益な情報の一片

          精神科医R.D.レイン論 1-① クレペリニズムの裏面へ